152 欠点

152 欠点



夕暮れ時の『準備室』に、仕事が終わって力の抜けた私と、

漫画家という職業を持つ、ちょっとおかしな人種が一人。



「針ちゃんが、新しいところに行く飯島ちゃんを、励ましてやってくれって頼むから、
仕事の契約を済ませて、立ち寄りました」

「細木さんが……ですか」

「そうなのよ。『BOOZ』に行ったら針ちゃんが、今日、飯島ちゃんを見かけたけど、
ちょっと疲れているみたいに見えたって気にしていて」


あぁ、あのエレベーター前でのことだ。


「そりゃそうよね。お気楽な『BOOZ』と違って、
『SOFT』と『MELODY』は看板雑誌だから、異動することは緊張するでしょうけれど、
飯島ちゃんなら大丈夫よ、私はそう言ったんだけどね」


そうか、あの時疲れているように見えたんですね、

だから『どうしたの』って聞いてくれたんだ。

お菓子を食べにおいでって、笑ってくれて……


「『BOOZ』の面々って、不器用に優しいのよ、そう思うでしょ。
私に励ませってところが、すでにおかしいもの」

「はい……あ、いえいえ」


確かにみなさん優しい。そう、『不器用』に優しい。

私だって、何度も言葉をかけてもらってきた。

たまには見当違いのこともあったけれど……


「いいわよ、言い直さなくて。自分だって自分がまともだと思ってなんていないから」


『夢尾花』先生の言葉に、愛想笑いだけの私。

なんて返事をすればいいのか、わからないって。


「私ってこんなのでしょ。学生時代もいじめられてばっかりだった。
それでも漫画を描くと言う夢を諦められなくて、あちこち応募して、
面接までくると全てアウトだった。
だから最初はどうでもいいような雑誌に、すごく安いお金で、
ちょっとしたイラストを載せてもらえるだけだったの。
もっと描きたいって希望はあったけれど、なかなか仕事もらえなくてさ」


風変わりかぁ、確かにね。

どちらの世界に所属しているのか、わからない人ではあるけれど……


「そんな生活を2年くらいしていた時、『BOOZ』から連絡があったの。
針ちゃんが、無料配布している風俗雑誌に描いたイラストを見つけてくれて、
編集長さんに推薦してくれて、郁が後押ししてくれて……」


私が目の前に置いた『麦茶ロック』に、『夢尾花』先生は口をつけた。


「『夢尾花』ってペンネームは、
本名の尾花賢次が夢を実現するってところから名づけたの。
3回だとはいえ、連載を持てるなんて、私にとっては夢の夢だったから」


『夢尾花』の名前。そうか、そういう意味なんだ。


「私にも仕事として漫画が描けるってことを証明してくれたおかげで、
その仕事が他の雑誌へ広がって、それから自分の生き方にも自信を持つことが出来た。
私はこれでいいって、そう思えるようになったのよ」


そう、『BOOZ』の人たちは、私にも自信をくれた。

やれば出来るって、教えてくれたような気がする。

決めかかっていた企画を覆せたのは、なぜなのかわからない力が出たのは、

あの人たちのおかげ。


「いつも本音でやっているからね、彼らは。
不恰好でも、周りから見たらおかしくても、その中にある芯みたいなものを、
しっかり拾ってくれる」

「はい」


そうだ、そうだった。

『BOOZ』が取材するのは、いつも本音ばかり。

取材内容だって、人に自慢するような売れっ子ではないし、

決して格好のいいものではない。


「彼らも『欠点』をたくさん持っているから、
だから人の『欠点』も認めてあげられるのよ、きっと」



『欠点を知る人たち』



「だから、飯島ちゃんも大丈夫。私だって『BOOZ』から飛び出ることが出来たもの。
あの人たちに認めてもらえたのだから、たくさん自信を持って頑張って!」



なんだか、『夢尾花』先生に励ましてもらうなんて、おかしいけれど、

飾らない言葉が、妙に心地よい。


「ありがとうございます。これからもお仕事してくださいね」

「当たり前よ、よかったらタイ旅行にも一緒に……どう?」





……それは、ご遠慮します。





思いがけない『夢尾花』先生の励ましに、勇気をもらってしまった。

本音を大事にする『BOOZ』の人たち。

私もその気持ちに応えたい。



自分の気持ちに向き合えば、どうしたいのか、答えは見えてくる。

今の自分の思いが、決して格好いいものだとは思わないけれど。

怖がることなんてないんだ。

私だって『欠点』だらけなのだから……

他の人から見たらおかしくたって、今の私の気持ちが間違っているとは思えない。





季節は春から初夏に向かう。

東原さんが、『MELODY』の新体制準備のため、『準備室』を空ける事が増えて、

その代わりをしてくれる目黒さんとも、よく話ができるようになった。

解散だと思うと寂しいけれど、新しい何かが始まるための別れなのだから。





「うわぁ……そろそろ眩しくなりますね」

「そうですね」


私は、田ノ倉さんと屋上に向かう。

『ケ・セラ・セラ』、先のわからないことを悩んでも仕方がない。

今、思うこと感じることを、正直に語るために。


「すみません、お忙しいのに」

「いえ……」

「お話があって」


私は、この場所を選んだ。

初めて田ノ倉さんを見た場所。

こんなに素敵な人が、この世にいるのかと、ドキドキが止まらなかった日。


「先日のお返事だと、そう思っていいですか?」

「……はい」


優しく微笑む田ノ倉さんの顔を見ながら、私はしっかりと頷いた。







気持ちが前向きならば、神様は必ず微笑むよね!
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