157 未来の予感

156 好きになること



カナダから戻ってきた菅沢さんに、私は自分の気持ちを告げた。

いつもなら、はぐらかしてしまう菅沢さんも、今日は特別。

私の質問にしっかり答えてくれると約束する。



『樋山さんのところに泊まった日のこと』



それがどういうことだったのか、菅沢さんの口から聞きたい。

今、語ってくれたことだけで、気持ちは伝わるけれど、女は欲張りなんです。

ちょっとした雲でも、払いのけたくなるんです。

目の前は真っ青な空だけ……ってことにしたくて。



『何を言ってるんだよ、バカだな』



なんて笑って、仕事が詰まっていてとか、お酒を飲んでいて……とか、

たいしたことじゃないのだと言ってくれることを期待して、問いかけてみた。




……のに!




思ったものと菅沢さんの反応は違っていて……

表情は暗めで、どこか辛そうで。


「……あいつは、なんて言ったんだ」

「樋山さんにも聞きました。でも、菅沢さんから聞いたほうがいいって……」



ちょっと、ちょっと、どうして答えがすぐに戻らないの?

せっかく空港まで迎えに来て、感動の再会をしたのに、

そんな険しい顔、しなくたっていいじゃないですか。



『あいつとは過去で、お前が気にするようなことじゃないんだよ』



そう言ってくれると、内心期待していたのに……



「写真の選択が、色々と……」

「選ぶのに時間がかかって、仕事が終わらなくて、帰りたかったけれど帰れなくて、
そうそう、電車が無くなって、それで泊まったんですか?」




……シーン




あぁ、もう、私が勝手に安心出来るシナリオを作ったのに、

答えが戻らないじゃないですか。

合っているのなら、合っているって言ってください。

妙に心配になる!


「あぁ、そうそう、そうなんだ、あれこれやっていたから時間がかかった。
もうそんなことどうだっていいだろうが。お前、結構しつこいな」


……何? どういう言い方ですかそれ!


「しつこい? それってひどくないですか?
だって、菅沢さん、人には『こっちを見ていろ』だなんて言っておいて、
それで別の女性……いや、元彼女の家に泊まってきましたって、
誰だって嫌な気持ちになるじゃないですか」


元彼女、元彼女って、特別な響きがあるでしょう!


「嫌な気持ち? あの日はさっさと帰ったじゃないか、お前」

「だって、聞けるような雰囲気じゃなかったじゃないですか」


そうだ、そうだ、聞ける雰囲気じゃなかった。

朝食を作ってもらったとか言うし、細木さんもそれに乗ってからかうし、

及川さんは何も言わないし。

菅沢さんが、どういう思いを持っているのか、私にはわからなかったし。


「やっと聞こうと思って編集部へ来たら、勝手にカナダに行っているし……」

「勝手にって……まぁ、確かに勝手だったか」


あぁ、もう……

また、いつものようなケンカモードだ。

久しぶりに会ったのだから、ちょっとはいい雰囲気になりたいのに……



「怒ったわけではないんです。気になったから聞いただけです。
何もないのなら、それでいいです」



こんなふうに言うと、結構、話してくれると思うんだけど……


「何も……」


私が上を向くと、菅沢さんと視線が重なった。

『何も……』で言葉が止まると……


「……ないよ、うん」




……うわぁ……すごく怪しい言い方。




「言いたくないのならもういいです。聞きません。
そうやって、何でもはぐらかすんですね、結局、答えてなんてくれないんです」


あぁ、もう、情けなくなってきた。

無言の二人の前を、勢いよく飛び立つ飛行機。

無言のまま、立ち上がる菅沢さん。やっぱり何かあるんだ……


「わかった……」

「はい……」


樋山さんと菅沢さんのことは、もう過去のことだ。

大丈夫、和。自分が選んだ人を、信用しないと……




「……だったんだ」

「は? 聞こえません、ここ、空港なんですよ」




どうして急に声が小さくなるのよ、

いつもなら耳が痛くなるくらいあれこれ言うくせに。





「蕁麻疹が出たんだ、エビを食べて!」





……じんましん? エビ?





「どういう……」

「写真の選択をしながら、腹が減ったから寿司を取ったんだ。
エビが好きだから食べていたら、急に『じんましん』が出た」

「エビを食べて?」

「あぁ、エビの寿司を食べて蕁麻疹が出るなんて初めてだったから、
精神的に落ち込んだのか、気分が悪くなって。
そこであいつの事務所のソファーで横になっていたら、そのまま寝ていて……
で……結果的に泊まった」

「それ、本当ですか?」

「本当だ、こんなことウソついてどうするんだ。
なんだか情けない話だから言いたくなかった。はい、おしまい!」



菅沢さん、子供の頃からの大好物を食べて、蕁麻疹が出ちゃったんだ。

そうだったんだ、それでショックで……



「笑っているだろ、お前」

「笑ってなんていませんよ、ただ……」

「ただ?」

「……そんなことで、よかったなって……」



なんだろう、どちらかというと笑える話なのに、目頭が熱くなる。

何かあるわけないと、絶対に大丈夫だって思っていたけれど、安心した。


「エビなんだ……」


菅沢さんがそのまま抱きしめてくれて……




ここで目があって……それから……



今度は……逃げませんよ。





「見えないんだよ!」


いい雰囲気で菅沢さんと向かい合っていた私の横で、小さな叫び声が聞こえた。

追いかけてきたお母さんが、何度も平謝りしている。

完全に下を向きながら、恥ずかしそうにしているってことは……



うわぁ……今のいいシーン、見られていたってことですよね。


「ごめん、ごめん、なんだろう」

「見えないんだもん、飛行機、僕、絵を描くのに!」

「絵?」


頬を大きく膨らませた男の子は、私と菅沢さんの間にグイグイ割り込んできて、

飛行機が見える特等席にドンと座り込んだ。

お母さんが後ろから引っ張るけれど、漬物石のように動かない。


「なんだお前、飛行機の絵を描くのか」

「うん、僕、絵が上手なんだよ、幼稚園の先生に褒められたんだから」

「ほぉ……」


男の子はスケッチブックを開いて、少し前に描いた絵だと言って、

私たちに完成品を披露してくれた。


「本当だ、上手いな、お前」

「だろ!」


とっても年齢が離れているはずの菅沢さんに、堂々とタメ口の男の子。

熊本にいるはずの、空気が読めない保育園児、陽君を思い出しちゃうじゃない。


「よし、それじゃご褒美だ」

「うわぁ……」


菅沢さんは、その男の子を肩車し、目の前に柵がない状態にしてあげた。

エンジン音が響き渡り、大きな飛行機が目の前でまた1機旅立っていく。


「すみません、勉、勉、降りなさい……」

「ママ、よく見えるよ、飛行機!」


慌てるお母さんに、大丈夫ですよと声をかけてあげる。

この人、子供にはとっても優しいですから……



人生は『ケ・セラ・セラ』

何が起こるのかなんて、誰にもわからない。

だからこそ、毎日楽しいのだろう。

次に何が起こるのか、誰と出会うのか、想像するだけで笑顔になれる。



『かおるのおよめさん』



そういえば、陽君が熊本へ行く前、空港で手紙をもらったっけ。

あの空気の読めない保育園児だけが……

未来の予感を、もしかしたら気付けていたのかも。


「ねぇ、菅沢さん」

「なんだよ」

「久しぶりの日本ですよね、帰りに『エビ』、食べていきますか?」

「……覚えておけよ、お前、そんな口きいて」

「いいじゃないですか、たまにはこれくらい」

「あのなぁ……」

「ダメだよ二人とも、ケンカしちゃ」



……はい。

無邪気な子供の一言に、菅沢さんと思わず目があった。

ごめんね勉君。今はケンカしませんから。


でもきっと数日後には、またケンカしているだろうけど。

だって『ケ・セラ・セラ』だから……


先のことなど、予測なんてつかないもの。



【ケ・セラ・セラ 終】





最後までお付き合いありがとうございました。
和の『ケ・セラ・セラ』 な毎日は、これからも続く……でしょう。

感想のコメント、ぜひぜひよろしくお願いします!  ★⌒(@^-゜@)v ヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

No title

毎日、楽しみでした。本当にありがとうございました。

でもでも、、、あああ。気になることばかり。
是非、続編待っています。
周りの反応、見たいじゃないですかあ。このあと。

どうぞよろしくお願いします。

No title

毎日、通ってました。
終わってしまったよぉ
2人のこれからも知りたいなぁ
でも+。:.゚ヽ(*´∀)ノ゚.:。+゚ァリガトゥ

ありがとう

こんばんは
157話ですか。そんなにあったのかとふり返ってしまいました。あっという間の気がします。二人のこれから、なんだか想像出来ますね。
次回作も、楽しみにしています。
お疲れ様でした。

ケ・セラ・セラ

終わっちゃいましたね^^

テラスの君はやっぱりテラスの君だ~〃▽〃
大人だよね~・・って
この感想、変かな~^^;

菅沢さん、わかりにくい人だわーー;
こういうわかりにくいタイプ、たぶん私は苦手
だからテラスの君に惹かれたのかも~^m^

でも、和ちゃんが幸せになってくれてよかった

ケ・セラ・セラと行きましょうか^0^

No title

毎日楽しみにしていました。

“ナイショさん”も卒業します^^;

和ちゃんと菅沢さんのその後もとても気になりますが、陽君がどうしているかとそちらも気になります(笑)

和ちゃんの心の中のつぶやきと言うのでしょうか 思わず読んでいてニヤリとしたり相槌を打ったりしていました。
楽しかったです!! ありがとうございました m(__)m



ありがとうございました

pocoさん、こんばんは
最後までお付き合い、ありがとうございました。

>個性的なキャラに囲まれ、成長する和。
 恋の行方とともに、楽しませてもらいました。

個性的なキャラクラーは、この創作の核でした。
彼らの活躍がなければ、成り立たなかったと思います。
楽しんでもらえて嬉しいです。
ぜひ、これからも遊びに来て下さい。

ありがとうございました

ナイショコメントさん、こんばんは
最後までお付き合い、ありがとうございました。

>はじめて書きます。
 毎日楽しみでした。終わりは寂しいですが、次を期待します。

はじめての書き込み、とっても嬉しいです。
人のブログに書き込むのって、すごく勇気のいることだと思うので。

これからもマイペースに続けます。
ぜひ、遊びに来て下さい。

ありがとうございました

haruさん、こんばんは
最後までお付き合い、ありがとうございました。

>でもでも、、、あああ。気になることばかり。
 是非、続編待っています。
 周りの反応、見たいじゃないですかあ。このあと。

あはは……周りの反応……ですか。
確かに。
でも、気になるくらいでやめておくのが、一番いいような気がします。
あとは想像にお任せということで。

『ケ・セラ・セラ』は終わっても、『発芽室』は続きます。
ぜひ、遊びに来て下さい。

ありがとうございました

るりさん、こんばんは
最後までお付き合い、ありがとうございました。

>毎日、通ってました。
 終わってしまったよぉ

毎日、ありがとうございました。
終わってしまいましたが、また、マイペースに続けますので、
これからも、遊びに来て下さい。

ありがとうございました

verwearさん、こんばんは
最後までお付き合い、ありがとうございました。

>157話ですか。そんなにあったのかとふり返ってしまいました。

はい、いつの間にか157にもなっていました。
尋常なタイトル数じゃないですよね。季節も全て乗り越えたくらいです。
これからもマイペースに続けますので、
また、ぜひ遊びに来て下さい。

ありがとうございました

yokanさん、こんばんは
最後までお付き合い、ありがとうございました。

>テラスの君はやっぱりテラスの君だ~〃▽〃
 大人だよね~・・って
 この感想、変かな~^^;

いえいえ、全くおかしくはないですよ。
諒は、とにかく格好良くしたかったので……
(その分、諒派が増えて、申し訳なさもあるのですが……)

諒なのか、郁なのか……
これは確かに、『好み』の問題かも。
タイミングも、あるだろうしね。

……まぁ、『ケ・セラ・セラ』です(笑)

ありがとうございました

tokoさん、こんばんは
最後までお付き合い、ありがとうございました。

>“ナイショさん”も卒業します^^;

そうなんですか。大丈夫ですよ、ナイショさんでも。
こうしてコメントをいただけるのが、なによりの励みです。

>陽君がどうしているかとそちらも気になります(笑)

空気の読めない陽くん、実はとっても良い子なので、
きっと、新しい家族と、温泉三昧でしょう(笑)

>和ちゃんの心の中のつぶやきと言うのでしょうか 
 思わず読んでいてニヤリとしたり相槌を打ったりしていました。

そうそう、女って、心と表が別ってこと、ありますから。
楽しんでもらえて嬉しいです。
これからも、よかったら遊びに来て下さいね。

最後に

途中リタイヤしたままです。

↑皆さんのコメントから想像するに、きっと私の思う通りなんだろうな。
作品は作家さん物だから、読み手の思うように行かないのは仕方が無いこと。
分かっていても・・・


ありがとうございました

yonyonさん、こんばんは

>途中リタイヤしたままです。

そんなこと、気にしなくていいんですよ。これだけ数もあるし、
読み進めていくうちに、納得出来なくなることもあって当たり前だと思います。

今回は、私なりにこだわりを持っていたつもりだけれど、それはまたそれだし。

どっちを立てても、どっちも立たなくなるのかもね。

それだけ、入り込んでもらえたってことだと、思ってますから。
また、これからも色々と読んでみて下さい。