156 好きになること

156 好きになること



その日の天候は申し分ない青空だった。

朝から時計を気にして、東原さんの指示を聞き逃すくらい緊張した。

急いで編集部を飛び出して、空港に到着しロビーで確認すると、

ほぼ予定時刻のまま、飛行機が飛んでいるという。


順調に着いたとして、荷物を受け取らないとならないから、

いくら菅沢さんでも勝手に帰るわけはないだろうと、

空港内のお店を時間まで見て回ると、到着を知らせるアナウンスが入った。


スーツケースやお土産をたくさん乗せて出てくる人たち。

ここで見逃してしまったら、それこそまたネタにされてしまう。

スターの到着を待っているわけではないのに、妙に緊張する私。

はじめは出てくる人が多くて、目を慌てて動かしていたのに、

だんだんと人が減ってきて……



……どうしよう、人の数が少なくなっていく。

やだ、ここまで来て私、本当に見逃してしまったんだろうか。




菅沢さんだ……

片手で荷物を引いている。もう少し近くに来たら……




「菅沢さん!」


距離が相当離れていたのに、他に人もあちこちいたのに、

待ちきれなかった頭が、勝手に声を出してしまった。

関係ない人たちまで、こっちを見ている。

日本中に、これだけ菅沢さんが集まっているとは思えないですけど……


「飯島……」

「迎えに来ました」


迎えに来たんです。この1ヶ月、色々と考えて、悩んで、

でも、あなたに会いたい気持ちが、何よりも勝ったので……


「どうしてお前がここにいるんだ」

「どうしてって、今日帰ってくることを聞いたからです」



だから私……



「いつまでも頼るなって言いたいのでしょうけれど、頼ったっていいじゃないですか。
そばにいてくれるだけで、怒られたって、それだけで気持ちが落ち着くんです」


そう、そんな日々がどうしても私には必要なんです。

『成長』していないんです、本当は。


「手の届くところに……いて欲しいんです……」



……私の大切な光



「それが……あれこれ考えて出てきた、素直な気持ちです」


顔が赤くなっていることもわかっているけれど、言ってしまった。

どうせあなたは……また……

ほら、まっすぐにこっちに近付いてきて、『全く……』って顔をして……

きっと……



「……ごめん」



……ごめん? 謝るってどういうことですか?



「俺も……そう思っていた」




……そう思ってくれていたって……




「会いたかった……」




ウソ……あの菅沢さんが、そんなに素直に出ちゃいます?

私、思いっきり抱きしめられた。

こんな恋愛ドラマとか映画にありそうなワンシーンは、

私達みたいな平凡な人間がやることではなくて、日向淳平が演じるはずでは……




……まぁ、いいや。




お互いに『会いたかった』のだから。





「飛行機、飛びましたね、また」

「空港だからな」


空港にある、離着陸を見られる場所。小さなベンチにたった二人。


「どうして旅に出るって、言ってくれなかったんですか?」


そう、まずはそこよ。こんなに長い時間、留守するなんて思わないもの。


「旅行は前から計画していたんだ。ただ、いつにするかは決めてなかった。
諒が記憶を戻して、お前のことを思い出して、お前も仕事に前向きになっていたし、
諒のことも明るく話せるようになっていたから……まぁ、ここかなって」


私が田ノ倉さんを好きなこと、誰よりも知っていた菅沢さん。


「自分の気持ちなんて、伝えるつもりはなかったんだ。
飯島は諒が好きだとわかっていたし、一緒に仕事をして、色々と教えていく中で、
そんな感情は邪魔なだけだろ」


『BOOZ』に入ったばかりの頃、今、考えたら私は確かに甘かった。

準備もなく取材に行ってしまったり、時間を気にして切り上げてしまったり……

そんな私に、菅沢さんはいつも厳しくて……


頭にくる! と怒っていた日もあった。


「色々と話が複雑になっていく中で、なんとかしてやりたくても、どうにもならなくて。
落ち込んでいるお前を見ているのが辛かった。先輩として接しようと思っていたけれど、
あいつに言われて、その通りかもなと……つい、言葉に出してしまった」

「あいつ?」

「いい男を演じさせたら、お前が日本一だと言っている男」

「ん? それって、日向淳平のことですか?」

「あぁ……あいつは人には気持ちをきちんと伝えるそうだ。自信満々にそう言っていた」


日向淳平と恋愛論? そんなものいつしていたんですか。

しかも、あんな人気俳優に聞いてしまうなんて……

……てことは、日向淳平にも、気持ちを伝えるような人がいるってことですよね。



……誰だろう、相手によっては母が寝込むんですけど。



「あ、でも、それなら、『こっちを見ていろ』って言ってくれたのは、
ウソじゃないんですね」

「ウソ? そんなもの、あんな場所でつけるわけないだろう」


よかった……あの言葉は、私にとって、とても大きかったから。


「諒がそっけなかったのには、ちゃんと理由があって、
それはあいつにもどうにも出来なかった。
どうしてもっと早く言わなかったって叫んだのは、本音だ。
もう少し早く言ってくれていたら、先輩として接し続けていくことが出来たのにって」


園田先生の仕事場で、田ノ倉さんの事情を聞いた日。

菅沢さん、確かに怒って出て行ってしまった。

私はそれを追いかけて……


「お前を我慢させるのは嫌だって、ずっと考えていた。
こっちに遠慮して、諒への気持ちにストップをかけるようなことをしているのなら、
それは間違っているって。でもな、頭ではそう決めたはずなのに、
お前が『準備室』で頑張る話を聞いていたら、だんだん行動が別の方向へ行き出すし」

「別の方向?」

「あぁ……そばで見ていたら、どこかで行くなって引っ張りそうになって、
いや、実際……」


言葉が止まった。

そう、あの日、菅沢さんの思いを受け止められなかった私。


「私が……」

「お前のせいじゃない。諒があんなことにならなければ、お前は諒を選んでいた。
落ち込んでいるお前の気持ちに、自分が付け込んだ気がして、納得がいかなくて……」


王子様のような田ノ倉さんを、追いかけていた日々。

事故がなければ、そのままずっと歩き続けたかもしれない。

それでも……


「互いに見える場所にいたら、お前も遠慮するだけだとそう思ったからさ」



……菅沢さん。田ノ倉さんの言うとおり、本当に気を遣うんだ。



「私、当たり前だと思っていたんです。
菅沢さんがそばにいるのは特別なことではなくて、空気のように当たり前だって……」

「空気?」

「はい……ずっとそこにあって、なくならない物だって勝手に思い込んでいました」


そう、思い込んでいた。

菅沢さんへの気持ちは、『恋』でも『愛』でもないと、そう思い込んでいた。

はじめは確かに、田ノ倉さんとの出来事が哀しくて、

理解してくれる人を求めたのかもしれない。でも、それだけじゃない。

『恋』も『愛』も、特別なものではないのだと、やっとわかった。



「田ノ倉さんが教えてくれたんです。私の心にある、本当の思いを……」

「諒が?」

「はい」



そばにいてほしい人は誰なのか、誰のことを思いながら、生きているのか……


「あいつらしいな、また、我慢して」


田ノ倉さんと菅沢さん。

全く違うようだけれど、本当は似ているところがたくさんある二人。

だから私は……



二人を好きになった。



「菅沢さん」

「ん?」

「聞きたいことがあるんです。今日は答えてくれますよね」

「今日は? いつも答えているだろう」



……ん? そうか? まぁ、いいや。

今は揉めている場合じゃない。


「あの……カナダに行く前、樋山さんのところに泊まりましたよね」


今まで優しい表情を見せていた菅沢さんの顔が、一瞬で変わった。







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コメント

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ぜひぜひ

拍手コメントさん、こんばんは

拍手のコメントで非公開を希望した方には、
いつもそう呼びかけています。

毎日のように、足跡をつけてもらえるのは、とっても楽しみでした。
これからも遠慮せずに、よかったらどしどしお越し下さい。

>「書く、まとめる」ということは一筋縄ではいきませんね。

そうですね、起承転結を頭に描いて書いているつもりでも、
なかなか綺麗にまとまらない時もあります。

毎日更新しているのは、普段の生活にストレスが多いからかも(笑)
ここで創作を書いている時間が、私の癒しなもので……

お互いに、楽しみながら続けましょうね。
また、お邪魔します。

一区切りです

拍手コメントさん、こんばんは

>いよいよ最終回ですか。楽しみが減るなぁ

ありがとうございます。
チョコチョコ書いていたら、こんなに増えました(笑)
楽しんでいただけたのなら、とっても嬉しいです。

また、新しいものが出てくると思いますので、
そちらもよろしくお願いします。