10 勘違いをする男 【10-5】

【10-5】

9月の最終日曜日、私は以前、招待状をもらった友人の結婚式に向かった。

懐かしい面々が集まり、それぞれの状況を話し合う。


「うち、一番上が春から小学校なの」

「それってあの子よね、ほら……舞の結婚式で踊っていた」

「そうそう、あれはもう3年前よ」


2年前に結婚した別の友人は、先日おめでただということが判明した。

今日行き先が決定した友人と、そしてまだ未定ばかりが並ぶ私。

年齢が同じなのに、それぞれ抱えている状態は違う。


「ねぇ、歌穂。『東日本』、『成和』と合併したでしょ? どうなのよ」


林原美保子。

結婚式に招待してくれた友人は、大学時代の仲間だが、

彼女とは『東日本銀行』で知り合った。偶然後から共通の友人がいることに気付き、

『神波支店』にいた頃は、よくランチにも出かけた仲だった。


「合併のバタバタは収まってきたと思っていたのに、まだ再編成だのって、
あれこれありそうなの」

「へぇ……」


彼女が『神波支店』にいたのは、1年だった。

私が謙と付き合い始めた頃、彼女は銀行が自分の体質に合わないと言い、

退行したことを思い出す。


「ねぇ、粕谷支店長って、まだいるの?」

「粕谷? あぁ、うん。今は本店の方にいる」


そうだった。思い出した。

彼女は粕谷部長に気に入られて、確か個人的に言い寄られたと聞いたことがある。

もちろん、そんな関係にはならなかったが。


「あぁいう男って、組織の中ではしぶとそうだもんね」

「うん……」


女子行員を舐めるような目で見ていた粕谷支店長。

『神波支店』にいた謙が退行したときも、礼儀知らずだとかなんとか、

荒れていた覚えがある。


「私、あいつがよこしたメール、今も持っているのよ」

「メール? どうして」


美保子は『東日本銀行』を辞めた後、外資系の保険会社に再就職した。

営業成績が落ち込みそうなときには、粕谷支店長を脅かして、

売り上げをUPさせようと思っていると、冗談なのか本気なのかわからない話をする。


「本気で言っているの?」

「あはは……ううん、ただね、あいつのおかげで、
銀行を嫌になって辞めたこともあるし、このメールを見るとさ、
負けるものかと思えるのよ、だから残してある」

「へぇ……」


美保子らしいと思いながら、コーヒーを口に含んだ。


「ねぇ、歌穂。あなたは誰かいないの?」


誰かというのは、もちろん相手のことだろう。

私は黙ったまま首を振る。梶本君の話をするのは、まだ早い気がするし、

6つも年下の相手だとわかったら、余計な興味まで生まれてしまう気がした。


「本当にいないの?」

「聞き返さないでよ、親にも言われるし、わかるでしょ、銀行でもさ……」

「あぁ、わかる、わかる。銀行の上司って、平気で言うわよね。
どうするんだ、どうするんだって」


同級生達は、その会話を聞き、私と美保子に本当に付き合っている人はいないのかと、

興味ありげに聞いてきた。


「私は結婚しないわよ。抱き合う男はいるけれど、妻になるのは嫌」


美保子は、形を決めてしまうと、男は急に冷めていくと持論を語る。

親も美保子の生活に、諦めモードだと笑い出した。


「歌穂の家も?」

「うちはダメ。同棲とかありえない。形にこだわるのが好きだから」

「歌穂のお父さん、『神南大』の教授だもんね、そりゃ気にするよ。
いいじゃないの、将来性ありそうな男、紹介してもらったら」


妊婦になっている友人は、恋愛もいいけれど、

見合いもいいものだと、ナイフとフォークを動かしながらそう語る。


「将来性?」

「そうそう、安月給はダメよ。男の力次第で、女の幸せなんて変わるんだから」

「うわぁ……言うねぇ」

「言うわよ。お金のこと考えると、妊婦になるのも考えたんだから」


先に結婚した人たちの話しは、リアルであり、浮かれてもいない。

私は彼女たちの愚痴に近い経験談を、黙って聞き続ける。


「美保子も歌穂も、無理に結婚なんて、しなくてもいいわよ」


付き合っている頃には優しかったのに、

結婚してしまうと、男はガラリ変わってしまうと、友人の一人は言い出した。

もし、私が1ヶ月前にこの席に座っていたら、今の意見に強く賛同しただろう。

私が過去に愛した人は、自分を愛し、自分を守る人だった。

でも……


「結婚しているから、そういうことを言えるのよ」


自分のことよりも、相手のことを思える人だって、

いるのではないかと思えるくらい、私の気持ちは満たされていた。

年下だから、男は身勝手だから……

当たり前のセリフが、似合わなくなる人も確かにいる。

私は出てきた料理の味を見ながら、自分で作るにはどうしたらいいのかを考え続けた。



【10-6】

心の変化に気がつくと、見えている景色も変わってくるようで、
『思い』は人を、笑顔にも不安にもさせていく。『恋』する歌穂と、そして……
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