154 タイミング

154 タイミング



田ノ倉さんが、私の気持ちを知り、明るく励ましてくれた。

それはそれでよかったのだけれど、後悔しているわけではないが、

申し訳ない気持ちがいっぱいで……。



……なんだか足取りが重い。



「和ちゃん、お帰り」

「あ……敦美おばさん」


買い物へ行くのが遅くなってしまったと、敦美おばさんは笑いながら近付いてきた。

私はビニール袋を1つ持ち、一緒に坂をのぼる。


「今日は同級生と久しぶりに会ったのよ、懐かしくて話に花が咲いちゃった」

「そうだったんですか、それならそう言ってくれたらよかったのに、
私、早く帰ってきておじさんの食事くらい……」

「いいの、いいの。ギリギリまで行こうかどうしようか悩んでいたから」


おばさんは何かを思い出したのか、口元をゆるめた。

なんだろう、あまりにも楽しそう。


「何か、楽しいことでもあったんですか?」

「エ……楽しいことって言うか、そうね、運命っていうのか……」

「運命?」


敦美おばさんはおじさんには内緒と言いながら、ちょっとした思い出話を披露した。

父と母が出会うきっかけと同時に、友達同士として知り合った津川家の二人だけれど、

敦美おばさんには、その当時、ちょっと気になる同級生からの誘いがあったらしく……


「彼と付き合うか、それとも文則さんと付き合うか……迷った時期があって」


おばさんは、迷っている中で文則おじさんの優しさに触れているうち、

気持ちが固まったのだと話をしてくれた。

今日は、その同級生と結婚した、同じ同級生が来る事を知って、

なんとなく気持ちが揺れたのだという。


「あの時、別の道を歩いていたら……ってそう思ったこともあるのよ。
でも、今日、彼女がご主人の話をたくさんしてくれて、なんだかほっとしたの」

「ほっとした?」

「うん……あぁ、やっぱり私は文則さんが相手だったんだなって」



『ケ・セラ・セラ』



人生はどうなるのかなんて、誰にもわからない。

決断をしながらも迷うことだってあるだろうし、後悔することもあるかもしれない。

それでも、なるようになる……




「子供が持てなかったから、文則さんに申し訳ないと思ったこともあった。
でも……」


敦美おばさんは私の左手を取ると、しっかり腕を組んでくれた。

私もその腕に、自分の腕をしっかりとからめてみる。


「こうして和ちゃんが来てくれた。毎日が楽しい」

「おばさん……」

「それもあずさ達と出会ったからだものね。敬も和ちゃんも、子供同然」


そう……東京へ出て来てまだ1年足らずだけれど、

私にとっても津川のお二人は、親も同然。


「和ちゃん」

「はい……」

「和ちゃんも、これから色々と決断に迷うことがあるかもしれない。
でもね、正解なんて、あってないようなものよ。あったとしても、後からわかること」

「はい……」

「その時、その時の気持ちに従えばいいの『ケ・セラ・セラ』よね」

「はい……」


その日は、並べた総菜で女二人が盛り上がり、

文則おじさんは、楽しそうに酔っ払った敦美おばさんを、優しく介抱する。

私から見たら、二人は本当に幸せそうだけど。



こちら側でなかったら……

きっと、人生の中ではそういうこともあるのだろう。





カレンダーは6月に突入し、『MELODY』から大橋さんが『BOOZ』へ移った。

菅沢さんの席は相変わらず空いたままだけれど、私の席は……


「しばらく準備室の仕事と掛け持ちになりますので、ご迷惑をおかけしますが、
よろしくお願いします」


東原さんがチーフに就任した『MELODY』へ移される。

以前、『MOONグランプリ』で東原さんの後ろに構え、笑っていた編集者さんたちも、

厳しい目から優しい目に変わり、色々と教えてくれた。


「これが先生方のリストです。飯島さんにはしばらく担当はつけませんので、
単発で掲載をお願いする先生方と、アポを取ってください」

「はい……。で、今月はどなたが」

「あ、今月は『夢尾花』先生なの」



エーッ! 最初が『夢尾花』先生? 確かにこの間励ましてもらったし、

一緒に仕事をしましょうねって、その場の雰囲気で盛り上がりましたけど。

けど……



「『夢尾花』先生なんですか?」

「そうよ、飯島さん、ああいった特殊な人物、得意そうじゃない。
あなたも特殊っぽいし……」



東原……

何をサラリと言ってくれちゃうのよ、特殊って、どういう意味?



「あれ? 東原さん、太ったんですか? なんだか椅子が下へ沈んでいますよ」

「は? これは椅子のクッションがいいから、沈んで見えるのよ」

「あ、そうなんですか、昨日も差し入れのケーキ、こっそり二つ食べてましたよね」



そうなんですか? という雰囲気で、他のスタッフが東原さんを見る。

『ダイエット』なんて言いながらも、女はみんな甘い物が大好き。

それを独り占めなんて許せない……という目が、あちらこちらにあって。



「飯島さん、早く行って来て!」

「はい!」



あはは……東原さんをからかうのは、とっても楽しい。

本社ビルを出て、『夢尾花』先生のところへ行くと、相変わらずの怪しい雰囲気で……


「飯島ちゃん嬉しい、来てくれたのね」

「はい、『MELODY』で決められましたので、来ました」



あくまでも、社の意向です。



「針ちゃんは元気?」

「……だと思いますよ」


そうそう、『BOOZ』に大橋さんが入ってくれたものの、

菅沢さんの代わりと言えるまでは、出来ないことが多くて、

結局、細木さんが動き回り、心配していた体重が一気に減ったと、

昨日及川さんが教えてくれたっけ。


健康診断を勧めた、怖いベテラン事務員さんの言葉より、

綺麗な女医さんのキツイ一言より……



結局、忙しいことが、ダイエットに一番『効果』があったとは、なんだか笑えてしまう。



「それでは、これ、いただいていきます」

「はぁ~い、頑張ってね、飯島ちゃん」

「ありがとうございます」


『夢尾花』先生の部屋を出たあと、私は『秋月出版社』とは別の方向へ歩く。

以前、一度だけ降りたことのある駅、雨が降る中、傘を差して進んだ。

マンションの前に立ち、インターフォンを鳴らす。


『はい、どうぞ』


聞き覚えのある声に導かれ中へ入ると、窓の外を見ている樋山さんが見えた。


「雨、結構強くなってきたわね」

「はい……」


樋山さんは私のことを見た後、ソファーへ座るようにと合図した。







気持ちが前向きならば、神様は必ず微笑むよね!
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