2 余計なことをする男 【2-6】

【2-6】

「もう1杯……」


酔いつぶれてしまいたかった。

『東日本』と『成和』が合併してから、謙がまた私の前に顔を見せるようになってから、

絶対に違うと必死に思い続けているものの、

それも違うのだと叫ぶ自分が消えなかった。

このままでは、彼の誠意などない誘いを断れなくなる日が、必ず来てしまう。

声をかけられると喜んで尻尾を振る犬のように、あの男を受け入れてしまう。


そして私は、また、空しさと苦しさの中で、

奪えないものの大きさに、ため息をつくことになるのだろう。


「ふぅ……」


どうでもいいような『愛』を、この身体に刻み付けたかった。

何かが起こればきっと、頭と心を空に出来る刺激さえあれば、

過去の思い出など流れてしまう。

私は、何杯お酒を飲めば、気持ちが落ち着くのだろう。

気付くと、隣には知らない男性が座っていた。一人なのかと、声をかけてくる。


「……だとしたら?」

「だとしたら、一緒に飲まないかなと……」


どこかの会社のサラリーマン、私にはそう見えた。

ネクタイとスーツのセンスも、悪くはない。


「……別に……いいけど……」


男の目を見れば、どういうことを期待しているのかくらい私にだってわかる。

『一夜限り』の大人の遊びに、私は誘われている。

人の気持ちは、肌を通してあふれてしまうものなのだろうか。

『誘われたい』と思いつつ、ここに座る私は、釣り人の針にひっかかったのか、

それとも引っかけたのか、どちらなのだろう。


「まだ……飲む?」

「飲んでもいいの?」

「いいよ、おごる」


私は、それならあなたが選んでくれものを飲むと言いながら、

初めて出会った男の肩に頭を乗せた。

今日の遊びに、付き合ってあげる……きっとそれがサインになるだろう。

こうなったらとことん飲んで、隣にいる男がどんな人なのかなんて、

何もわからなくていい。

普段ならこんなことは絶対にしないけれど、

今の私には、それが必要なことに思えてならなかった。



つけられた傷は、また傷をつけることで消えていく。

そんな気持ちになっていく。



自分で飲んだのが3杯、彼に飲まされたのが2杯。

酔っている私に、男はさらに強めの酒を勧めてきた。

だんだんと気持ちだけが浮き上がっていて、身体が置き去りになっている気がする。


「ふぅ……」

「大丈夫?」


何が『大丈夫』なのかはわからないけれど、私はとにかく頷いた。

介抱するはずの男の手が、私のスカートのすそに触れていく。

始めは軽く触れただけだったけれど、私が拒否しないことがわかると、

その手は内側へと滑り出した。私の内股あたりをさするように手が動き、

男は見てもいない夜景が綺麗だと、どうでもいいことを話題にした。

新しいお酒がまた、私の目の前に届く。

見たこともない色のお酒。これ、何て言うのだろう。


「美味しい……」

「そう、それならよかった」


男の手は、気持ちをくすぐりながら、さらに内側へと向かう。

ここはあくまでもお酒を楽しむ場所。私は右手でその手をつかみ、

無言のまま何をするのと目で訴えた。男はわかっているよねという顔をしたまま、

少しだけ口元を緩めてくる。


「ふぅ……」


『女』とは不思議な生き物だとそう思う。これから何が起きるのか、

経験ですでに知っている身体が、こうなったらすぐにでも応えを出そうと急かし始める。

動き始めた感覚は、止める事など出来なくなっていた。

流し込むようにしたお酒が、気持ちと身体をバラバラに支配する。

普通の言葉がガンガン響くときもあれば、子守唄のように聴こえることもあり、

男と店を出た私は、気付くとホテルのロビーにいた。


「ふわふわ……」


その身体はソファーに沈み、気を抜くとどこか遠い世界へ行きそうになる。


「ごめん、待たせた」


男は数分後に戻ると、私の腰をつかみ、立ち上がるようにとささやいてくる。


「ほら……僕につかまって」


私は男に支えられながら、ふらつく足でエレベーターに乗った。

人が行き交うロビーを遮断するように扉が締まり、ガシャンと音をさせる。

男は我慢の限界だといきなり私を抱き寄せ、キスをしてきた。

荒い息づかいに耳を刺激され、熱くなっている身体を押しつけられ、

絡みつくようなキスが続く。

私の身体もすでに敏感になっていたけれど、この場で乱れるわけにはいかない。

服の中に手を伸ばした男の隙を見つけて少し離れると、

顔だけを彼の胸にうずめ、とにかく息を吐いた。

エレベーターの不安定な動きに、少しだけ身体が揺れる。


「ほら……危ない、少し休もう」


休ませてなどくれないくせに……と思いながらも、

私は無言で頷き返していた。



【3-1】

昔の彼と、隣の後輩に振り回される歌穂……
『恋』する気持ちは、どこかに落ちているのか。
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