150 二回目の言葉

150 二回目の言葉



園田先生の仕事場。

今日も相変わらず、アシスタントさんたちが忙しそうに動いている。

目の前のデスクで描かれているのは、『水蘭』の背景。


「OK、OK、諒が納得しているのなら、なんでもOKなの」

「園田先生、そういう適当な返事はやめてください。権利問題ですよ」

「いいって言っているでしょ」


作品の条件、スケジュールに関しては、田ノ倉さんの説明で全て成り立つ。

園田先生も全面的に受け入れるつもりだし……



『水沼蘭』のフィギュアか……



「ねぇ、飯島さん、何よ、『MELODY』に異動だって?」

「あ……はい」

「そうなんだ、よかったわね、入社して1年でしょ、大出世じゃないの」

「……はい」


成り行きで返事をしてしまった。

『BOOZ』から『MELODY』への異動って、出世なんだろうか。


「『水蘭』伸ばしてもいいって言ったのに、郁は約束どおり1年でって言うから、
秋くらいには、また『MELODY』へ戻るつもりなの。よろしくね」

「……はい」


そうなんだ、園田先生も『BOOZ』から離れてしまうんですね。

となると、『BOOZ』の連載、誰がやるんだろう。

『夢尾花』先生? いや……でも……


「飯島さん」

「……はい?」

「すみません、京塚先生の完成品、持ってきていただけましたよね」

「……あ、はい、はい、今出します」


いけない、いけない。何『BOOZ』のことばかり考えているんだろう。

今の私は『準備室』の一員だった。


「これです」

「へぇ……結構しっかり作るのね」

「それはそうですよ、『秋月出版社』と『映報』の提携ということで、
話題になりますから」


いつもと同じように、美味しいお菓子をいただいたけれど、

いつもと同じような雰囲気では、いることが出来なくて……




園田先生の仕事場を出て、田ノ倉さんの車に乗り込んで、

街の流れる景色を見ながら……



私は……



『菅沢さんはなんとかもっと上の世界に送り出したいと……』

『入社して1年でしょ、大出世じゃないの……』



上にいけることって、出世することって、世の中的には嬉しいことだよね。

大好きなお酒でも買ってさ、乾杯でもしたくなるような……



……どうしてそんなふうに思えないのだろう。



「このまま食事に行きましょう」

「……はい」


ん? また成り行きで返事をしてしまった。

今、食事って言いましたよね、田ノ倉さん。


田ノ倉さんは、私の戸惑いなど気にしていないのか、次の信号を右に曲がり、

緑の木々が並ぶ街並みを走り続け、オープンテラスのある店へ入ってくれた。

少しだけ坂を登った場所にあるその店は、賑やかな街を見下ろすことが出来る。


直接日差しを受けると日焼けしそうだけれど、木陰が上手に熱を払うので、

外に座ることがとても気持ちいい。


「1週間くらい前、実玖が家に来ました」


実玖さんが……どうしたんだろう。


「飯島さんと話をしたこと、それに今まで自分がしてきた行動を、
僕に謝罪してくれました」


田ノ倉さんに謝罪……

実玖さん、本気で変わろうとしているんだ。


「僕も、実玖に謝りました」


田ノ倉さんは、幼い頃から互いを知りすぎていて、

遠慮がない部分があったと、そう話をつけ足してくれた。

どういう内容だったのかまでは語らないけれど。

それを私が聞く立場ではないと思うし……


「直線を走っているつもりが、いつのまにか遠回りしていて、
さらに迷い道に入り込んでしまった気分でしたが、やっと……」


田ノ倉さんの視線が、木漏れ日に向かう。


「また、本来進むべき道に、戻って来られた気分です」


戻って来られた気分って、事故が起こる前という意味だろうか。

二人で笑いあった日、眩しいあなたの笑顔に心臓がドキドキしていたあの頃を、

取り戻すという意味でしょうか。


「飯島さんと仕事をして、あらためてあなたの素晴らしさに気付きました。
目の前の出来事に、自ら立ち向かって、諦めることなく進んでいく。
本当に、あなたを見ていることで、たくさんの勇気をもらいました」


膝に置いた手が、なぜか少し震えている。

言葉を持たない私の鼓動が、ハッキリと意思表示しているのだろうか。




「あなたが好きです。もう一度、僕を支えてくれませんか」




田ノ倉さんの告白。

こんな言葉を、もう一度聞くことが出来るなんて……



漂う緊張感などわからないウエイトレスが、

当たり前のように頼んだ料理を届けに来る。

今日のランチがどんな材料で、どんな調理法なのか、

マニュアルどおりに語ってくれた。


お皿が3つ並んで、アイスコーヒーが置かれて、ミルクや砂糖が真ん中に来ると、

すっかりランチの支度が整って……


「食べましょう、せっかくの料理ですから」

「……はい」

「今の返事は、後からで構いません。
今、目の前にあることを楽しまないと。『ケ・セラ・セラ』ですからね」



『ケ・セラ・セラ』







気持ちが前向きならば、神様は必ず微笑むよね!
和の『ケ・セラ・セラ』 な毎日を、応援してください。
本日も励ましの1ポチ、よろしくお願いします ★⌒(@^-゜@)v ヨロシクネ♪

コメント

非公開コメント