KNIGHT2 第17話

★17話




『大渕中学校の騒動』、全てを知った私と、理久。


「鳥居の家は兄貴二人とも、高学歴のエリートなんだ。
受験を失敗して親の期待に応えられかった鳥居には、居場所がないんだと思うよ」

「居場所?」

「いずみをからかったら、いずみが本気でぶつかってきた。だからまたからかった。
きっと、また本気でぶつかってくると思っていたんだろ」


理久と立花先生の合成写真。そして『気持ちいいこと』発言。

そして……この闇サイト。


「本気でって、当たり前じゃないの」

「それがさ、当たり前ではないんだよ。原田の親も、離婚して戻ってきて、
原田のことは祖父母に任せっきりだ。いや、鳥居や原田だけではないよ。
進路の話をするからと手紙を出しても、返事すら寄こしてくれない。
学生が手紙を出さなかったのかと、親に連絡をしたら、
他にやることがあって忙しいって、一度ではなくて二度も三度もだ」

「二度も三度も?」

「うん……あまりにも学校へ来てくれないからって、
親の行きつけの飲み屋に先回りしたという先生の話も、聞いたことがある」

「飲み屋さんに?」

「子供にとって、一番向かい合って欲しい人が、
こっちを向いてくれない悲しさ、鳥居も原田の悲しさも、きっとそこなんだと思う……」


親に毎日あれこれ言われることが、面倒だと思ったり、嫌だと思うこともあるけれど、

確かに、『見ていない』と感じてしまうことは、どうしようもなく寂しいだろう。

『親』という存在が、確かにそこにあるだけに……


「なぁ、いずみ」

「何?」

「よかったよな、俺たちの親は、そんな親じゃなくて」

「理久……」

「ガミガミうるさくもあったけれど、寄り添ってくれたという感覚は、
今でも持っている」


部屋がちらかっていると、片付けるまでお小言を言い続けられ、

食べ物を残すと、見知らぬ誰かがどれだけ一生懸命に作ったのかと訴えられた。

あまり得意ではない科目が、授業参観の予定だからと、

手紙も出さずにいたはずなのに、お母さんたち連絡網で、しっかり知っていて、

しかも部屋の真ん中で、仁王立ちされたっけ。


「そうだね、いつも私達のこと、見てくれていたよね」

「そうだな、部活で負けたことを黙っているとさ、
その日の夕食が好きな物だった。お袋は、行かないなんて言いながらも、
こっそり見に来ていたんだろ」

「うん、うん……おばさん、よく理久の試合、見に行っていた。
私、いずみちゃんナイショよって、よく言われた覚えがある」

「その当時は、なんとも思わなかったけれど、当たり前でもなかったんだな」


幼い頃には、何も気にならなかったことが、だんだんと気になるようになってくる。

私達が成長することは、親が歳を取ることだということも、

当時は意識したことなどなくて、そばにいること自体、嫌がっていた時もある。


「俺、お袋にしかられた時の声とか、頭をガツンと叩かれた痛みとか、
まだ……なんとなく残ってる気がする」

「痛み? そうなの?」


私も理久も、幼い頃からたくさん愛された記憶がある。

それは今も、これからもずっと宝物になるのだろう。

いつか、私達の子供が産まれたとき、その記憶をたどっていく。


ベッドサイドに二人で腰かけたまま、つないだ手もそのまま、

理久が口ずさみ始めた懐かしい中学校の校歌を、私も覚えている範囲で追いかけた。





理久の運命の日は、すぐにでも雨が降り出しそうな朝だった。

処分が決まるまでの間に、理久が自分の主張を出来るのは今日しかない。

それでも、人生のかかる学生が、不利になるようなことはしたくない。

自分の身に降りかかる問題はどこかに置いたまま、

理久はきっと、今もそう思っているだろう。


鳥居君の母親が、たいした理由もなく、理久が体罰をする教師だと訴え、

それに反論できるだけの証拠が出せないとなると、

それなりの罰は覚悟しなければならなくなるかもしれない。


「ごちそうさま、もう行くね」

「あら、早いのね、今日。何かあるの?」

「うん、ちょっとね」


私は身支度を整えた後、駅ではなく隣へ向かう。

理久の会議が午後なのはわかっていたが、

心配だからと言って、一緒に行くわけにはいかない。

『運命の日』、理久はすでに起きていた。


「理久」

「おはよう、いずみ」

「ねぇ……。言い忘れてた」

「何?」

「私も変わらないからね」


そう、私も変わらない。

理久が手術の前に、どんなことが起こっても、

気持ちが変わらないとそう言ってくれたように、私も変わらないことを告げに来た。


「今日、理久が怒られて、ペナルティーもらって、
最悪の場合、先生でいられなくなっても、私の気持ちは変わらないからね」

「いずみ……」

「理久が立派な先生だと言うことは、誰よりもわかっているから。
だから絶対に気持ちは変わらないから……堂々と行ってくればいいから」


コーヒーのお湯を入れながら、理久はありがとうと言ってくれた。

気持ちを言えたことで落ち着けたのか、一緒にテーブルに座り、コーヒーを飲む。

すると、こんな朝には珍しく、インターフォンが鳴り、

理久は誰だろうかと言いながらすぐに出る。


「立花先生、は? 東野!」

「先生、根岸もいます」


外へ来ていたのは、立花先生と東野さん、そして騒動の中にいる根岸君だった。

とりあえず3人を中に通し、テーブルに座らせる。


「すみません、島本先生、ここまで押しかけてきて。
でも、根岸君が昨日の夜、全てを学校で語ってくれました。
先生が自分をかばってしまったら、たとえ推薦入学が決まっても、
一生後悔するってそういうものですから」

「根岸……」

「先生ごめん。俺が先生に泣きついたから、話がこじれてしまって。
今日で決まるんだろ。鳥居と俺のことも、全部話していいからさ。
校長先生にも全部話をした。鳥居がどんなやつで、どんなふうにみんなを脅していたか。
もう、推薦なんて取り消されたっていいよ。だから責任取ったりするなよな」


根岸君は、少し涙目になりながら、そう言った。

隣に座る東野さんは、まだ途中だと言いながら、学生の署名をテーブルに出してくれる。


「これ、まだ途中です。今、総動員で集めていますから」


『島本先生を守ろう』という署名用紙には、学生とその親の名前が並んでいた。

花子が言っていた声を上げるという行為を、本当に学生が始めてくれた。


「鳥居君に脅されて、サイトに名前を書いた連中も、
先生が学生に不利になることがわかっているから何も話さないことを知って、
みんな反省しています。本気で書いたわけではないんです。
だから、ここに名前を書いてくれました」


それぞれの名前の筆跡が違っている。それが何よりの証拠だった。

誰かが勝手に書いているわけではなくて、みんなが本気で書いているということ。

たった数日間なのに、小さな力が着実に大きくなっていく。


「ハンドの連中も、集めてくれているし、原田君も頑張ってます」

「原田が?」

「うん……原田君ここへ来たらしいよ、自転車で。
鳥居君のこと先生に話をしようと思って、そうしたら見たって。
先生と婚約者さんが仲良さそうに庭にいたところ」

「朝から、ベタベタしてたのか? 先生」

「するか!」


根岸君にそうからかわれて、理久はすぐに言い返した。

学校でのやりとりが垣間見られるようで、私はなんだか嬉しくなる。


「雑草の抜き方が悪いって、先生が怒られていたんでしょ。
原田君がね、島本先生は結婚したら嫁さんに頭が上がらないぞって、そう言っていたよ」

「あはは……」

「笑うな、根岸」


理久は、それなら自分のポストに入れてくれたらよかったのにと、つぶやいた。

東野さんもそう思いますと、追いかける。


「二人の力関係を知った原田が、入れてしまったんだよ、先生」


根岸君はそう言うと、思い切り舌を出した。

理久は、置いてあった新聞で、根岸君の頭を軽く叩く。


「うわぁ……これは暴力、今のは暴力だよね、立花先生」

「……そうね」


いつもの明るい根岸君の態度に、立花先生も一緒に笑い出す。


「あ、そうです、そうです。からかってしまってすみませんって、
謝ってくれとも言ってました」


東野さんは、原田君が私に謝罪をしてくれたと、そう言った。

からかったというのは、あの日のことだとすぐにわかる。


「原田君に、直接謝りに行こうって、私、声をかけたんですけど」

「東野、原田にもそれなりに男のプライドがあるんだよ、きっと」

「男のプライド? またそういうことを言う。男のプライドなんて、
ただ素直になれないというだけでしょ。
そういうことを言えば、なんでも通ると思っているんですよ、子供だよね、立花先生」


東野さんの言い方、話す言葉。

以前、立花先生と理久が、私に似ていると言っていた理由が、よくわかった。

元気がよくて、黙っていられなくて……


理久と立花先生と学生達の笑い声。

私は廊下から二階に上がり、今日は少し遅れますと会社に連絡をする。

私なんて、この場所にいなくてもよかったのだろうけれど、

それでも、理久に対して、みんなが一つになる瞬間を、一緒に感じたかった。





しばらく話をした後、立花先生は学生2人と帰っていった。

私はコップを流しに片付ける。


「ごめんな、いずみ、会社遅れてしまって」

「ううん……いいの。なんだか私も嬉しくて、ここから出て行きたくなかったから」


子供の頃から、一度も先生になりたいと思ったことはなかったが、

理久の仕事がとてつもなく、うらやましく思えた。


「いいね、先生って。初めて羨ましいと思ったよ、理久」

「そうか……」

「うん。学生がこんなふうに来てくれるなんて、心配してくれるなんて羨ましい。
理久が頑張ってきた証拠だよね」


成績表がコンピュータに出てくるわけでもないし、グラフに出ているわけでもない。

子供達の笑顔と言葉、先生の充実感は、そこに全てが詰まっている。


「本当の俺は、意地っ張りで、頑固で、融通性もきかなくて、
意外に打たれ弱い。でも、そんな俺を『大好きだ』と言ってくれる人がいるから、
だから頑張れる」


意地っ張りで、頑固で、融通性のきかないただの弱虫。

それは私のことだと思うけれど。


「いずみがいるから……頑張れる」


理久がかけてくれる優しい言葉。

とっても嬉しいけれど、いいのかな、こんなに披露してしまって。

『最強のプロポーズ』ネタ、無くなりそうだ。

少し遊び心を含めて、理久の方を向き目を閉じる。

唇だけちょこっと前に出してみた。


「しょうがないな、いずみは。朝からか……」

「エ……ちょっと、ちょっと」

「よし、頑張るぞ」

「違う、やだ、理久、違う!」


まさか腕を引っ張られるとは思わずに、慌ててしまった。

理久は冗談だと言いながら、楽しそうに笑う。

何をしているんだろうか、私達。

まぁ、楽しいことは間違いがないので、それでいいのかも。

すごい一日のはずなのに、『笑顔』が出ている。



きっと……理久は大丈夫。



それから10分後に島本家を出ると、

庭を手入れしていた母と会ってしまい、

会社に行ったのではなかったのかと、口をあんぐり開けられた。





第18話


みなさんのおかげで 『ももんたの発芽室』 も5周年を迎えます
これからも、ご贔屓に……(笑)
ポチリ……していただけたら、嬉しいです (@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪

コメント

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応援したくなる二人です(o^^o)
頑張れ!

明日がラストです

milky-tinkさん、こんばんは

>応援したくなる二人です(o^^o)

ありがとう。明日はいよいよ最終話。
最後までよろしくお願いします。