12 愛を見せる男 【12-3】

【12-3】

「俺、負けませんから」

「何?」

「副支店長が本当に離婚して、もし、米森さんを返してくれって言っても、
俺、負けませんから……」

「梶本君……」

「あなたを選ぶ権利があったのに、選ばなかった人に負けませんから」


私は『うん』と返事をし、その切りかえしで自然と笑顔になった。

私も負けたりはしない。謙との恋はもう過去のことだ。

今の幸せを、精一杯大事にしよう。


「よし、火をつけましょう」

「うん……」


その日は、梶本君がお薦めの日本酒を飲みながら、

お野菜がたくさん入ったお鍋を一緒に食べていく。

明日実家に戻り、会えないことがわかっていたので、

その分まででもお釣りが来るくらい、互いの気持ちに触れ合っていく。

抱き締められ、抱き締めながら、今の幸せに酔い続け、

言葉では表しきれない愛情があるのだと、私は彼の背中を強くつかんだ。



『あなたが好き』



私の身体からあふれていく気持ちはきっと、彼に伝わっていくはず。

長い吐息の後で迎えたまどろみの時間でも、互いに手を離さなかった。





次の日、梶本君は予定の電車に乗り遅れそうだと慌てながら、実家へと戻っていった。





季節が冬に近付いた日だけれど、土曜日はよく晴れた。

掃除機をかけ、あちこちを拭いて回る。


「はぁ……これだけ動くと、結構汗をかくものね」


流しまで綺麗に磨いた後、時計を見ると、もう昼になっていた。

梶本君は、どこまで戻っているだろう。

テーブルの上においてあった携帯がメールの知らせを寄こしたので、

梶本君からかと思い、私は急いで開ける。



メールの相手は、謙だった。



『昨日は申し訳ない。理央が勝手に行くとは思わなかった。
週明け、あの店で会って欲しい』



謙は出張から戻ったのだろうか。

奥さんはきっと、昨日ここへ来たことを話したのだろう。

私はしっかりと否定した。

謙の思いがどこにあるのかはわからないが、過去を戻すつもりはない。



『謝罪なら結構です。それよりもお二人で話し合ってください』



私には関係のない話だと、そう送信したつもりだった。

また、あの店で会って話していることを知られたら、誤解されるだけ。

私はポケットに携帯を押し込むと、買い物をするために外へ向かった。





週末の土曜日。いつもは閉店間際しか利用しないので、

サラリーマンや、仕事を持った主婦が、慌てて買い物をしている姿しか見ないのに、

今日は子供連れの家族が、あれこれ楽しそうに買い物をしている。

そういえば梶本君は明日、帰ってくるのは何時ごろだろう。

何か、簡単に作れるように、少し材料を買っておこうかな。


「歌穂さん……」

「あ! こんにちは」

「何よ、そんなふうに驚いて」


声をかけてくれたのは、『ジュピター』の響子さんだった。

今日はお店が休みなのかと問いかけると、週末は午後営業なのだと教えてくれる。


「午後から……ですか」

「そう、午前中はあけていても、あまり来ないのよ。午後からにするとね、
休日サービスをしてくれって言われて、逃れてくるパパさんとかおじいちゃんとか、
結構避難所として利用してくれる」


響子さんの目が、私の買い物カゴに移り、そして少しだけ微笑んだ……

ように見えた。


「ねぇ、ねぇ、どうだった? 星、綺麗だったでしょう」

「あ……そうなんです。私、プラネタリ……」


私は、響子さんの誘導尋問に、思い切り引っかかった。

そうだった。チケットをもらったのは梶本君で、私ではなかったのに。


「うふふ……幸せだからね、全然警戒心がないのよ。いいの、いいの」

「あ……」


響子さんは、少し時間があるのならお店に寄っていかないかと、私を誘ってくれた。

まだ開店前で、準備の邪魔ではないかと問い返すと、話し相手が欲しいとねだられる。


「わかりました、行きます、行きます」

「そうそう、来て、来て。私は心が広いから、おのろけもちゃんと聞いてあげるわよ」


私は買い物を済ませ、そのまま『ジュピター』にお邪魔することにした。

誰もいない状態だと、店の中が広く感じられる。


「なんだか予感がしたのよね、梶本君にチケットあげて正解だわ」


お付き合いを隠すつもりはないけれど、その前を知っている人に知られるのは、

なんだか恥ずかしかった。



【12-4】

実る『恋』もあれば、終わる『恋』もある。
歌穂は一歩ずつ前に進み、『時』を見つめ直すことに……
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コメント

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ピンクリリーさん、こんばんは

>今のひとを大事に。

そうですよね、何よりも『今』が大切。
歌穂の『恋』をこれからもよろしくお願いします。

しえるさん、こんばんは

>毎日楽しみです

はい、ありがとうございます。
『毎日』ってところがいいと、色々反響もいただいています。
短めですが、楽しんでもらっているのなら、よかったです。
これからも、よろしくお願いします。