7 守られている女 【7-3】

【7-3】

「本当に勝手ですよね、男って」


ポツリとそう心がつぶやいた。

私の目の前に現れて、また気持ちを乱す人。

妻にした女性がいるくせに、平気で君に気持ちが向いているなどと、

言えてしまう男。


「そう、勝手なの。でも女は男を好きになるのよ。
周りからみたら、そんなのやめなよっていう相手でも、
自分にとって素敵なところがあれば、それで『恋』になる」



『俺、あなたに惹かれています……』



こんな私でも、梶本君にとっては、どこか魅力があったのだろうか。

『恋』をする気持ちに、なったのだろうか。


「あぁ、もう、こんな話をしていると、ジョッキで生をグイッと飲みたくなるわ」

「はい……」

「……ないのよ、それがこの店には」


響子さんは、今度ビールを出そうかと冗談をいい、最後まで流しを片付ける。

今言える愚痴を全て聞いてもらい、『ジュピター』を出たのは、

それから1時間後くらいだった。

学生時代の友人でもなければ、昔から知っている先輩でもないのに、

響子さんは、不思議な人だとそう思う。

年だけが重なってしまって、どこかとまどっている自分のことを、

等身大で理解してくれるような、そんな思いがどこかにあるのかもしれない。


「明日も、晴れるかな」


星の輝く空を見上げながら、私は家への道をゆっくりと歩いた。





『支店長地区会議』を明日に控えた日、いつもの営業だと思っていた銀行に、

思いがけないお客様がやってきた。

私は何もわからず、普段どおりの仕事をしていたが、支店長が謙に声をかけ、

彼は慌てた顔で、階段を昇っていく。


「……だそうです」

「何?」


情報だけは素早い高野さんが、私の横に立ち、書類を差し出した。



「有働副支店長の奥様が、いらしたそうですよ」



『有働副支店長の奥様』つまり、『謙の相手』。

昔、私の夢を打ち砕き、彼と同じ指輪をはめた人が、この支店に顔を出した。

謙に憧れている井上さんは、どんな女性なのかと高野さんに聞いている。


「チラッと見ただけだけれど、背はあまり高くなくてかわいらしい人だった。
副支店長の奥様って威圧感はないのよ」


別に、私が慌てることでもないのに、鼓動が速まった。

何をするためにここへ来たのだろう。謙が具合を悪くした日、

ハンカチ以外に残したものなどないはず。

そう、私は責められるようなことは、何もしていない。

だから、もしここで会うことになっても、普通に挨拶をすればいいだけ。



いや……会いたくない。

自分が負けた相手の、妻として勝ち誇る姿を、見たくはない。



でも……

見たくないと思っているのに、どんな人なのかが気になって仕方がない。

叶わないと思えるような女性なのなら、

自分の思いに、諦めをつけられる気もする。



しかし、もし……

そう思えない人だったら……



止めなければならない気持ちが、走り出してしまう可能性もある気がして、

手に汗だけをかいてしまった。


「高野さん、ちょっと」

「はい」


呼ばれたのは、高野さんだった。

主任が上へ行き、お茶を出すようにと指示をする。


「わかりました」


知りたがりの高野さんは、嬉しそうに階段を上がっていく。

お客様が目の前にいる、この場所に下りてくることはないだろうと思いながら、

私は目の前の数字を追い続けた。



【7-4】

それぞれの立場はあるけれど、全てを取り払えば、一人の男と女。
歌穂のまわりも、慌ただしく動いていく……
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