1 かわいくない女 【1-6】

【1-6】

「こだわらないのか」

「はい。その人がその人らしくいてくれたら、
それがいいと思うタイプなのかもしれません。
料理よりもやりたいことがあるのなら、自分が作ってもいいと思っていますし」


願ったりなせリフだと、高野さんは嬉しそうに同調する。

井上さんも、これが今の男女関係だと、立場など全く気にすることなく、

勝ち誇った顔をした。


「そうかなぁ……僕の考えが古いのか、料理は作ってもらうものだと思っているな。
ほら、米森さんの卵焼き、あんなものを作ってもらいたいと、そう思うけどね……」



『歌穂の卵焼きを食べると、一日が始まる気がするよ……』



「米森さん……ですか……」


高野さんの目が、こちらを向いた。

そんな素敵なものが作れるのなら、なぜ米森さんはまだひとりなのか、

そう言いたげな目に見えてくる。

私は、入りたくもない話題に入れられてしまい、話のネタにされた卵焼きを、

さっさと口に入れ、お弁当箱を閉じた。


「米森さんは、毎日……」

「お先に失礼します」


何もかもを知っていて、知らないふりをする謙の態度が腹立たしかった。

今朝、仕事をふった時のこと、そして今のこと、

人のことをからかうのもいい加減にして欲しい。

私はエレベーターを上がり、資料室の前へ向かう。

この階は、『東日本』の中でいつからか、『行員処理場』と噂されている場所だった。

『成和』との合併が決まる前から、『東日本』の業績は思わしくなく、

形を維持するための、人員整理が当たり前になっていた。

『新しい組織が動くまで』などと理由付けをされ、この場に送られた人たちは、

自分は銀行にとって不要になったのだと気付き、

しばらくここで暮れていく夕日を見た後、『退行』の花道を歩く。

お客様が出入りする1階や、融資などで慌しく動く2階とは違い、

ほとんど人の出入りがない、資料ばかりが並ぶ空間。


「はぁ……」


歓迎会などいつでもいいし、誰が弁当を作ろうが、買おうがどうでもいい。

何も耳に入れて欲しくもないし、ほっといて欲しい。



『まだ……一人だったんだな』



謙は、どういうつもりなのだろう。

私をからかいながら、ここを追い出すつもりだろうか。

私は、思いつくことをあれこれ考えながら、自動販売機でコーヒーを買う。


「あれ?」


お金は入れたはずなのに、なぜか出てこない。

機械にまでバカにされた気がして、

私は腹が立って販売機の商品出口を、思い切り蹴り飛ばした。

それなりの大きな音がして、それで終わるかと思ったのに、

カチンカチンとどこからか聞こえ出した音がそのまま続き、

30秒くらいした後、いきなり商品が下に落ちてきた。


「あ……あれ?」


一つならそれでよかったが、販売機の逆襲は続き、止まることなく落ちてくる。

3つくらい落ちたところで、出口が混雑してしまい、私は慌てて外へ出した。


「どうしよう、やだ……どうしたらいいの?」


『微糖』のコーヒー缶が、悪いことをした私に向かって落ちてくる。

どうすることも出来ないまま、とにかく商品が詰まらないように出し続けていると、

エレベーターが開いた。

誰でもいい、この壊れた機械をどうにかしてほしい。


「すいません、ちょっと、あの!」

「あれ? 米森さん」


姿を見せたのは、梶本君だった。

私は両膝をついた状態で商品を出しながら、必死でこの状況を説明する。


「とにかくどうしたらいいのかわからないの。
このままじゃ、商品がみんな出てしまうかもしれない……」


私が蹴り飛ばしたからだ。悪いのはこの販売機ではないのに、

バカなことをしたからだ。カフェオレのコーヒー缶まで出始めて、

あっという間に10缶を越えている。


「どこまで行きますかね、全て出ちゃうのかな」

「梶本君、何ふざけたことを言っているのよ。これ、どうにかしないと……」

「大丈夫ですよ、全て出てしまったら、また入れたらいいんですから」


梶本君はそういうと、ポケットから携帯を取り出し、

販売機に書いてある電話番号へ連絡を入れた。

相手から販売機の機械番号を聞かれ、それを答えると、私の方を向く。


「どうしてこうなったのかって、聞いてますけど。
米森さん、販売機で買ったのですか?」

「うん……お金を入れて、で、出なかったの」

「出なかったんです……はい」


出なかった。そう、確かに出なかったのだけれど、

その後、私はイライラを販売機にぶつけてしまい、蹴り飛ばしたのだ。


「で、勝手に出たんですか?」


言いたくないけれど、言わなければ仕方がない。

悪いのは私。


「出てこないから、イラッとして蹴ってしまったの!」


販売機の反乱は止まらない。カチンカチンと言いながら、今度は別銘柄が出始める。

『微糖』、『カフェオレ』、そして『無糖』。

私はそれぞれの商品ごとにとりあえず山を作る。

こうなったら全て出るまで、止まらないかもしれない。


「あ……えっと、商品が出てこなくて、それで……。
ここに電話をしようとしたら、いきなり出始めました」


ウソをついた。

梶本君は、驚いている私の方に向かって、軽く舌を出す。


「はい、そうなんです。カチンカチンという音がし始めて、
で、今……そうですね、30缶近く出てきています」


梶本君は、最後まで私が販売機を蹴ったことを言わなかった。

メンテナンスの会社は、すぐに向かうので、

とりあえず商品を全部置いておいてくれと電話で頼んできたらしく、

私たちは販売機が止まるまでその場に残ることになる。


「はい、どうぞ」


梶本君は『微糖』を私に手渡し、自分はブラックのコーヒー缶を持った。

後でお金は払いますと、笑顔を見せる。


「どうして私が蹴ったって、言わなかったの?」

「報告するようなことでも、ないと思いましたから」


無意識のうちに庇われた気がして、居心地が悪くなった。

逆にものすごく悪いことをしたような、そんな気分になる。


「米森さんが、プロのキックボクサーだというのなら、報告すべきでしょうけれど、
女性がイライラして蹴ったくらいで、壊れてしまうのなら、それは機械の問題です」


梶本君だけが事実を知っていると言うことが、どうにも府に落ちなかった。

私は庇って欲しいわけではないのだから。


「いいわ、私、メンテナンスの人が来たら、正直に話すから。
ウソを受け入れて黙っているのは、卑怯だと思うし」

「そうですか」


梶本君は、米森さんがそれで納得するのならそうすればいいと言い、

おまけに置いてある木のベンチに座る。

私も少し間を空けてベンチに座ると、そこから無言のままコーヒーを飲み続けた。




【2-1】

かわいくない女に、素敵な恋は訪れるのか……
ぜひ、最後までおつきあいください。
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

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続くかな

pocoさん、こんばんは

>毎日楽しませてもらっています。
 このドキドキする感じ、続くと良いな

続くように、頑張ります!(笑)