151 今思うこと

151 今思うこと



『あなたが好きです。もう一度、僕を支えてくれませんか』



田ノ倉さんは、食事の後も告白について触れることはなくて。

天気のことや、新しい作家さんのことなど、関係ない話をしてくれた。

渋滞に巻き込まれることなく、『秋月出版社』に戻り玄関前を通ると、

受付の女性たちが田ノ倉さんを見つけ、明るい声で挨拶する。


田ノ倉さんが軽く会釈すると、片方の女性が嬉しそうに笑顔を見せた。

エレベーター前に立っていた別雑誌の編集部員も、田ノ倉さんの気配に気付き、

こちらを振り返る。


「田ノ倉さん、先日のコラムの件、ありがとうございました」

「あ、いえいえ、こちらこそ。また、先生方の協力が必要なら言ってください。
期日が迫っているのは頼みにくいですけれど、ちょっとした読みきりなら、
話が上手な方も、数名いらっしゃいますので」

「ありがとうございます。助かりましたよ」


田ノ倉さんがここに来るだけで、パッと明るい太陽が飛び込んだみたい。

話しかけた人も、挨拶をした人も、みんな笑顔を見せている。



『秋月出版社の王子様』



そう、以前もこの意味を、私は社内で感じたんだっけ。

田ノ倉さんが颯爽としている姿が、この会社の象徴だって。

本当に戻ってきたんだ……



そうか……



みんな明るい顔、してるんだね。

全てが……元通りだって……



「和ちゃん……」

「あ……細木さん」

「どうしたの?」


どうしたの? あれ? 私、何かおかしいですか?


「何かあったの?」


待っていたエレベーターがそこで空いた。

他の人と話をしていた田ノ倉さんが、乗り込んでいく。

細木さんは手に資料を抱えたまま、またお菓子を食べにおいでと笑ってくれた。





田ノ倉さんにくっついて『準備室』へ戻ると、

東原さんが完成品を送る相手のリストを、検索していた。

私の分だと手渡され、同じようにチェックをし始める。


『山手線カルテット』は、以前より付き合いのある店へ営業活動に出かけ、

その他のメンバーたちは、進行具合によって、それぞれの場所に散っている。

どこからどういう基準で選ばれたのか、確かにわからないところもあったけれど、

みなさん仕事はスピーディでそつが無い。


もうすぐ、この『準備室』も解散なんだよね。


「飯島さん……」

「……はい」

「リストが1枚、床に落ちてますよ、気付いていないんですか?」


東原さんの指摘に、視線を下向きにする。

確かに1枚紙があった。いけない、いけない、気付かずに踏みつけちゃうところだった。



……しかも『夢尾花』先生の住所。



「退社時間まではまだまだありますからね、ボーッとするのはやめてください」

「わかってます」


東原さんのちょっとした嫌味に、抜けていた気持ちが少しだけ引き締まった。

田ノ倉さんもこっちを見ている。しっかりしなくちゃ。


「あさってから私、『MELODY』の方が主になるので、
席を外すことが多くなりますけど、頼みますね」

「……はい」


そうか、いよいよ『MELODY』かぁ……


「飯島さん」

「はい、また何か落ちてますか?」


今度は何? 紙? それともお金?


「違いますよ、そうではなくて……」

「はい」

「今だから話しますけれど、飯島さんが『秋月』に面接をしに来た日、
私、増渕編集長にお茶を出したんですよ」

「お茶? あれ? 東原さん、あの場所にいたんですか?」

「いえいえ、面接が終わって戻ってきた編集長に出したんです。
すごくパワフルな女性だったって、増渕編集長、疲れきってました」


疲れきった……

そんなに叩きのめした覚えはないけれど……


「その時は笑って流してましたけど、ここで私も飯島さんのパワーを体感しました。
これからは、『MELODY』で一緒に、『秋月』を引っ張りましょうね」

「……はい」


そうか、あの面接の後、増渕編集長疲れていたんだ。

確かに、喫茶店に入ってきたときも、ため息なんてついていたっけ。

私、何も知らなくて、本社の玄関で『SOFT』や『週刊文青』を見て、

勝手に自分がそこに入れるものだと、思い込んでいた。



今、考えたら、それが無謀なことだったってわかるけれど、

ほんの1年前のことなんだよね。

なんだか、はるか遠い昔の気がしてしまう。





チェックリストを見終えて、窓の方を見ると、少しずつ暮れていく夕日。

明日も天気……だな、これは。


「飯島ちゃん!」


聞き覚えのある声に振り返ると、見た目は男性なのに、

歩き方が明らかにおかしい『夢尾花』先生が立っていた。

さっき、リストを踏みつけそうになったこと、怒っているわけ?

って、違うよね。


「先生、どうしたんですか」

「うふふ……飯島ちゃん、ここにいるって聞いたから、
『BOOZ』から出張してきたのよ、もう、体力限界まで消耗しちゃったじゃないの」



……出張? そんなに遠くはないですよ。

ラーメンだって、出来上がらないくらいですから。



「はぁ……疲れた。冷たいものとかないの?」

「ありますよ、麦茶でいいですか?」

「……水割りロックね」


『夢尾花』先生は、自分で言ったギャグらしき言葉に、自分で大うけし、

涙まで流し始めた。



……ここはあわせて笑うべき?



それは私には無理だなぁ。

笑いのツボが違いすぎるんだもの……







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コメント

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何だかな~・・・

和ちゃ~ん、気持ちはカナダの君ですか~
はぁ~・・・、なんだかな~・・・
和ちゃんの気持ちはいつから菅沢さんに向いてたの?
菅沢さんはいつから和ちゃんを見てたの?
和ちゃんも菅沢さんも、なんだか卑怯に思えてきたーー;
テラスの君のようにすっきりと自分の気持ちを伝えてよ!

うーん……

yokanさん、こんばんは

そうか、二人が卑怯に見えちゃうかぁ……
ちょっと長くしすぎたかな。
エピソードをつなげて、一つにしてきたつもりなのですが。

いやいや、人の感じ方はそれぞれ。
『何だ?』の思いも込めて、
お付き合いしてもらえたら嬉しいです。