第11話

第11話




秋のデートを終えた俺は東京へ戻り、宣言どおり免許取得のため、

受験以来の問題集に取り組み始める。


「全て……か。これはダメだな」


ひっかけ問題ともいえるような内容に、時折怒りを覚えながらも、

技能も学科も、順調だった。





「うわぁ……」


路上教習中、停止線をはみ出して止まった。

隣の教官が銀の棒で肩をトントン叩きながら、

なってないなという顔で首を振る。


「今のではブレーキがキツイ。このかけ方じゃ、同乗者が苦しいぞ」

「はい」


教習所の中でグルグル回るだけだと、常に止まることを意識するのだが、

道路に出始めると、考えることが多くて、つい反応が遅くなった。


「いいか、教習だと思わずに、常に隣に大切な人が乗っていると、そう思いなさい」


『大切な人』が乗っていると思うこと。

その言葉は、俺の気持ちを正確に、やる気へと導いた。

隣に乗っているのは、太った教官ではなくて、美咲だと思うと、

ブレーキのかけ方だって、確かに変わってくる。


「はい、気をつけます」

「よし、進んで……」


憲弘は一度だけ教官とケンカし、教習所内で車おりてマイナスとなったが、

それでも貴重な時間を懸命に費やした俺たちは、

年の暮れを迎える頃には、ピカピカの免許を取ることになった。





「ちょっと、ちょっと、ちょっと!」

「うるさいな、そこ邪魔だって」

「だって、お父さんの車なのよ、やっとローンが終わったの」

「お前はあれこれ言わずに、黙ってみていなさい」


免許を引っさげて、年末に帰宅すると、すぐに車を貸してくれた親父に、

危ないからとくらいつく母親がいた。

助手席に親父を乗せて、町をとりあえず1周して、無事車庫入れを済ませてみる。


「東京より数倍走りやすいよ。道路は広いし、車は少ないし」

「そうなの?」

「そうだよ。高速教習なんて、そのスピード感に一瞬顔が青ざめたからさ」


ぎこちなさは確かに残っていたけれど、なんとか両親に合格点をもらい、

新年明けのデートに車使用が許可される。

家族全員が『紅白』を見ながら、あれこれ話している間、

俺は地図を広げ、美咲をどこへ連れて行こうか、あれこれ悩み続けた。





新年は爽やかな青空で始まった。

年賀客に忙しい5日までを避け、6日に美咲をデートに誘う。

本当に車で来てくれたと、あいつは笑っていた。


「どこに行くの?」

「任せてくれる?」

「もちろん」


行き先は、山を越えたところにある牧場に決めた。

美味しいレストランがあることが有名で、

しかも、そこで飼育されているポニーの赤ちゃんが、

11月の始めに生まれたと、恭介から情報をもらっていたからだ。

道は順調に進み、近道として選んだ山をどんどん登っていく。

その途中にポツンと1つ、看板が見えた。



『HOTEL りんどう』



この道は、大きな幹線道路につながっている。

ご休憩料金を取るホテルが、それから数件、俺の目に入ってきた。

隣に座る美咲を見ると、あまり気にしていないのか、視線があちらこちらに動いている。


「あと……どれくらい?」

「ん? えっとそうだな、30分くらいかな」

「そう……」


今から行くのは『牧場』。それはわかっているけれど、

帰りに疲れたから寄り道しようと言ったら、美咲は怒るだろうか。

曲がる場所を間違えないようにと思いながらも、頭の半分は別のところへ向かっていた。





牧場ではお目当ての赤ちゃんも見ることが出来、

ガイドブックに乗るようなランチにもありつくことが出来た。

美咲がお店のみなさんにと土産を買うところを見て、慌てて家へ土産を買う。

手ぶらで戻ったら、また母親にグチグチ言われそうだ。

最後の店で、揃いのキーホルダーを買い、車に乗り込んだ。

シートベルトをしっかりと締め、エンジンキーを入れる。

美咲も同じようにベルトを締め、カーステレオの曲を、最初に戻した。



帰り道は少しだけ渋滞した。それでも山登りに差しかかった頃には、

問題にならないくらいの流れになる。

さらに車の数が減り始めたとき、ご休憩ホテルの1番手が、目の前に現れた。

このまま走り続けたら5分ほどで、その集まりを抜けてしまう。

迷っている時間はない。


「美咲……」

「何?」

「あのさ、もう少し時間ある?」

「時間?」


美咲は勘が鋭いのか、どうしてなのかと聞き返しては来なかった。

なんとなく俺の言いたいことを察したのか、それとも呆れたのか、

言葉が戻ってこない。


「また、いつ会えるのかわからないし……」


毎日会えるような間柄なら、わざわざ寄ったりはしないけれど、

俺にとって美咲と二人でいられる時間は、とてつもなく貴重なものだった。


「いいよ……」


『行かなくていいよ』ではなく『入っていいよ』だと、言葉のトーンで理解する。


「うん……」


アクセルを少し強く踏み込み、次に見えてきたホテルに車を滑り込ませた。

こういったホテルだと、ホテルマンというような人とは、顔をあわせないらしい。

一覧表が写真として貼り出されていて、

番号を何やら開いている穴に向かってコールする。


「何番の部屋にする?」

「駿介、決めてよ」


部屋の色合いがそれぞれ違っているようで、どうしたらいいのかわからない俺は、

『6』を選択した。美咲はどうして『6』にしたのかと問いかけてくる。


「ん? 今日が6日だから」


正直、どうだってよかった。

二人で一緒にいられるのら、ベッドが丸かろうが、四角だろうが、

ミラーが動こうが、椅子が光ろうが。

車を下り、手をしっかりとつなぎながら、俺たちは『6』の部屋へ向かった。





「ただいま」

「駿介? あぁ、よかった。無事故だったのね」

「当たり前だろ」


俺は家に戻り、牛のようにまだら模様の『クッキー』をテーブルに置いた。

食事が出来るまで上にいると言い残し、階段を上がり部屋へ入る。

母親の前では余裕を見せたが、さすがに長い運転は初めてに近かったので、

緊張が取れたのかどっと疲れが押し寄せる。

ベッドに横になると、天井を見た。



『6』の部屋で過ごした時間、美咲は天井が鏡になっていると指差し、二人で見上げた。

キスをしたり、体に触れている間は、

どうしても女である美咲が下になることが多い。

美咲は、自分の顔と目が合うのが恥ずかしいと笑うので、

なかなかムードが作れずに焦ってしまったが、それでも二人でゆっくりと形を作り、

久しぶりのぬくもりを感じあった。



こんな雰囲気も悪くはないかもと、俺は正直、そう思った。





東京へ戻り、冬から春を迎えていく。

2月の頭に美咲が東京に来て、一緒に水族館へ向かった。

泳ぐ魚を見ながら食事をした後、俺の部屋に戻ってくる。

また、地元でデートをした日には、海まで頑張って運転し、

誰もいない海を見ながら、キスをした日もあった。





東京で迎える季節は、この春から2回目になり、

初めてだらけてわからなかったことも、経験から余裕が生まれ、

どんどんと自分のものになる。

禎史と憲弘だけだった仲間も、ゼミやサークルという集まりが関わりだし、

少しずつ膨らんだ。


「よし、釣り糸をたらせ!」


禎史の提案で、ワゴン車を借り、男女6人で川釣りへ出かけたのは5月の連休前だった。

女子メンバーは、林原が友達を連れてくる。


「なぁ、お前別れたの?」

「あれ? わかった?」

「わかるよ、近頃アパートで見かけないからさ」


俺の部屋の隣に住んでいる先輩と、付き合っていた林原は、

昨年の冬に別れを迎え、今はフリーだと笑った。

別れた理由を聞くと、相手が『結婚』の二文字をちらつかせ始めたからだと言う。


「向こうはもう4年だからね、多少は気になるのでしょうけど、
あまりちらつかせられると、重いのよ」

「重い?」

「そう……何よ、将来の家政婦でも探しているつもり! って、そう言ってしまった」

「はぁ……」


林原が連れてきた友達は、釣竿に餌がつけられないようで、

俺は自分の竿を渡し、餌をつけていく。


「あ……ありがとう」

「いやいや、女性はこういうの出来ないよね」

「川釣りはしたことがなくて」


同じ大学の1年生、鮎川梨花。

彼女は短大に入学し東京へ出てきたが、自分の思ったものと違うことに気付き、

受験をしなおしたため年齢は同じなのに、学年が一つ下になる。

林原とは同じバイト先で知り合い、その縁で『東央大』を目指したという。

こういったとき、田舎育ちは結構役に立つ。

川釣りなんてものは、中学時代にもやっていたし、

田んぼや畑で、虫やざりがにを捕まえるのも、別に珍しいことではなかった。


「あら、倉ちゃん優しいのね、私にはやってくれないのに」

「林原は自分で出来ていただろ」

「あれ? そうでしたっけ?」

「お前は何でも自分でやってしまうからダメなんだよ。
女はウソでもさ、生きているエサは怖くてつけられない……くらい
言った方がかわいいと思われるぞ」

「は? 何を……うわぁ……ベタね、倉ちゃんは。やだやだ」

「ベタ?」

「ベタベタな趣味ってことよ。
そういう男は見掛け倒しの女に、コロッと騙されるんだから」


林原は釣竿を動かし、そう言い切った。

鮎川は、まなちゃんらしい意見だと笑い出す。


「おい、そろそろ食べる方の準備、始めるぞ」


禎史のかけ声が聞こえ、俺たちは青空の下、宴会準備を開始する。


「うまい!」

「本当だ……」


それぞれが川で釣った魚を焼き、人生の楽しい時間を味わった。




第12話

小さな芽を出した駿介と美咲の『恋』、強い風に倒されず、花は咲くのか……
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