11 愛に向き合う女 【11-5】

【11-5】

勤務が休みの日曜日、

周りの人の声と、ものすごい音がした後、私の頭は真っ白になった。

気付くとコースターはガタガタ言いながら、元の位置に戻っている。

ブザーが鳴り、押さえていたバーが私を解放してくれた。

早く乗りたいとせかす他人の視線を避けるように、私は支えにつかまりながら、

なんとか立ち上がった。


「あぁ、もう……足が震えてる」

「大丈夫ですか」

「大丈夫に見える?」

「……見えますよ」

「意地悪!」


私たちは、恋人や親子連れで賑わうレジャーランドへと足を運び、

梶本君が薦めるものに、いくつか乗った。

どうなるのかわからないまま船らしきものが進み、外に出られたと思ったら、

いきなり滝つぼに落とされる。

船に同乗していた別のカップルは、何度乗っても興奮すると笑顔を見せ、

私の後ろにいた中学生の女の子二人は、とにかく楽しいと、早口で話している。

梶本君に引っ張られたまま、前へ進むと、人だかりが出来ていた。


「あ、あった、ほら、これですよ」

「何これ……最低」


滝つぼに落とされる瞬間、その写真が勝手に撮られていて、

私の顔は『ムンクの叫び』状態になっている。

梶本君は記念だから買おうかと言い出したが、

私は、絶対にやめて欲しいと口を尖らせた。


「ダメ……ですか」

「ダメに決まっているでしょ。こんな写真があったら、
思い出したくないことを思い出すの。いい? 買ったら部屋に入れないから」

「は?」

「絶対に入れないから!」


記念に残されて、何度も見せられたら、気分は落ち込むだけ。

こちらの本気度合いを見抜いたのか、梶本君は笑顔のまま、私の頭に軽く触れた。

それからも乗り物に乗ったり、日当たりのいいテラスで食事をしたり、

休みの一日を満喫する。

少し遅めの昼食を取り、コーヒーを頼み、砂糖を少しだけ入れると、

スプーンでかき回した。


「まだ、乗れそうですか?」

「さっきのような激しいものじゃなければ」

「はい……」


優しい光と、楽しそうな笑い声。

誰もが幸せを感じながら、今、この時を過ごしている。

1分ずつは、どこにいても変わらないはずなのに、感じ方が違うだけで、

重みも変わっていく。


「米森さん」

「何?」

「俺、今度の週末、実家に戻ってきます」

「実家? 群馬の?」

「はい。ちょっとトラブルがあったらしくて。お袋からSOSなんですよ。
どうせ親父がらみだとは思うんですけど、まぁ、しばらく帰っていなかったので、
親孝行もたまにはいいかなと」

「トラブル? 大丈夫なの?」

「いつものことですよ、きっと。聞くだけ聞いてやれば、お袋も納得するでしょうから」

「そう、それなら、帰ってあげた方がいいわね」


梶本君には、まだ高校生の妹さんがいるらしいけれど、

お母さんにすれば、困ったことになったら、頼りになるのは息子だろう。

ここのところ、二人で会うのが楽しくて、ずっと週末は一緒だった。

私が少し気にしてあげるべきだったかもと、反省する。

梶本君は、テーブルに肘をおき、手にあごを乗せた状態で、こっちを見ていた。

何か言いたげな表情。


「……何?」

「今度の週末、行ってきます」

「うん……」

「寂しくないですか? 俺がいないの」


『寂しい』、そう言おうとした唇は、私の意思で閉じられる。


「うーん……」


こういうとき、年上の小さなプライドが出てしまう。

素直に『寂しい』と言えば、喜んでくれるだろうけれど、

勝ち負けがつきそうで、そう言えない。


「気をつけてね」


こちらの心を見抜こうとしていた梶本君の顔が、だんだんと力を失っていく。


「素直じゃないなぁ……」


そう、私だってわかっている。素直ではないことくらい。


「だって、別に週末じゃなくても会えているでしょ、職場も一緒なのだから」


彼の聞きたいのは、こんなことではないことくらい、わかっている。

あなたのペースに引き込まれまいと、私は涼しい顔を見せてしまう。

梶本君は、私の言葉を聞きながら、それは違うのではないかと首を振った。

私はカップを持ち上げ、コーヒーを口に含む。


「俺はメチャクチャ寂しいですよ、親よりも誰よりも、
1分でも1秒でも長く、あなたに会っていたいから……」


『恋』に真っ白だった高校生でもあるまいし、梶本君の言葉に、

私の心臓は、確実にトクンと音を立てた。



言うのは苦手なのに、言われるのは嬉しいなんて……



私はズルイ。



私も寂しいと言えばいいのに、言ってあげたいのに、言葉がうまく出て行かない。


「寂しい……でしょ?」


覗き込むように問いかける梶本君の顔に、私は、少し照れながら頷くのだけで、

精一杯だった。



【11-6】

『恋』に振り回されたあの日も、
『恋』にほっとした今日も、どちらも私……
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