153 ケ・セラ・セラ

153 ケ・セラ・セラ



『準備室』が解散になる前に、私の気持ちを伝えようと、

田ノ倉さんを屋上に呼び出した。



あなたが好きで、あなたのそばにいたくて……ただ、その姿を追いかけた。

そんな日は、ついこの間のようだけれど……



「田ノ倉さん……私は、あなたが好きです」



和、しっかりと目を見て話さなくちゃ。

大事なことだもの、伝わらなかったら困るんだから。



「はい……」



そう、あなたが好きです。

あなたがいるだけで、毎日が楽しくて、毎日が夢のようでした。



「でも……ここであなたを見つめていたときとは、違っています。
田ノ倉さんがまた、元気になってくれたことは嬉しいですし、
こうしてお話をすることだけで、とても楽しいです。
だけど、今の私にはそれ以上の思いが出てこないと言うか、
それで満足している自分がいて……」



私は今……

はるか遠くにいる、『あの人』を待っている。

たとえ、相手の気持ちが違うものだとしても、それはまた別のことで……



「遠いカナダにいる、あいつのことを思っている……そうでしょ?」



田ノ倉さんはそういうと、大丈夫だとしっかり頷いてくれた。

私はそれを受けるように、小さく頷き返す。

そう、私は待っている。あの人が帰ってきてくれることを……



「菅沢さんが、苦しいときに支えてくれていたのは事実で、
本当に何度も助けてもらいました。
でも、それを受け取っている自分がどういう思いなのか、
見えていなかったんです。でも……」

「飯島さん……」

「はい」

「僕が飯島さんを好きだと言った日のこと、覚えていますか?
って、忘れていた男が言うのもおかしいですが」

「はい、覚えています」


車で送ってくれた日。

月が輝いていて、木々がざわざわして、そう今でもちゃんと覚えている。


「もしかしたらこういう日が来るのではないかと、僕は思っていました。
だから、『郁を刺激するのが怖い』とそう言ったのです」



『本音を言うと、郁を刺激するのは、怖くもあります。
でも……そうしないと、本当に前には進まないのだと、近頃思うようになりました』



そうだった、そういえばそんな話を田ノ倉さんが私にしてくれた。

あの時は、なぜそういうのかがわからなかったけれど。


「郁のように生きられたら、あいつのように出来たらと常に思っていました。
あなたが郁のそばにいたら、きっといつかあいつの気持ちに気付くだろうって……。
いや、飯島さん自身の奥底にある思いに、きっと気付くだろうって。
だから僕は、自分を変えようと必死に動いて、仕事を進めようとしたのだと思います」


菅沢さんのように……

田ノ倉さんは自分を変えようとした。


「子供の頃の話、飯島さんはよく郁から聞いていましたよね、
確かこの屋上でも言われたことがある。僕は確かに人と争うのが嫌で、
一つしかないものでも取られたら、それはそれでいいと思うタイプの子供でした。
執着心がないというのか、怖がりと言うのか……でも、郁だって……」


田ノ倉さんの言葉が止まる。

子供の頃の菅沢さん……


「あいつはそれを取り返して、僕のところに持ってくるんですよ。
はじめから僕のものだった……みたいな顔をして。
お前も欲しいんだろと聞いても、俺は興味がないって言うばかりでした」



……なんとなく、わかる。そんな菅沢さんの『天邪鬼』ぶりが。



「あいつがこんな時期に、急にカナダへ行ったのはきっと、
飯島さんを『自由』にするためでしょう。
そうすればあなたが僕のところへ戻るだろうと、あいつなりに精一杯考えて」



『BOOZ』へ戻って来いと言いながら、実はそう動いていなかった。

確かに菅沢さんは、田ノ倉さんの言うとおりのことを考えているのだろう。

私が、田ノ倉さんを今でも思い続けていると信じていたから……


「郁の思いは、ストレートではないから、
なかなか飯島さんに届かなかったかもしれない。
でも、はじめからずっとあなたを見ていた」


はじめから……


「郁は、社長の息子であるのに、本社へ顔を出すことも、
田ノ倉の家へ顔を出すことも滅多にしません。
それは、僕と母に遠慮してのことだとそう思います。
人一倍ずうずうしく見えて、本当はその数倍も気を遣う」


確かに、菅沢さんが本社へ行くことって、無かった気がする。

資料とかを取りに行くのだって、いつも私だったし。

まぁ、こき使われているんだとしか、思ったこともなかったけれど。


「知らないふりをしながらも、飯島さんを見ていたからこそ、
あなたがピンチになることも予想できたし、
先回りをして助けることだって出来た。偶然だったら、2度も3度も続きません。
どうしたら伸ばしてやることが出来るのか、そればかり考えていたのでしょう」



田ノ倉さんの言葉、その通りだ。

私がピンチになると、菅沢さんは偶然現れてくれたわけじゃない。


それはずっと……見守ってくれていたから……


初めてのレポを取る日も、MOONグランプリの日も、

知らない男に、突き飛ばされた日も……



いつの間にか、私はそれを当たり前のように思っていた。

何があっても、助けに来てくれるのだと……ずっと……



そんな当たり前、落ちているわけがないのに……



「あいつもきっと、カナダで牛や馬ばかり見ながら、
心の奥では、変わらない思いに苦しんでいると思いますよ。
郁はそういうやつですから。人に言うほど、強くなんてないんです」


強くなんてない……かぁ。

干草の上にでも寝転がりながら、こっちのこと、少しは心配しているのかな。

『会いたい』とほんの少しでも思ってくれているのかな。



「飯島さん」

「はい」

「僕が先日、飯島さんに告白をしたのは、あなたを助けたかったからです」


助ける?


「あなたが僕に向けてくれる笑顔が、以前と違うくらい、見ていればわかります。
僕の事情を全て知って、気持ちを無理に止めようとしているのなら、
それは優しさ違いですよ」


優しさ違い……


「僕は飯島さんに何度も助けられました。
あなたの『ケ・セラ・セラ』の考え方に、僕自身励まされてきたのです。
だから今度は、あなたを僕が励ます番だと思って、きっかけを作りました」



『ケ・セラ・セラ』



「僕に遠慮などせずに、あなたの思うままに、明るく笑ってください。
『ケ・セラ・セラ』じゃないですか。
これからどうなるのかなんて悩んでいても仕方がない。
今、何をするべきなのか、考えた方が楽しいです」


田ノ倉さん……


「僕は、飯島さんと同じくらい、郁のことが好きですけど、
でも、あいつが本当にこれからも、意地を張っているつもりなら……」


田ノ倉さんの言葉が、そこで止まった。

私には、何も言えなくて……



「その時はまた、僕があなたを振り向かせます」



「田ノ倉さん……」

「『ケ・セラ・セラ』、これから先のことなど、まだわからないでしょ」


もし、あの日事故がなかったら、私は田ノ倉さんを選んでいただろうか。

それとも、田ノ倉さんの言うとおり、どこかで別の思いに気付き、

今と同じことを思っただろうか。




それは神様しかわからない。



それでも……

田ノ倉さんを好きになったことは、間違いなかったこと……



「はい……」



底知れないくらい優しくて、太陽くらいまぶしい……

大好きな田ノ倉さんの笑顔を見ながら、私はそう考えた。







気持ちが前向きならば、神様は必ず微笑むよね!
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コメント

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そうですか

pocoさん、こんばんは

>和の気持ちを知って、あえて前に出た諒。
 私にとってストライクの男です。

はい、諒がいいというご意見も、たくさんいただいています。
とにかく素敵にしたかったのが諒なので、
ストライクと言っていただけると嬉しいです。

最後までお付き合いください。