9 今に気づいた女 【9-6】

【9-6】

「はい……」

「ねぇ、聞きたいことがあるの」


私はどうして急に態度を変えて出て行ってしまったのか、

本当は、私が約束を守れなかったことを怒っているのか、違うのか、

そう尋ねてみた。梶本君は口を強く結び、黙っている。


「約束を守らなかった私の方が怒るのも、筋違いかもしれないけれど、
事情はきちんと説明……」

「違います」

「違う?」

「怒っていたわけではありません」


梶本君は怒っていたわけではないのだと、もう一度繰り返した。

だとしたら、どうして急に席を立ってしまったのだろう。

今、見せてくれている顔だって、機嫌が悪いのだろうとしか思えない。


「だったら……」

「悔しくなったからです」

「……悔しい?」

「米森さんに近付く男の話を、ただ聞いている自分が、悔しくなったからです」


梶本君は、半分だけ見えている。

半分は隠していたいのか、こちらからは見えない。


「年下だから、相手としては考えられないと言われたことはわかっています。
でも……それは一生、俺にどうすることも出来ないし……」


資料作りをした日、私は梶本君にそう釘をさした。

私の年齢は32、彼は26。この差を埋めるのは出来ないと、そう言い切った。


「米森さんを取るかもしれない男の話を、聞いているのは……嫌です」

「梶本君……」

「すみません」


梶本君はそういうと、扉を閉めてしまった。

私はその場で、動けなくなる。

小林さんは確かに私の好みではなかったし、父の紹介だったのだから、

付き合う予定もない。

それでも、私は梶本君にシャッターを閉じたのだ。




自分から……




部屋へ戻り、片づけを再開する。

どうしてだかわからないけれど、目が潤んで、それが知らないうちに涙になった。


今日はこんな哀しい日になるはずではなかった。

私は一日中、彼に何を食べさせようか、どうしたら喜んでもらえるか、

そればかりを考えていたのに。


好きなものはなんだろう。嫌いなものはなんだろう。

『美味しい』と言ってくれるかどうか、笑ってくれるかどうか……





……彼のことばかり、考えていた。





押し込んだシルバーのネックレスを、首につけてみる。

どんな服にもよく合うものだったので、好きだったはずなのに、

なぜか今の私には似合わない気がしてしまう。




『米森さんを取るかもしれない男の話を、聞いているのは……嫌です』




この白い壁の向こうにいる彼は、今何をしているだろう。

私はネックレスを外し、もう一度自分の顔を見る。



エントランスで抱きしめられたとき、

こうしてくれるのではないかと思っていたのはなぜだろう。

『もう一度』と言われたとき、ウソつきだと思われなかったことに、

ほっとしたのはなぜだろう。

そして、何よりも今、これだけ寂しいと感じるのはなぜだろう。





……いや、なぜなのかは、本当は私が一番気付いている。





私は、梶本君を好きになっている。

6つも年下で、モデルにもなりそうな背の高い後輩。

長く続くのかどうか、どこまでいけるのかどうかもわからないけれど、

でも……




私も彼に、惹かれている。





外したシルバーのネックレスを、私は元の場所へ押し込んだ。





教えてもらった携帯のアドレス。

私はしっかりと文章を打ち込んでいく。



『明日、もう一度お誘いしてもいいですか? 話があるの』



人差し指が『送信』ボタンに触れ、壁を隔てた向こうの人に向かって、

メールが飛んでいった。



【10-1】

ピンチのあとにチャンスあり。ようはそれをつかめるか!
32歳、歌穂の『恋する思い』は、何をつかむのか……
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

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お久しぶりです。
読んだら、歌穂にエールを送りたい気分になりました。

だから、ももんたさんも頑張ってね(*^_^*)

milky-tinkさん、こんばんは

>読んだら、歌穂にエールを送りたい気分になりました。

ありがとうございます。
かわいくない歌穂に、『恋心』が復活したようです。
どうなるのかは、次へ

私もマイペースに楽しんで頑張ります。