【S&B】 20 去る人来る人

      20 去る人来る人



週が変わった月曜日、僕は原田を三田村と同じ屋上へ呼び出した。

書類の記号からあの時の真実を見抜いたこと。三田村が原田をかばい続け、

そのままにしておくことを選んだこと。一つずつ順序立てて話をすると原田は、

ハンカチを取り出し目頭を押さえ、申し訳なさそうに下を向いた。


「すみません、私……あの時は気が動転して、とにかくどうにかしないとって気持ちばかり」

「君を責めているわけじゃないんだ。あの時の僕の対応のまずさが、今の状況を作ってしまった。
三田村が仕事がしづらい状態になっているのは、原田にもわかるだろ」


原田は小さく頷き、自分の行動を悔やんでいるように見えた。今までどちらかというと

三田村に否定的なところがあった彼女だが、もう一度彼女が営業部に溶け込めるように、

努力をすると約束をした。


「君が優秀な社員なのは、みんなが認めている。こんな失敗くらいで取り消しにはならないから」

「……主任」


冷静になれば対処できることなのに、その時の気持ちひとつで、言葉は簡単に人を傷つける。

原田と僕は積極的に三田村に仕事をまわし、そのうち、少しずつ以前のような雰囲気が

感じられるようになった。







      >雷おこしさんの紹介してくれた『ミルフィーユ』
       普通のお店より、少し小さめで食べやすかったですよ
       包装紙につけられていたリボンが、かわいいですね


三田村の状況がよくなりはじめ、ぺこすけも、頻繁にブログに顔を出すようになった。

彼女の楽しそうなコメントに、少し気持ちが楽になった反面、見たくない部分が見えるようで、

少し複雑な気にもなる。


       一緒に食べることが出来たら、いいんだけどな……


花壇の煉瓦に座っていた男は、しばらく彼女を迎えに来ることもなく、6月も半ばになった。


久しぶりに早く家に戻りテレビを見ていると、カタカタと音がして1枚のFAXが届く。

機械からはらりと1枚の紙が、目の前に落ちた。それは母からのもので、店の事務員を募集する

広告を掲載するための見本文章だった。相変わらずのつなぎ字で、恐ろしく読みにくい。

年齢は問わないこと、休暇のこと、手取りのことなど、それなりの情報は入っているが、

一番大事なものが抜けている。昔から母のやる気は、こんなふうに空回りすることが多い。


僕は、何分後かに鳴るはずの携帯を握ったままテレビへ視線を戻すと、目の前で流れていた

クイズ番組が終了し、明日の天気が結構いいものだと教えてもらえた頃に、

しびれをきらした母からの電話が鳴った。


「はい……」

「ちょっと祐作。見てくれた?」

思ったら即実行の母らしいコメントに、ソファーに寄りかかっていた体を起こし、

もう一度用紙を手に取ってみる。


「見たには見たよ。一番大事な電話番号が抜けてますけどね」

「あら……」


母にすぐ募集の理由を尋ねようとしたが、誰かに話しかける声が聞こえ、僕は言葉を止めた。

電話の向こうから聞こえる、少し太い声の持ち主の予想がつき、一度深呼吸する。


「何度も見直して大丈夫だと思ったのに、お母さんはやっぱり慌て者だわ」


向こうで母を待つ人に悪い気がして、僕は結局そのままたいしたことも話さず、電話を切った。





『かいづか』の会長から連絡が入ったのは、次の日だった。どこか賑やかな場所からのようで、

周りの声に負けないようにさらに大きな声を出す。



『どうしても話したいことがあるのよ。青山ちゃんならピンと来ない?』



会長の声のトーンは悪いものではなかったし、『青山ちゃん』という呼び名もそのままだった。

しばらく守口に対応を任せた『かいづか』だったが、久しぶりに本店へ顔を出す。

取り仕切る夕夏さんはいつものように僕を迎え、結婚が決まった梨花さんが、

珍しく事務所に座り、僕に頭を下げた。


京佳さんの姿は、見えなかったが……。


「忙しいの? 近頃守口君ばかり来て、青山ちゃんが来てくれないんだもの。
もう、かいづかなんてどうでもいいから、別のクライアントのご機嫌、伺っているんでしょう」

「いや、そうじゃないんですよ。会長のように話がわかりやすく仕事が出来る方には、
どんどん営業部員を鍛えていただかないと」

「やだ、青山ちゃん。そんな本当のことを言われちゃ言い返せないわ」


会長と夕夏さんは僕の前に書類を出し軽く笑う。『男の着物』というコンセプトで、

広告を出したいが、男性誌にいままで掲載した実績もなく、出版社との交渉に協力して欲しいと

提案した。


「男性誌ですか……でも、何でもいいわけじゃないですよね」

「そうなんです。あんまり女性の裸ばっかりっていうのじゃねぇ。だからといって、
固すぎるのも読者層の問題があるでしょ」

「そうですね……」


夕夏さんはファッションの特集もあり、経済的な特集も組まれるような雑誌に

なんとか入り込めないかと言い、具体的に提示できる金額を表示する。

僕は手帳と万年筆を取り出し、その表示金額を忘れないようにメモをした。確かに実績はないが、

業界の大手であり、経営もしっかりしている企業からの広告なら、必ず飛びつく雑誌があるはずだ。

どんな切り口から責めようかと、頭を働かせ始めたが、会長に、一瞬で脳を支配される。


「ねぇ、青山ちゃん、京佳にお灸すえてくれたんだって?」

「あ……エ?」


会長は突然そう切り出すと、持っていた扇子を広げ、パタパタと顔を仰ぎはじめた。

宮廷の文化が漂う高級そうな香りが僕の方へ届き、なぜか怪しいガスが漂っているかのような

息苦しさを感じる。どこまで京佳さんが話をしたのか、わからないまま探られるのは、

なかなか大変だ。


「あの待ち合わせ場所を教えたのは、私なのよ。京佳がいいところないかって言うから」

「あ……そうなんですか」


僕と会うことを、会長が知っていたのだと知り、さらに頭の中でグルグルと

いろいろなシチュエーションが回り出す。僕はまた、この親子の罠にはまったということなのか。

どこかで京佳さんが笑っている気がして、さりげなく周りを確かめた。


「新潟の堺酒造が経営している店だってことも、青山さんが知ってたわって、
帰ってきた京佳が話してくれたの。さすがね、青山ちゃん。そっちにも手を伸ばすの?」

「いえ、以前一度だけ杉森酒造さんと仕事をしたことがあるんですよ。
で、その会社がモデルにしていると言っていたのが、堺酒造さんだったので」

一体、京佳さんはどこまで会長に話しているのだろうか。夕夏さんが出してくれた書類を見ながら、

気持ちはそちらに向かい、どっちがメインなのかわからなくなりつつあった。


「高橋君とのこと、自分でしっかり対応しなさいって怒られたって聞いて……」


高橋君……。京佳さんが別れたいと言っていた先輩の名前だと、その時に初めて知る。


「1杯だけお付き合いしてくれたけど、時間がなかったのかすぐに帰ったっていうもんだから、
あんたなんのためにホテルのバーを教えたのよ。ウインクの一つでもして、
その先へ持って行けなかったの! ってしかってやったのよ」


会長はそう言うと、パタパタしていた扇子を楽しそうに手で叩き、笑いはじめた。

隣の夕夏さんは何を言っているのという顔で、会長の背中を軽く叩く。


「ママ、青山さんに失礼よ。女の子の母親が言うようなセリフじゃないし。ねぇ……」



『関係のない関係じゃないですからね……』



僕はその京佳さんのセリフと強気な表情を思いだし、なぜかおかしくなった。会長の言うとおり、

僕を誘ったわけではないだろうが、最初に感じたおとなしそうな印象から、

二度目の生意気な大学生に代わり、また、少し背伸びする女の子のイメージが僕の中に目覚める。


「ごめん、ごめん、青山ちゃん。気分悪くしないでね、冗談よ。違うの、娘3人でしょ、
正直末の京佳には甘くしすぎたって今頃反省してるの。あの子の性格じゃ
同じくらいの男の人をなめてかかっちゃって。わがままだし、自分勝手だし、
それでも、うちの娘だってことをみんな知っているから、どこに言ってもかわいがられて……。
あ、まぁね、美人なのは母譲りだから、仕方ないんだけど……」

会長はそう言うと豪快に笑い、ソファーから立ち上がる。その行き先を目で追うと、

マネキンが着ている着物を指差し、また僕にモデルになれといつものように合図する。

僕は苦笑し、いつものように首を横に振った。


結局、京佳さんが会長に語ったのはそこだけで、青山ちゃんが青山さんに格下げされることなく、

僕はその日『かいづか』を出た。





「おはようございます」

「おはよう」


いつものように迎えた次の日、いつもなら早めに出社し、それなりに仕事の準備を進めている

三田村の姿がなかった。原田も休暇の連絡がない彼女を心配し、大橋の到着を待ち、

何か知らないかと問いかける。大橋は事情を知っているようで、荷物を置き話し出そうとした。


「みんな、座ってくれ!」


その大橋の後ろに魚沼部長が現れ、隣には初めて見る女性が立っていた。

大橋はその女性を知っているのかすぐに頭を下げたが、濱尾や原田は事情がつかめず立ったままだ。


「今日から、第一営業部に派遣として来てくれることになった、鮎川さんだ」

「部長、一人増えたということですか?」


驚き顔をした濱尾より先に僕の口が動き、魚沼部長はこちらを向く。


「それが急なんだが、三田村さんは退社したそうだ……」


なんともいえない空気が営業部に流れ、ただ一人今日から勤務する鮎川さんだけが、

明るい笑顔を見せ、僕たちに挨拶をした。





21 僕の心と僕の足 へ……




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コメント

非公開コメント

休日の午後・・・

ももちゃん こんにちは^^

祐作君の周りは、何かと慌しいですねぇ。
それも女性がらみの件ばかり (原田さんに三田村さん、お母さん、京佳さん)

原田さんのことで一件落着だったのに、三田村さん・・・どうして退職なの??
例の男の事も気になっていたのに、うーん謎

しかし、京佳ママの会長はワンマンだね^^;
ちょっとクセのある人に好かれちゃった祐作君、ちょっとやそっとじゃかわせないでしょう^m^

>宮廷の文化が漂う高級そうな香りが僕の方へ届き、なぜか怪しいガスが漂っているかのような
息苦しさを感じる

怪しいガスってところが好き~~
会長への祐作のイメージが良くわかるもの(笑)

ここのブログのテンプレートって、いろいろあるんだね。
枠がないのって、すっきりしていい感じ♪
背景のお花がまた爽やかで・・・
いいな~と羨ましい私でございます・・・
(ヤフーブログは地味なんだもん ^^;)

た、退社?

エーー三田村さん辞めちゃったの?v-12 あの男ね原因は(決め付けてる!)
ブログにも顔を出すようになってきたのに・・・酷いことされてなければいいけv-388

京佳さんのことも会長はよく分かってくれてるみたいですね、流石一流の会社を取り仕切ってるだけのことはあります。v-218青山ちゃんのままでホッと一安心。

祐作の着物姿見たいけど!モデルやらないの?v-335

今日美味しいケーキ食べてきました、季節のイチゴe-243がタップリ乗ったタルト、
二個食べようとして止められた。残念e-443

男もあるぞ

なでしこちゃん、こんばんは!

>祐作君の周りは、何かと慌しいですねぇ。
それも女性がらみの件ばかり (原田さんに三田村さん、お母さん、京佳さん)

あはは……、忙しいでしょ? でも、男e-396もあったよ、ほら、濱尾君の失敗!

降りかかるときは、降りかかるものです。


>原田さんのことで一件落着だったのに、三田村さん・・・どうして退職なの??
例の男の事も気になっていたのに、うーん謎

これで終わり、には、もちろんなりません。それじゃ、今までなんなのさと怒られちゃうし。
ワンマン会長も含め、まだまだ話はこれから、これからです。


>ここのブログのテンプレートって、いろいろあるんだね。
枠がないのって、すっきりしていい感じ♪
背景のお花がまた爽やかで・・・

そう、すごいよ。公式のものと、みなさんが作って出してくれているものもあって、
4000はあるんだと、説明に書いてありました。

文字が読みやすくしたいと思ったので、枠なしを選んでみた。お花e-398も変わって気に入ってます。

あぁ、やっと週末終了、また、学校が始まって嬉しい。

食べたいぃ~

yonyonさん、こんばんは!


>エーー三田村さん辞めちゃったの? あの男ね原因は(決め付けてる!)
ブログにも顔を出すようになってきたのに・・・酷いことされてなければいいけど

そう、三田村さん、辞めちゃったの(って、私が辞めさせたんだけど)。
その理由はちゃんと次週わかるよ。時代だねぇ……ということで。

あの男……気にしてくれてるね。v-391うん、うん、ありがとう。
醜いことをされてるのかどうか、それもこれからわかるのだ。


>祐作の着物姿見たいけど!モデルやらないの?

祐作はサラリーマンv-296だからね。バイトは禁止e-61です。
やるならば、京佳さんと結婚するかなんかして、会社を辞めないとダメだろうな。


>今日美味しいケーキ食べてきました、季節のイチゴがタップリ乗ったタルト

いいなぁ……いちご関係のケーキv-274が、私一番好き。
友達と食べ放題とか、行きたいわ……
もうすぐ春だし(笑)

拍手コメントさんへ!

こんばんは!
コメントありがとうございました。

楽しみにしていただけて、本当に、本当に感謝です。
このいただいた声が、また私の励みv-352になり、パワーv-91になります!

サークルから来て下さったのか、それとも、ここで知って下さった方なのか、
教えていただけたら嬉しいな……

もしかしてHN出してもOKでしたか? まだ、ブログに不慣れでごめんなさい。