141 いざ、敵陣へ

141 いざ、敵陣へ



タクシーが走りだして、何分くらいたっただろう。

田ノ倉さんが横で、何やら用紙を取り出した。

『スプラウト』を説明するために集めたような、細かい資料。


「飯島さん」

「はい」

「僕はこの数ヶ月、あなたにどういう顔をして会えばいいのか、わからずにいました。
事故があったとはいえ、記憶が混乱するし、それがやっと戻った時には、
自分が忘れていたという事実に、申し訳なさばかりが膨らんで。
正直、『準備室』へ来ると聞いたときも、やめて欲しいと思ったくらいです」


田ノ倉さんの本音。

過去の記憶がやっと戻ってきてから、すぐに実玖さんのことがあって、

戻ってない振りをしていたことを、菅沢さんに見抜かれた。

それは確かに、迷ったと思う。


「でも、『準備室』で変わらないあなたを見ていたら、
少しずつですが、固い何かが壊れていく気がしました。
自分ももう一度……と」


田ノ倉さんの前を見ていたはずの横顔が、正面に変わる。

二人で月を見ながら語った日のことを……



思い出す。



「起きた出来事を無くすわけにはいきませんが、
またあらためて築き直すことは、出来る気がして……」



あらためて、築く日々。



田ノ倉さんはそれだけ言い終えると、ポケットからペンを取り出し、

書類に何やら書き込み始めた。





私達を『映報』で待っていてくれたのは、

『山手線カルテット』と、阪井兄妹だった。

副社長を務める裕介さんは、ズルくってずうずうしい実玖さんとは違い、

思っていたよりも発展的な考えを持つ人で、

『スプラウト』にも前向きな評価をしてくれる。


「タマゴの応援ということですか」

「はい……」


私は、学校を訪れた日、この目で見たことや感じたこと、それを正直に話した。

目先の利益とはならないが、長い目で見ていけば、決して会社に損はない。

同じようなことをしている企業がない以上、それは大きなプラスにもなるはずだ。

田ノ倉さんが用意してくれた書類に目を通している副社長。


「これ、諒が考えたんだろう」

「『スプラウト』自体は、ここにいる飯島さんの意見から浮かび上がったものだ。
具体的な方法論は、僕が形にしたけど」

「へぇ……」


この二人、同級生なんだね。

裕介さんって、あまり実玖さんには似ていないなぁ。

さて、答えのほどは……


「おもしろいんじゃないかな。
金銭ではないにせよ、『映報』の名前が上がることは間違いないし」

「お兄ちゃん」


変化を恐れたのは、副社長である兄の隣にいた実玖さんだった。

田ノ倉さんと私が、一緒に現れたことにも不満そうな顔をしたし……


「実玖は、この企画に反対なのか?」

「だって、もう今の状態でほとんど話が済んでいるようなものなのよ、
どうしてひっくり返すようなこと……」

「よりよい企画が上がれば、再検討する。そんなことは常識だろう」


副社長、いえいえ、裕介さん。

あなたの妹さんは、私がからんでいることがとっても、とっても嫌なのだと思いますよ。


「実玖は『スプラウト』の何がいけないと言うんだ、具体的に言ってみろよ」

「何がって」

「『タップ企画』とは、別の内容で協力が出来る。
しかしこの『スプラウト』は『秋月出版社』とだから出来る内容だ。
僕はなかなかよく出来た話だと思ったけれど」

「でも……」


それでも納得できないという顔をしたものの、実玖さんの反論は続かない。

時間だけが過ぎていく。


「実玖、具体的に意見の提示が出来ないのなら、黙っていろ。
だから女はダメだ、目先のことしか見られない。
お前は表舞台に出てこなくていい、この企画には向かないよ」

「裕介、そう上から言い切るなよ」


すかさず田ノ倉さんがフォローした。

兄妹だからだろうけれど、それにしても裕介さんって、ハッキリした人だな。

女はダメだとか、それが当たり前のように言われてしまうと、腹立たしい気もするわ。

私も一応女ですし。


「いや諒。細かいことばかり気にしていると、大きなものが見られないんだ、
結局、無駄ばかりになる。だから実玖は……」

「あの……」



あぁ、和、また余計なことを言おうとしているでしょ、あなたは。

ここは『映報』ですよ、あなたのテリトリーではないんです。


「なんですか」

「女性だから向かないとか、細かいことは無駄だとか言われると、
同姓として黙っていられません」


目の前に座る『山手線カルテット』は、目を大きくさせて私を見る。

その中から品川さんが、一歩前に出てきた。


「飯島さん、誰に言っているのですか」

「誰って、阪井さんです」


『あなたが意見を言える相手ではないですよ』という、無言の光線が、

『カルテット』からビームのように飛んで来た。

私は怪獣ではないので、そんなものには倒れません。


「細かいところを見ている人がいるからこそ、大きなことが動きます。
この企画を、ここまで動かしてきたのは実玖さんの力が大きいと、
東原さんからも聞いていますし」


あぁ……確かに、そう、確かに聞いたけれど、

どうして私が、実玖さんをかばうのよ。


「飯島さん」

「はい」

「あなたに、全てがわかったようなことは言われたくありません」


実玖さんはそういうと席を立ち、会議室を出て行ってしまった。

別に、感謝して欲しいわけではないけれど、

そこまで意地になって否定しなくてもいいでしょうに。




ほら、この場に冷たい風が流れてしまう。




「放っておけばいい。あいつの思い通りにならないのが嫌なのでしょう。
『スプラウト』の内容は理解出来ました。その方向で行きましょう。
品川さん」

「はい……」

「『タップ企画』との別コラボ、君たちの方でアイデアを出してくれ」

「はい」


副社長の裕介さんからOKが出たことで、

企画は、大きな修正をしながら前へ進むこととなった。



実玖さんは、私たちが帰るまで、姿は見せないまま……






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