【S&B】 16 親子遺伝

      16 親子遺伝



「じゃぁ、お先に」

「あ、お疲れです」


今日は『かいづか』の会長に呼び出され、レストランチェーンの社長夫人と会うことになった。

僕のことを話すと、向こうからぜひ一度会いたいと連絡を受けたらしく、業界大手同士の付き合いに、

参加させてもらえると、少し気合いを入れ10分前に着く。


「青山と申します。会長にはお世話になっておりまして……」


名刺を出し、まずはしっかりと挨拶をした。昔、よく時代劇に出ていた女優に似ている社長夫人は、

僕の名刺を受け取ると品のある笑みを浮かべる。会長とその社長夫人とは相当親しいらしく、

何か話す度に、互いに顔を合わせよく笑った。


「やみくもにね、宣伝費をかけられる時代じゃないでしょ。だからこそプロのあなたにと思って
お呼びしたのよ」

「そうですか……、ありがとうございます」


東京に5件あるという中華料理の店は、どこも今のところ売り上げは順調ということで、

初めは細かくメモを取っていたものの、途中で本当に宣伝が必要なのだろうかと、

疑問に感じるようになる。


「あの……、そろそろ具体的な話に、移らせていただきたいのですが」

「そうなのよ、そうなんだけどね、青山ちゃん」


会長は僕の後ろにある店の入り口を何度も確認し、落ち着かない様子をみせる。

何でもできぱきとこなす会長にしては、時間の使い方がルーズだと疑問に感じたその時、

急に席から立ち上がった。


「あ、こっちよ! 遅いのよ!」


その言葉に、誰かが来たことがわかり、僕は軽く後ろを向く。

ウエイターをかわすように入ってきた京佳さんが、横に立った。


「遅いじゃないわよ、ママ。忙しいって言っているのに、強引に呼び出しておいて」

「京佳……」


その時僕は初めて気がついた。これは仕事をちらつかせてはいるものの、会長が仕組んだ罠だ。

僕はまんまとそれに引っ掛かり、この場に座らされている。

罠にかかった獲物が悔しそうな視線を向けると、会長は満面の笑みのまま、僕を見た。


「会長……」

「あら、偶然よ、ねぇ京佳」


レストランの社長夫人は、何もかも知っていたようで、ごゆっくりと言った後、席から外れた。

僕は出していた手帳を閉じ、メモを取っていた万年筆をその上に置き、大きくため息をつく。


「何をしてるんですか、会長。京佳さんに迷惑ですよ」

「そんな……ねぇ、京佳」


会長は僕の声のトーンに、バツが悪いのか、目を合わさないようにしながら、

京佳さんを自分の隣に座らせた。Tシャツにジーンズ姿の彼女は、先日見せてくれた表情とは

全く違う顔で、僕を見る。


「ご迷惑なのは青山さんですよね、こんな大学生を押しつけられて」


ナチュラルなメイクにルージュをつけた、学生らしい姿の京佳さんは、横に用意されている

メニューを開き、視線をあちこち動かしながらそう言った。先日着物で見せてくれた

優雅な雰囲気はなく、普通の大学生がそこにいる。


「青山ちゃん、食事だけ……ね、食事だけならいいでしょ」


時にはわがままに見える会長だが、その雰囲気がどうも憎めない。

僕が呆れた表情で目を合わせると、それがOKの返事だと勝手に思いこみ、

ウエイターにあらかじめ用意していたコース料理を運ぶようにと指示を出した。


どこまでも強引な人だ。だからこそ『かいづか』を仕切れるのかもしれないが。


「青山さんは迷惑でしょうけど、私はちょっと興味があったんです。母がそれほどまでに
娘達に押しつけようとする人って、どんな人なのかなって。だから今日ここに来たんですけど……」


京佳さんは手慣れた手つきで、大皿から料理を僕と会長に取り分けた。

少し変形している仕組まれた見合い食事はしばらく続いたが、メインを食べ終える頃には、

会長は姿を消し、テーブルには僕と京佳さんの二人だけになる。


「たいした男じゃないですよ。会長の罠に、簡単にひっかかるくらいですから」

「おもしろいことをおっしゃるんですね、青山さん。仕方ないですよ、母はクライアントという
立場を利用して、あなたを罠にかけたんですから」


僕は彼女より少し先に食べ終えて、箸を置く。料理の味は申し分なく、

さすがに名店と呼ばれるだけあると、素直にそう思った。


「青山さんこそ、私の印象はどうですか? 普段、学生とばかり遊んでいるから、
あなたのような男性に、聞いてみたいんです」


そう言うと京佳さんも箸を置き、僕の方を向く。千鶴に似ている……。そう、昔好きだった人に

あなたは似ているんです。そんなバカげた答は、いくらなんでも出すことが出来ない。


「話し方は夕夏さんに似ていますね」

「そうかしら、一緒にいるとわからないけど……」


姿を見ただけの時は、千鶴を思い出したが、話しているうちに、彼女は別の人間だということが、

僕にもハッキリわかるようになった。今時の大学生らしく、楽しいことは素直に笑い、

初対面だというのに、自分の出来事を躊躇なく語る。


「就職は決まったんですか?」

「まだです。私、大学院へ進みますから」


彼女が食べ終えるまで、友達でも、仕事仲間でもない僕は、自分から何も語ることはなく、

話を聞くだけだった。全ての料理を食べ終えた僕らの前に、食後のジャスミンティーが置かれた。

たちのぼる湯気と、少しだけ鼻に香りが届き、僕が湯飲みを持ち口に近づけた時、

前に座る京佳さんが声を出した。


「あ……」


京佳さんは耳を押さえ、テーブルの下をのぞく。何か落としたのかと問いかけると、

イヤリングが外れて落ちたのだと言った。


「あ、青山さんの足下にあります。取っていただけませんか?」


僕がそう言われ下を向くと、確かにキラリと光る何かが見えた。さらに目を近づけ確認すると、

左足の横にその捜し物がある。左手を足先へ伸ばし、3つの星が光っているイヤリングを

すぐに京佳さんへ戻した。


「すみません……」

「いえ……」


僕達が食事を終えると、ご丁寧に社長夫人が現れ、自慢のスープセットだと手みやげを渡された。

騙すようにここへ連れてきたことを謝罪され、今度関西に出店する時には、ぜひ力を貸して欲しいと、

約束とは言えない約束をされる。それでもそこはしっかりと頭を下げ、タクシーを使うという

京佳さんのために、大通りへ出て待っていると、彼女がいきなり話し出した。


「青山さん、お願いがあるんです」

「僕には、京佳さんに頼まれるような、引き出しはないはずですけど」

「そんなこと、言わないでください。あなたの存在が必要なんです。今日、お話しして、
あなたなら……そう感じたので」


意味のわからないことを告げられ、僕が京佳さんの方を向くと、彼女は走ってくるタクシーに気付き、

素早く手をあげた。


「じゃ、連絡しますから。また、会ってくれますよね」

「ダメですよ。そんなことは……」


個人的に連絡を取る必要もない、クライアントのお嬢さんは、左手に僕の万年筆を持っていた。

京佳さんは得意げにそれを揺らし、こっちを見る。


「会ってくれないなら、これ、もらっちゃいますよ」


驚いた。手品でも披露されたのだろうかと、僕は一瞬言葉が止まる。あの万年筆を使っていたのは、

彼女がこの店へ来る前のことで、その後は手帳の上に置き、横へ置いていたはずだ。


「あ……」


僕の頭の中にあるシーンが浮かぶ。京佳さんがイヤリングを取ってくれと言った時、

僕の視線は確かに下にあった。ほんの1、2秒、足下の光を探した時に取られたのだ。


「連絡しますからね!」


僕の返事も待たないまま、京佳さんを乗せたタクシーは夜の街の中へ消えていく。

会長だけで十分なのに、その遺伝子を引き継ぐ大学生の娘の罠に、僕ははめられた。





17 立場の違い へ……




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コメント

非公開コメント

逃げられない?

会長は、うまく騙してほくそ笑んでるのでしょうね
流石ですv-218

最後の京佳さんの言葉がきになるな。
これからとどうなるのか。。

千鶴さんの名前が久しぶりに出てきましたが
どんな人でどんな別れ方をしたのか?

三田村さんもどうしてるのか?
気になる事がいっぱいあって
さあさあこれからどう展開していくのか
ももんたさん、お手並み拝見(ちょっと偉そうですね)v-236

亀の甲より?

まんまと嵌められましたね、年の功かな?そのDNAを受け継ぐ京佳さん。
何のお願いなのかしら?気になる・・・

ぺこすけの事も気になってるし(祐作だってそうですよねv-403

モテモテなんだから、このこのe-349

その手があったか…

京佳さん、イヤリング使うなんて流石( ..)φメモメモ な~んてメモったところで、実行する場はないんですけど^_^;

お願い~気になる③ でも良い男の困った顔って好きだわぁ♪

ぺこすけのアザも・・・明るくサラッといって欲しいですm(__)mももんたさん、宜しくお願いしますねm(__)m

逃げるか、追うか?

beayj15さん、こんにちは!


>気になる事がいっぱいあって
 さあさあこれからどう展開していくのか
 ももんたさん、お手並み拝見
 (ちょっと偉そうですね)

あはは……気になることいっぱいあるでしょ。 また、種まきv-22、種まきe-397なのよ。
三田村さん、京佳さん、名前だけの千鶴さん

次回、話が動くのさ、まぁ、見て!v-353
お手並み? たいした手じゃないからなぁ……心配だv-290

DNA!

yonyonさん、こんにちは!


>まんまと嵌められましたね、年の功かな?そのDNAを受け継ぐ京佳さん。
 何のお願いなのかしら?気になる・・・

うん、気になるでしょ? 何か気にさせないと、次v-157に続かないし
ぺこすけのこと、京佳さんのこと、仕事のこと……
次回、ちょっとしたことがおきまして、話が展開し始めますので、よろしくお願いします。v-435

サラッとかぁ……

ラピュタさん、こんにちは!


>お願い~気になる③ でも良い男の困った顔って好きだわぁ♪
 ぺこすけのアザも・・・明るくサラッといって欲しいです

そうそう、いい男の眉間にしわ! は私も好きですよ。
まぁ、何をしても絵になるのが、いい男e-396なんでしょうけどね。

ぺこちゃんのアザなんですが、サラリ……とはいかないの
まぁ、これからじっくり祐作と事情を知ってあげてねe-441