1 かわいくない女 【1-2】

【1-2】

それから2週間の中で、森口支店は新しい環境へ色を変えた。

いつもなら出社などない土曜日にも、管理職の面々は準備をし続ける。

そして、新春に合併を発表した『成和銀行』の人たちが、

いよいよ顔を出す日がやってきた。

世の中的には、『合併』という扱いにしてあるが、

業界の地位も売り上げも低い『東日本』が、

上位の『成和』に吸収されることは明らかで、

今まで雑誌を読みながら笑っていたような、役に立たない上司たちは、

自分の首がどこで切られるのかと、焦り出しているはず。


今まで『森口支店』のトップだった『山田支店長』は、

とりあえず合併後も支店長の座を得たようだが、それもいつまでなのかはわからない。

『成和銀行』からは、合併で閉めた支店の副支店長も合わせ、

2人の『副支店長』がくることになっていた。


『東日本銀行』と『成和銀行』。

それぞれの支店で、トップだった人事は今回無理に異動させず、

身近な支店同士が、それぞれ合わさる形で動いているが、

システムはほとんどが『成和』側のやり方にまとめられている。

合併が落ち着く秋以降に、実際に力を持つのは、

この後、姿を見せるはずの、『成和』から来る二人なのだろうと言うことも、

行内では当たり前の話題だった。


「米森さん、どんな方なのか、ご存知ですか?」

「どんな方って?」

「やだ、『成和』から来る副支店長ですよ」

「わからないけれど」

「そうですか……ちょっと小耳に挟みましたけど、『副支店長』の一人は、
数年前まで、うちにいた人らしいですよ」


仕事はあまり出来ない高野さんだけれど、こういった噂話を得るのは、

本当に上手だった。誰が上司をしようが、

私はマイペースに仕事をするだけだと、お弁当の残りを口に入れたが、

最後に残った『卵焼き』に、ある男の顔が浮かんでくる。



『歌穂……』



私が、『東日本銀行』に入行したとき、『有働謙(ゆずる)』は5つ上の先輩だった。

仕事が出来た自信満々の男は、野心を持つと言うことはこういうことだと形で示し、

慣れない作業に戸惑う私にも、何度も救いの手を差し伸べてくれた。

その当時は、大学から付き合っていた人がいて、謙がいた1年の間に、

その距離が埋まることはなかったが、その彼と別れ、私が25になったとき、

勤務が『神波支店』に代わり、同じく別支店から謙も異動になった。

『法人2課』の担当だった謙は、相変わらず頼りになる先輩だったが、

別れを経験し、『恋』することに少し臆病だった私を、もう一度と強引に誘い込んだ。


謙に遠距離恋愛をする彼女がいることを知った時には、

気持ちは止まらない状態になっていて、行き着く先などどこなのかわからないまま、

私は彼と時を重ねた。


しかし、そんな関係は、私が28になったばかりの頃、突然に切れてしまう。

人の気持ちをかき乱しただけの男は、『東日本銀行』を辞めるという形で、

私の前から消えた。


「若い行員も数名来るらしいですし、賑やかになりそうですね」

「そうだよね……素敵な人がいるといいな」

「うん、うん、どうせ『東日本』の行員なんて、いづらくなるもの、
こうなったら『成和』から相手探ししないと。出世するのは向こうよ、きっと」


あまりにもどうでもいい話題の中に、黙って座っている気持ちにもならず、

私は席を立ち、少し早いが仕事へ戻った。

きちんと仕事をすれば、結果となって戻ってくるこの数字たちの方が、

よっぽど落ち着きを持たせてくれる。

『成和』のメンバーが揃って顔を出したのは、

営業時間が終了し、そろそろ席を立とうかという17時少し前のことだった。





「このたび、『東日本銀行』と『成和銀行』が合併し、
『東日本成和銀行』となりました。私が副支店長として赴任した後は、
みなさんと一緒に力を合わせ、さらに上を目指して行きたいと思っています。
どうか、よろしく」


誰もこの場にいないのなら、今すぐにでもトイレに駆け込み、

何もかもを吐き出してしまいたいくらいだった。

ありえないと思っていたことが、現実になり、私はただ下を向く。



『有働謙』



あの人が、私の上司として、この銀行に復帰した。

私が32になったのだから、彼は37になるはずだ。

左手にはしっかりと結婚指輪があり、仕事をしたという実績が体に染みつき、

腹が立って、ここで地団駄を踏みたいくらいだけれど、

悔しいが昔よりさらにいい男になっていた。


「入行4年目、梶本圭です。よろしくお願いします」


結婚相手を狙う高野さんたちの視線を一身に浴びたのは、『梶本圭』という男性だった。

背も高く、確かに見栄えはいい。

まるで、どこかの雑誌でモデルでもしていたのではないかと、

疑いたくなるくらいだった。




【1-3】

かわいくない女に、素敵な恋は訪れるのか……
ぜひ、最後までおつきあいください。
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