【S&B】 15 いろんな恋の形

      15 いろんな恋の形



『ぺこすけ』が三田村だったという事実がわかってからも、特に僕の生活に変化はなかった。

憧れの人だとブログに一度書かれたものの、彼女が特別な目でこっちを見ることもなく、

大きな仕事をものにした第一営業部は、日々、確実に成績をあげていく。


「おはようございます」

「おはよう……」


濱尾は東成電鉄の仕事の件で、制作部と格闘の毎日だ。企画内容が甘いなどと、

ハリネズミに文句を言われ、時々凹みながらも負けずに頑張っている。

何かあったら、援軍を頼みますと言いながら、まだ一度も僕に声がかからないところを見ると、

かわす技も少しは身についたのだろうか。


今野は本来の彼女らしく、真面目に仕事をこなす。プライバシーの侵害になりそうだから、

あれからその彼とどうなったのかは聞いてない。


「これです」

「うん……」


初めて一人で仕事を任せた原田が僕の横に立ち、来週提出する書類の途中経過を

魚沼部長に見せた。プロック製薬から指摘された箇所を、納得させるだけのデータは

まとまったのかと、彼女に声をかけようとしたら、先に部長から僕に声がかかる。


「青山、ちょっとチェックしてやってくれ」

「はい……」


僕はその書類を受け取り読み続けた。プロック製薬の仕事は守口が基礎を作り、

大きな仕事とは言えないが、確実に、しかも長い契約をしてくれる。計算が立つクライアントとして、

お得意様と言っても過言ではないだろう。


「あ……そうだ。青山、AYG警備の交渉、これからだったよな」

「はい、とりあえず学習塾との連携を意識した企画内容で、データは今野がまとめてくれています」


『子供の防犯』をテーマにした広告を警備会社最大手のAYGに、仕掛ける話を、僕はその場で

軽く魚沼部長に語る。立場的にはいちいち指示を仰がなければならないのかもしれないが、

目に見えない信頼関係ができあがり、僕の仕事に関しては、ほとんど部長から

指示が入ることはない。腕をくみながら目を閉じて聞き、最後に簡単な感想を述べるのが、

彼のやり方だ。


「それ……原田を一緒に連れて行ってくれ」

「エ……」

「これだけ出来るようになっているんだ、君のそばで、交渉の経験もさせた方がいいだろう。
メインが青山なら、フォローも出来るしいい勉強になる。なぁ原田」

「あ……はい、頑張ります」


原田は魚沼部長の提案にすぐ返事をし、僕の方を向き、お願いしますと頭を下げた。

彼女のスタートは長く面倒を見てきた守口とと思っていたが、部長の意見を覆すほどの理由が、

今の僕には見つからない。


「わかりました、じゃぁ、これがまとまったら、僕と一緒に……」


僕が書類を手に持ったまま原田を見ると、彼女は、本番に向けしっかりと頑張りますと言い残し、

自分のイスへ戻った。今から5年前、僕の第一営業部初仕事の相手は、その頃主任を務めていた

森中さんだった。彼は2年前に会社を辞め、今は個人で代理店を経営し、小さなイベントを

仕切っている。先輩から僕へ、また後輩へと、営業のノウハウが伝達される。


「守口さん、出来ました」

「あ……大橋さん、早いね、仕事」

「いえいえ、守口さんの資料がしっかりしているからですよ」

「お! いいねぇ、その言葉。もう1回、全員に聞こえる大きな声で言ってみて!」


2ヶ月を過ぎた派遣社員の二人も、この場所にすっかり慣れ、営業部員達も自分なりに

彼女たちを巻き込みながら、歯車はうまく回っているように見えた。


「あ……あーっ」


ドサッとファイルがダンボール箱から落ちる音がして、前を向くと、空の箱を持った三田村が

立っていた。終わった仕事のデータファイルをダンボールに入れ、書庫へ運ぼうとしたらしい。


「大丈夫か……」

「はい、ちょっと止め方が悪かったみたいです」


三田村はすぐに落ちたファイルを拾い、またダンボールにしまい始めた。僕が立ち上がり

そのファイルを拾おうとした時、濱尾が制作部から戻り、三田村を手伝い始める。


「すみません」

「いえいえ……」


三田村は濱尾に小さく頭をさげ、少し前に流れてくる髪をスッと耳にかけた。その瞬間、

スーツの左袖が動き、手首から大きな青アザが見えた。



『玄関に挟んだんです』



以前、手のひらのアザを見た時、三田村はそう言って笑い、僕も彼女のドジぶりからその言葉を

疑うことなどしなかった。しかし、今回はそんな理由で痛めるような場所ではない。


「いいよ、三田村さん、これは僕が運ぶから」

「あ、いいです。濱尾さんは東成電鉄に行く時間ですし……」

「いいよ、書庫に運ぶから、中に入れる作業だけやってよ」


濱尾の恋モードに、スイッチでも入ったのだろうか。優しい言葉をかけ少したれた目尻のまま、

三田村が入れ直したダンボールを両手に抱え、二人で書庫へ向かった。





久しぶりに早く仕事を終え、以前、雷おこしが教えてくれたレモンケーキでも買おうかと

思いながら会社を出ると、正面玄関の横にある花壇の煉瓦に、一人の男が座っている。

帽子を深くかぶり、上目遣いで通る人を一人ずつ確認しているように見え、

僕より少し前を歩く女性の顔をのぞき込み、軽く舌打ちをした。


今まで一度も見たことがない男の姿に、少し違和感を持ちながらも、僕はその前を通り過ぎ、

電車に乗り、ケーキを買いに向かう。



     >レモンの酸味が、強めだけれど、その分、
      生地部分の甘みがぴったりくるんですよ



「うわ……美味しい。これ、この形だけどモンブランなんだね」

「だろ、ちょっと変わっていておもしろいと思ったんだ。よし、じゃぁ、そう書き残しておくよ」


僕は目的のケーキと、もうひとつ目をひいたケーキの2つを買い込み、遊びに来ていた琴子に

おすそわけしてやった。甘い物に興味のない悟は、僕と琴子が仲良く話すことに抵抗感があるのか、

わざと琴子にちょっかいを出す。


「ねぇ、祐ちゃん、こんなに甘いものが好きで、虫歯にならないの?」

「痛いと思ったことはないな……そういえば」

「1回、うちにおいでよ。クリーニングした方がいいよ。うちの先生いい男大好きだから、
丁寧にケアまでしてくれるって」

「クリーニングかぁ……」


そう言えばもう2年くらい歯科医に行っていない。痛くなってからでは遅いとわかっているが、

つい他のことを優先してしまう。琴子はすぐに手帳を取り出し、自分のスケジュールを教えてくれた。


「琴子のところ、男の先生だって言わなかったか?」

「そうだよ、でも、男が好きみたい……」

「……行きたくないな、そこには」


僕が食べていたレモンタルトを指さし、琴子は指を1本立てた。こっちも食べたいという

合図だと思い、皿を彼女の方へ軽く動かす。ケーキにさそうとした琴子のフォークを横から悟が奪い、

口に入れた。


「あ、悟、何よ、フォーク返して」

「ん……」


思い切り口の中に入れて、味わうようにしたあと、ゆっくりと引き出したフォークを琴子に戻す。


「……汚い」

「汚いってなんだよ、彼氏だろ!」

「もう、子供みたいなことしないでよ! バカ!」


悟、お前よく琴子に選んでもらえたな……。口には出さなかったが、心の中でそう思った。





風呂からあがり、もう一度原田がよこした書類を見直した。彼女らしくしっかりとまとめられ、

特に指摘すべき箇所はない。魚沼部長の言うとおり、AYGとの交渉に彼女を連れて行くことは

むしろプラスになるかもしれない。


書類を机の端に置き、右手でマウスを使い僕は『すいーつらんち』を開く。

少しずつ増えたメンバーの中には、九州や東北に住む人もいて、取り寄せ出来る

スイーツ情報なども、出てくるようになった。地図を持って電車に揺られるだけでは味わえない

商品の登場に、僕の気持ちがさらに盛り上がる。


     >久しぶりに手作りケーキを焼きました。
      明日、会社に持って行こうと思ってるんです。
      クルミを入れて、甘さを控えめにしました。


三田村が楽しそうにケーキを作る姿が想像出来て、なぜかおかしくなった。

あのドジぶりでは、顔や手が粉で真っ白になったかもしれない。そんなイメージを頭に浮かべた時、

腕にあった青アザのことを思い出す。転んだのだろうか、ぶつかったのだろうか、それとも……。


「祐作! 風呂が水しか出ないぞ!」

「……んなわけないだろうが!」


悟の叫び声に、少しだけ感じた三田村への疑問は、そのまま流された。





16 親子遺伝 へ……




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コメント

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気になる・・・

おはヨンです。

わ~ぁ! 気になる。三田村ちゃんの左手首の青アザ。

何だっけ?DVみたいな・・・ DVは、旦那さんが奥さんに暴力を振るうことだけど、恋人の・・・付き合ってる彼氏の暴力は、何て言うんだっけ・・・

三田村ちゃん、こんなのに遭遇してないかい?

ももんたさん、あんまり三田村ちゃんを、いじめちゃ嫌ですよ。
auは、三田村ちゃんを応援してますからね。


今日は、Valentine Day

土曜日だから学校は昨日が、Valentine Day だったようです。

我が家の怪獣は、よく言えば硬派・・・ 「チョコなんかいらんし!」と、やせ我慢?  貰えなかったようで・・・・・

なのに、チビは女の子なのに、流行の友チョコをヨン個もGet!
あげてなにのに・・・お返しどうすべ・・・

この母は、三田村ちゃんの様には作れないよ~ぉ。


ももんたさんちの、お子ちゃまたちは、収穫あったんだろうね。
何か、可愛い男の子二人が目に浮かびます。

気にして……

au4769さん、こんばんは!

>わ~ぁ! 気になる。三田村ちゃんの左手首の青アザ。

うふふ……。気にして、気にして。今はなんなのか言えないけど、
そのうち明らかになるから(って、いつもこのパターンだわ)

DVなのか、そうじゃないのか、あれこれ考えていてね!v-398

我が家の怪獣はそれぞれにチョコをゲットしましたよ。
本日の記事にしちゃいましたけど。
そうそう、親としてはお返しがあるんだよね。

でも、もらってちょっとほっとしてるけど(笑)v-410

拍手コメントさんへ!

いつも訪問、ありがとうございます。

もう15話だと言うのに、どうなるのか全く見えないと思いますが、ちゃんと話は動いておりますので、いろいろなことを、頭の隅にとどめておいてくださいね。

大きく展開……していくはずですよ!
これからも、よろしくお願いします。

どうなのかな?

ももんたさん、こんちわ~v-7

祐作の家庭環境も見えてきたし
三田村ぺこすけちゃんの気になる青あざ。。。
辛く悲しいものがあるのかな?

その中で悟クンの存在は
なんか癒されるな~~
祐作にとってもこれから助けられたり
癒される人なんでしょうね。

どんな展開になるのか、期待しながら
楽しみにしています。

痣と男

祐作君、濱尾の三田村に対する好意はどう感じてるの?まさか微笑ましいなんて思って無いでしょうね。v-12
少しは嫉妬とか感じないの?それとも【カイヅカ】の京佳さんのことが気になってたりする?v-238

腕の痣、気になるし会社前の男も気になる。DVかしら?心配だわv-388
もっと気にしろよ!v-217 大事にならないといいけど・・

どうなんでしょう

beayj15さん、こんばんは!


>祐作の家庭環境も見えてきたし
 三田村ぺこすけちゃんの気になる青あざ。。。
 辛く悲しいものがあるのかな?

何があるのかは、これから祐作と一緒に、知ってくださいませ。
今は、当たり前だけどかけないの(笑)


>その中で悟クンの存在は
 なんか癒されるな~~

あはは……そう? このままお笑いキャラv-290で終わるかどうかは、秘密です。 e-279

痣と男……とケーキと女

yonyonさん、こっちにもどうもです。


>祐作君、濱尾の三田村に対する好意はどう感じてるの?
 まさか微笑ましいなんて思って無いでしょうね。

まだ、祐作の気持ちはわからないんだよね。ちょっと変わっているタイプだと
思っているくらいかも。

これから、いろいろとありまして、あれこれ起こるわけですよ。
まぁ、まぁ……e-454


>腕の痣、気になるし会社前の男も気になる。DVかしら?心配だわ

まぁ、まぁ……(笑)e-440