148 大きな光

148 大きな光



「ただいま」

「お帰り、和ちゃん。ねぇ、見てみて。
陽君のお母さんから、美味しそうなお肉が届いたの」

「お肉?」

「そうなのよ、真空パックになっていて、これ『すき焼き』にしたらいいかなって。
ねぇ、明日にでも菅沢さん呼んであげたら?」



菅沢さん?



「あ、おばさん。菅沢さん今、日本にいないのよ、カナダなの」

「カナダ? あら、取材?」

「ううん、1ヶ月の休暇を取ってカナダへ旅行中。
ほら、一番のお荷物が少し進歩したから、肩の荷が下りたんじゃないの」

「一番の荷物って?」

「私よ、私」


話の内容がつかみきれていない敦美おばさんの横を通り、2階の部屋へ向かう。

襖を閉めてバッグを下ろしたら、ドッと疲れが出た気がした。


今日のアシカ部長と、田ノ倉さんの話を聞いていたら、『準備室』の役割も、

そろそろ終わりって気がしてきて……


「『MELODY』かぁ……」


田ノ倉さんが事故に遭って、私の記憶を沈めてしまってから、

私はずっと、心の中にポカリと穴が開いた気がしていた。

それは田ノ倉さんでしか埋められなくて、もう一度あの頃が戻らないと成り立たなくて、

頑張ってさえいればきっと、いつか帰ってくるものだと信じていた。



『ケ・セラ・セラ』



でも、苦しむ田ノ倉さんを見ているうちに、元に戻すことなど必要なくて、

そこからまた一歩、歩き出せるようになればそれでいいと考えを変えた。

『過去』にこだわることなく、『今』を生きていこう。


そして、田ノ倉さんがまた、戻ってきてくれた。

あの頃と同じように優しくて、でも強い芯はしっかりと持っていて、

見ているだけでとても頼りがいのある、『王子様』が戻ってきてくれた。

実玖さんも非を認めてくれたし、『もう一度』に何も障害はないはずで。



だとしたら、空いていた穴は埋まるはずなのに……

空しさは無くなって、嬉しさだけが出てくるはずなのに。





私は……





空いてしまった穴を埋めようと必死になっていたけれど、

実は、私を照らしていた光りがないことに、気付いた気がして……

ここのところ……





気合いに反比例して、寂しさばかりが、毎日大きくなっている。





次の日、いつもより早く起きて、駅とは反対方向に坂道を登って行く。

頂上に立ち、そこから下り坂を進み、あるマンションの前に立った。



一度だけ来たことがある、菅沢さんのマンション。



まだ、陽君がこっちにいた頃、熊本へ行く前に、

津川のおじさんたちと一緒に招待してもらったっけ。



カーテンはしっかり閉まっていて、灯りも見えない。

菅沢さんは、本当にこっちへ、戻ってくるのだろうか。

もう一度、会えるのだろうか。

二度と、会ってもらえないなんてこと、ないのだろうか。





「おはようございます」

「あ、飯島さん、完成しましたよ、第1弾」

「本当?」


『準備室』は、朝から大盛り上がりだった。CMの話もあり、

さらに京塚先生の懐かしい作品が、完成して映像とともに蘇る。

声優にチャレンジした学生たちの名前もしっかり表示されていて、

まずは通販で動くことが決定した。


「レンタルの方からも、結構問い合わせがあるんですよ」

「そうなんですか」


『山手線カルテット』の目黒さんは、鳴り続ける電話に追われ、

東原さんは、さっそく京塚先生のところへ持って行こうとバッグを手に取った。

アシカ部長は、社長に報告するための書類を作る。



よし、『BOOZ』のみなさんに、報告しないとね。



私も負けずに、作品を掴み、『手をたたきましょう』の横断歩道を渡り、

『BOOZ』へ向かうと、編集長がソファーで接客中だった。



……相手は、樋山さん



「事務所の方にも、OKをいただきました。あとは印刷にまわしていただいて、
日向淳平のドラマが終了する少し前に、販売にいけたら」

「あぁ、そうだね。その頃には郁も戻ってきているだろうし」



菅沢さんの名前。




「あぁ、そうでしたね、勝手にカナダになんて旅行へ行ってしまって。
帰ってきたらこき使わないとダメですよ、編集長」

「そうだな」

「郁は向こうで毎日、牛や馬の世話をしているそうですから」




樋山さん……

菅沢さんと連絡、取っているんだ。




「和ちゃん、どうしたんだよ」

「あ……おはようございます」


樋山さんの視線がこっちを向いた。

頭だけ下げて、細木さんのところへ向かう。

『準備室』が動いたこと、ちゃんと報告して、ここへ来た意味があることを、

わかってもらわないと。


「ほぉ……これかぁ」

「はい」


編集長も興味を示してくれて、ソファーからこちらへ向かってくる。

作品を真ん中に、小さな輪が出来た。




『これかぁ……諒が必死にやったわりには、こじんまりしたものだな』




なんて、嫌味の一つでも、言ってくれるんだろうか。

ここに菅沢さんがいたとしたら……


「飯島さん」

「はい」


帰り支度を終えた樋山さんが、私を手招きする。

なんだろう、この間、ここへ来て、菅沢さんに弱音を吐いていたときとは、

全然表情が違う。


自信に満ちていて、何もかもうまくいっているような……


「ねぇ、『準備室』が一段落したら、うちの事務所に遊びに来ない?」

「……はい」


『嫌です』という理由もなく、テンポ遅れで返事をしちゃった。


「待ってる」


樋山さんはそれだけを言うと『BOOZ』メンバーに挨拶をし、編集部を出て行った。






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