10 勘違いをする男 【10-2】

【10-2】

まぁ、焦らずに聞いて欲しい。

ここからは6つも年上である女として、少し勇気のあるセリフだから。


「梶本君の好きなものはなんだろうとか、嫌いなものはあるのかな……とか、
メニューを考えるのも、買い物をするのも、本当に楽しかった」


そう、私は何年もこんな思いをしたことがなかった。

食べることにそれほど熱心ではないし、お腹が満たされればそれでいいと考えていた。

あれこれ料理をしたりすることを、私は、自分が嫌でしないのだと思っていたけれど、

そうではなかった。


「一つだけ……聞いてもいい?」

「はい」

「私、自信がなくて、自分自身に。
何かを頑張って成功したという記憶がないからかもしれない。
また、始めてもどこかで壊れてしまう怖さがあって、それを認めたくなくて、
だから、興味のないフリをしていたのかもしれない」

「……はい」

「だから聞きたいの。梶本君は、私の何を見てくれたのかな……って」



『あなたに惹かれています』



そう言ってくれた人だからこそ、聞いてみたかった。

恥ずかしいけれど、勇気を持って、発言する。

これを聞けたら、また一歩前に進める気がして……


「たくさんありますよ」

「たくさん?」

「はい、自分の仕事に誇りを持って取り組んでいる姿も、
思いがけないことが起こると、本当に楽しそうに笑ってくれるところも、
急に勝ち気になるかと思えば、震えているネコのように小さく見えるときもあって……」


隣に住んでいると知ってから、色々な顔を梶本君には見せていた。

こんなはずではないのにと思うことも、何度もあった。

今まで、どこか構えて歩き続けていた自分が、とてもラフな感じでいられた。

本当の私は、こういう人なんだと、納得することが出来た。


「時に凛々しくて、時にかわいらしくて、
そんなふうに色々な顔を見せてくれる、あなたを守ってあげたくて、
だから好きになりました」


嬉しい言葉が、たくさん並んでいた。

温かい食事と合わせて、心もさらに温かくなる。


「……今も、そう思ってくれている?」


一度は年齢差を気にして、突き放してしまった思いだけど、

それを勝手に引き戻そうとしているのは、ずるいかもしれないけれど……


「はい、今も……この瞬間も、そう思っています」


梶本君らしい、正直なセリフ。

キザな言葉ではなく、ストレートに押し出してくれる。

ひねくれていた私にも、ちゃんと届くくらい、優しくてあたたかい言葉。


「ありがとう」

「いえ……」


私はコップに残っていたお酒を、飲み干した。

大きく息を吐き、姿勢を整える。


「ねぇ、梶本君」

「はい……」

「こんな私ですけれど、お付き合いしてくれますか」


勇気を出して、その一言を押し出した。

告白なんてしたのは、人生で初めてになる。

梶本君は、予想していなかったのか、驚いてしまい返事が戻ってこない。


「……どう……かな」


自分で聞くのもおかしいけれど、黙ったままではダメの可能性を捨てられない。


「本当ですか? 今、言っていることって」

「……うん」

「ウソだよとか、冗談だよとかは辞めてくださいね。俺、立ち上がれませんから」


ウソなどつくわけがない。

私だって、慣れないことに、心臓が止まりそうなのに。



「私もあなたに惹かれているって、やっと気付いたの」



側にいて欲しい人が誰なのか、何をしている時が幸せなのか、

気付かせてくれたのは、あなただった。

小さな嬉しさを積み上げると、大きな幸せになるのだと言うことも、

梶本君と一緒なら、きっと感じられるはず。



あなたといると、私はいつも……



「少し待っていてください」

「待つ?」


梶本君は、そういうと立ち上がり、外へ出てしまった。

すぐに音がしたから、きっと部屋へ戻ったのだろう。


「はぁ……」


私は、緊張の糸がほどけたのか急に力が抜けていく。

『あなたに惹かれている』だなんて、自分が言うとは思わなかった。

それなのに、勝手に言葉が出て行ってしまった。


美味しい時間を与えてくれた野菜達。

その巡り合わせに、あらためて感謝をしていると、慌しく梶本君が戻ってきた。



【10-3】

心の変化に気がつくと、見えている景色も変わってくるようで、
『思い』は人を、笑顔にも不安にもさせていく。『恋』する歌穂と、そして……
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

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ナイショコメントさんこんばんは、

>一番かな(*≧∀≦*)

待っていていただけて、とっても嬉しいです。
これからも『星の降る夜に』を楽しんでくださいね。