【S&B】 22 男と女

      22 男と女



同じ道を何度か歩いたが、三田村の住む場所は特定できず、僕は取り出した携帯の番号を

もう一度回す。前に聞いたメッセージと同じものが飽きもせずに流れ、また電話を閉じた。

あちこちを見上げながら歩いたからか、後ろから僕を抜いた女性が、疑いを持った目を向ける。


手当たり次第玄関を叩くわけにもいかず、僕は、帰宅の波に逆らうように戻る。

駅に着く手前で、母の店があるビルが目に入り、ここまで来たのだからと寄ることにした。

すぐエレベーターが目に入ったが、なぜか乗る気持ちになれず、階段を一段ずつ上がる。


「母さん……」


すでに店はシースルーのシャッターを閉めていた。僕は右手で軽く叩き、中でなにやら書いている

母に合図する。母は突然現れた僕に驚き、すぐに開けた。


「何よ、どうしたの?」

「うん……」


説明するのには長すぎる出来事に、つい面倒くさくなり誤魔化そうとする。

欲しくもない雑貨を手に取り、使い方を聞いてみた。はじめは使いやすいだとか、

他ならもっと高く売るなどと自慢していた母だったが、僕のノリの悪さに、やがて表情を曇らせた。


「あぁ、もう。忙しいのよ。時間つぶしなら他で……あ、そうだ、ねぇ、これどう?」


何かを思いついたのか、また母は表情を変えた。あまり大きく顔の筋肉を動かすと、

しわが増えるぞと言いたくなったが、黙っておく。その間に母は元いた場所に戻り、

僕の前に1枚の紙を広げた。手に持っていた商品を戻し、僕はその紙を見る。


「ほら、この間の求人、今日原稿は出したんだけど、店の横にも貼り付けておこうかと思って。
今書いてみたの。ねぇ、プロの目から見てどう?」


それはパソコンで作られたポスターだった。母がこんな作業を一人で出来るはずもなく、

僕はその後ろでフォローする、声の太い人の存在を確認する。


「母さんの字じゃなきゃ読めるから、OKだよ」

「あ、ひどい……。字が下手なのがコンプレックスって知ってるでしょ。だから、これだって、
豊島さんに頼んで作ってもらったんだから」

「ふーん……」


頼んだわけでもないのに豊島さんが気をきかせ、このポスターを仕事の途中で持ってきたこと、

色塗りに失敗したら大変だから予備も入っていたなど、母は嬉しそうに語った。


「なぁ、どうして急に募集なんてするんだよ。今まで何でも一人でやってきただろ」


その言葉を聞いた母は、また表情を曇らせた。軽く言ったセリフの奥深さに気付かれたようで、

僕もまた、意味なく商品をいじり出す。


「そう、一人でやってきたのよ、お父さんと別れてずっと。もう、一人が楽だってそう思ってた。
何もかも自分で決められるし、人にあわせる必要もないし、気も遣うことないしって。
でも、ふと寂しくなるの。誰も何も聞いてくれない……って。そうしたらね、
言い合えることも幸せじゃないのかしらって思うようになった」


こういうところはさすがに母親だ。僕の言葉の真意が、どこにあるのかをちゃんと見抜いている。

僕は父ではない男を、母が頼っている現実に、ついくだらないことを言った。


「祐作は……嫌?」


ぽかりと浮かんだ雲のような言葉から、大粒の雨が降ってきた。母のストレートな思いは、

ズシンと心に響く。


「別にいいよ、母さんが雇うんだ。僕には関係ない……」


そんなに深い意味はないと、僕はまた誤魔化した。豊島さんのことは、正直まだよくわからない。

身勝手な父に振り回された母が、また別の男に振り回されたらとつい思ってしまうだけだ。


……自分も同じ男なのに。





「いい人が来てくれるといいんだけど……」


母はそう言うと、テープを指にいくつかつけ、ポスターを店の端にある柱に貼りだした。



『明るくて、雑貨の好きな方希望』



その言葉に、メガネをかけた一人の女性が、僕の頭に浮かぶ。彼女ならこんなところで、

じっくり仕事をした方があっているんじゃないか。そう考えた瞬間から、目の前の小さな作業台で、

雑貨をあれこれ並べる姿が、見たこともないのに想像できた。


「母さん、これ、三田村じゃダメかな」


なぜ、そんなことを言い出すのかと母に言われ、面倒くさいと思っていたが、

結局、今日の出来事を全て語ることになった。


「派遣って大変なのね。でも、今の世の中の状況じゃ、企業を責めるわけにもいかないしね」

「うん……」


三田村が1週間前にここへ来て、傘を買ったこと、その時は別に変わった様子もなく、

楽しそうに話しをして帰ったことなどを、母はまた聞いてもいないのに語り始めた。

でも、彼女の生活がどこか穏やかに過ぎている部分を聞くと、ほっとしたのも確かだ。


僕はまた携帯を開き、電話をかけたが、どうしてもつなぐことが出来ない。

結局、母の夕食の誘いを断り、そのままビルを後にした。一度は駅へ向かおうとしたが、

仕事のことを早く知らせたくなり、また可能性の低い賭けに出る。

同じ道を歩くと、二度目の方が早く着ける気がするのはなぜだろうか。


今度はただ歩くのではなく、アパートの集合ポストに名前がないかどうかを確認しながら進んだ。

それでも三田村の文字を見つけることが出来ないまま、10分くらいが過ぎる。


さっき見たネコとは色の違うやつが、ゴミ置き場に忘れられたバケツのふたに飛び乗り、

どこからか持ってきたカステラの切れ端を、必死に守りながら僕を威嚇する。

そんなものを取り上げて食べる趣味もないので、足早に横を通り過ぎた。


「コウちゃん! 約束が違うじゃない! ずるい!」

「うるせぇ!」


聞き覚えのある声がして、僕はすぐに視線を動かした。見えているアパートの裏から

聞こえた気がして、何歩か進むと、2階の廊下を大股で歩く男の姿が見え、

その後に三田村が何かを言いながら必死にすがる。


「待って! 待ってってば!」

「もう用はねぇよ、いい加減にしろ!」


その男は、あの煉瓦に座っていた男で、すがりつく三田村の手を振り払い、

肘で思い切り突き飛ばした。ふらついて壁にぶつかった三田村の姿は、廊下のついたてに

見えなくなったが、バン……という大きな音が衝撃の強さを示す。


「三田村……」


男は階段を駆け下り、茶色の袋を手に持ったまま、僕の方を一度ちらっと見ると、

不快な笑顔を見せて通り過ぎようとした。反射的に手を伸ばし、その男の右腕をつかむ。


「待てよ、何するんだ」

「なんだよ、お前。誰だよ……」


確かにそう言われると、どう答えていいのかわからなかった。男は僕の腕を払い、

袋をポケットにしまう。


「お前、何? 望の男?」


失礼なものの言い方をする男だが、逆に思い込んでいた人物像とは違うことに気付く。

僕を三田村の彼だと疑うということは、こいつは一体、誰なんだろうか。


「待って! コウちゃん……コ……」


突き飛ばされぶつけた右手を押さえ、裸足の三田村は、僕の姿を見つけただ呆然と立っている。

僕が三田村の方を向いた瞬間、男は隙を見て走り出し、慌てて追いかけようとした時、

背中越しに三田村の声が届いた。


「主任、いいんです……もう、いいんです!」


三田村と、走り去る男の間に挟まった状態で、どう対応したらいいのか迷った僕は、

とりあえず落ち着けるように大きく息を吐いた。





23 チーズの目覚め へ……




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コメント

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男と女

題名からしてかなりの進展があったのかと期待しながら・・・おっと別の男と女v-23母親だって女なんだ。年を取れば取るほど一人は寂しいもの。いいじゃない良い人ならv-218
三田村さんなら合ってるかもね雑貨屋さん。お客が立て込んできたらパニくっちゃいそうだけど、そこまで忙しそうな店でも無さそうだし(勝手に決めつけてる)e-351

コウちゃん・・・弟か??痣の意味は?? 
 いやはやももちゃんには焦らされますな~~e-443
 

あはは……

>題名からしてかなりの進展があったのかと期待しながら・・・おっと別の男と女

あはは……笑ってしまったv-411。yonyonさん、私の創作読むの、何作目? 期待させてもおっとっと……なのは、よくあるじゃないですか。
いや、しかし、タイトルは間違ってないぞ!

だって、男と女v-434には、いろいろなパターンがあるわけですからね。
祐作と三田村ちゃん、例の男と三田村ちゃん、そして、祐作ママと豊島さん

そうそう、男と女がそこにいれば、あれこれあるのさぁ~


>コウちゃん・・・弟か??痣の意味は?? 
 いやはやももちゃんには焦らされますな~~

ん? 焦れる? そんなことないでしょ、大丈夫v-353! 次回、コウちゃんの正体は明らかになるんだよん

拍手コメントさんへ!

こんばんは!
拍手コメントv-424、公開になっているからHN書いちゃってもいいのかなぁ……と思いつつの私です。

ここで切っちゃった……
だって、次は? となった方が、みなさん楽しみにしてくれるでしょ?
何でも、明らかになってしまったら、つまらないですからね。

見られたくないところで出くわした二人、さて、三田村ちゃんの素顔を、祐作はのぞけるのか!

は、次回へ続きます。
2日間、お待ちくださいませ。(一応、予定です)v-422

ももちゃん、こんばんは^^

今日は早く帰れたので続きを読みに来たんだけど・・・
え゛ーーー ここで切っちゃうの?((○`(○`ε(○`ε´○)ε´○)´○))
私、ずっと三田村さんの元カレだと思ってたんだけど、もしかしたら弟?
うーん、早く知りたい^^



ありがと……

midori♪さん、こんばんは!

読んでいて暮れたんだね、ありがとう。でも、コメントは無理しなくていいからね。
私もたまにしかおじゃましてないので……
お気楽に楽しんでくださいませ。

えっと、アイツの正体につきましては、次をご覧下さい。