138 スプラウト

138 スプラウト



専門学校から戻ってきた私たちに、田ノ倉さんが出してくれた紙。

そこに書いてあるのは、『スプラウト』という内容だった。


「『タップ企画』とのコラボと同じ契約料で、先生方には納得いただこうと思います」


漫画家の先生たちへ渡す金額は、最初の計画と変わらない……

それって。


「声優は学生たちの力を借りましょう。
もちろん、メインキャラに関してはプロに頼みます。
しかし、全てをお願いするよりは経費も浮きますから、それを私たちが使います」

「私たちが使うとは……」

「これを見てください」


田ノ倉さんは、そういうと用紙に書いた内容を語りだした。

『スプラウト』とは、『新芽』の意味が入っている。

これからこの業界を目指す人たちを、企業として応援するもので、

コラボをお願いした学校に、入学希望をする学生、または在学生に対し、

学校での授業料などを援助するというものだった。

『秋月出版社』と『映報』の名前がもちろん残る。


「実際、学びたくても学べないという学生が多いことも事実です。
またせっかく入学しても、親の事情でやめる学生もいます。
夢を持ってもそれを諦めなければならない『新芽』たちを励ますこと。
それが『スプラウト』です。社会貢献をするということは、
今、企業に求められていることの一つで、
同じような商品をたくさん提供する会社がある以上、差をつけるのは、
こういったところだと思いました」


田ノ倉さんは、私たちに学校の見学を許可した後、

すぐに、この企画に参加する先生方のところへ出向き、

『スプラウト』を承認してもらえるよう、動いてくれた。

京塚先生も、そして園田先生も、

『新芽』のために、自分たちの作品の利益を使うことに納得してくれたという。




速い……




これだけの先生方が、すぐにOKを出してくれたなんて。

それだけでも驚かされる。


「本当にこれだけの先生方が、この内容にOKを出したのですか?」

「はい。仮の内容だと言うことで、正式なサインにはなりませんが、
全ての先生方に、直筆で名前を書いていただきました」


そう言いながら田ノ倉さんが目の前に出した紙には、

確かに先生方のサインが残っている。

そう、園田先生の少し右上がりの字、これは間違いない。


「どうだろう、品川さん。こういった企画を『映報』へ戻って、
裕介……いや、副社長と検討してみてもらえないかな」


売り上げという見た目の金額とは違うが、

『社会貢献をする企業』というイメージアップ。それが田ノ倉さんの狙いだった。

品川さんは、すでに先生達へも話が進んだという事実を聞き、

わかりましたと頭を下げ、上野さんもそれに続く。

東原さんは、みんなの前に出て意見を述べた田ノ倉さんのことを、

ほっとした表情で見ていた。




「過去の作品から、未来への道が続くのであれば、
それほど素晴らしいものはないと思います」




田ノ倉さん……なんだか楽しそう。

まだ、『映報』側の許可が下りるかどうかもわからない。

それでも、私は田ノ倉さんが少し前を向いてくれたことがわかり、

何よりも嬉しかった。





今回の出来事は、大きな事件だった。

田ノ倉さんが、私の意見に賛同し、

『映報』のメンバーをスタート位置まで戻そうとしてくれた。


『準備室』が立ち上がった時には、そこにいるのさえ辛そうな目をしていたのに、

今日は……



私がよく知っている、笑顔の眩しい田ノ倉さんに、近付いてくれた……

これは絶対に報告しないと。





「菅沢さん! 菅沢さんはいませんか?」

「あぁ、和ちゃん、どうしたんだよ、今日はずいぶんゆっくりだね。
もうランチスイーツの時間は終わったよ」


ゆっくり? 私、そんなに早い時間から入り浸ってましたっけ?

そりゃ、菅沢さんに怒られるわけだ。


「今日はあれこれ忙しかったんです」


『BOOZ』編集部をのぞくと、細木さんと及川さんが特集ページの記事割をしていた。

今回は、セクシータレントさんの特集なのか。

うわぁ……色っぽい表情。私には無理だわ。


「郁は今日、華乃ちゃんと仕事だよ。ほら、写真集の撮影が入っているし、
その後もオレンジスタジオに寄ってくるようなことを言っていたし」

「あ、そうなんですか」


写真集かぁ。そうだった、日向淳平のドラマとコラボで写真集が出るんだっけ。

私がチーフだったけれど、結局、菅沢さんに負担がかかっている。


「それならここで待ちます。報告したいことがあるので」

「そう……俺たち6時には出ちゃうけれど、大丈夫?」

「はい」


その宣言どおり、仕事を終えた細木さんは、同窓会があるからと編集部を出て、

PCショップに部品を取りに行くという及川さんも、その後を追うように出て行った。

編集長は会議でまだ本社みたい。

ただ座って待つのもつまらないので……と、いただきものが隠されている場所で、

美味しそうなものを探っていると、玄関の開く音がした。



菅沢さんだ……



そうだ、このままここに立っていたら、席に着く前に通るだろう。

背中にバンッと手でもついて、ちょっと驚かせて見ようかな。

怒るかもしれないけれど、たまには……そんな顔も見てみたい気がする。


「入れよ」

「うん……」


入れ? 誰? 誰か来たの?


「郁……」


あ、あの声は華乃さんだ。

仕事が終わって、立ち寄ったってことだよね。


「落ち込む気持ちもわかるけれど、これくらいのことがあるのは、
華乃だって予想していただろ」

「そうだけれど……」


どうしよう、ここで出た方がいいよね。隠れているなんてさ、ちょっと……

盗み聞きしているように、思われても嫌だし……


「突き放すような言い方、しないでよ」


柱の影から出たとき、見えた光景は、

華乃さんが菅沢さんに抱きつく瞬間だった。






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コメント

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頑張ってる^^

オモ、菅沢さんと華乃さんが・・・(@@;)
と、これはひとまず置いといて(笑)

今回、和ちゃん頑張ったね
テラスの君も以前のような輝きが戻ってきたようで
良かったです

でも、和ちゃんの気持ちは一体どこに向かっているのか・・・
最後の場面がどう影響してくるのか・・・

さて、どこに

yokanさん、こんばんは

>今回、和ちゃん頑張ったね
 テラスの君も以前のような輝きが戻ってきたようで
 良かったです

はい、諒もまた、顔をあげて進み始めたようです。
和も嬉しいでしょう……

あっちが動けば、こっちが状態です。
『最後の場面』
続きは今回で。