12 愛を見せる男 【12-4】

【12-4】

「6つも年下だしって、ずっと思っていたのに、話せば話すほど、私のほうが……」

「好きになっちゃった?」

「……あ、はい」


響子さんは、今の日本は女性の方が寿命が長いのだからそれでいいと言ってくれた。

響子さんなりのエールだと思うと、おかしくなる。


「だとすると、過去の傷は癒されたってことだよね」


そういえば、この場所で謙が来てから、気持ちが乱れていることを話したことがあった。

ついこの間のことなのに、なんだか遠い昔のような気がしてしまう。


「そうでした。響子さんに聞いてもらったんだった、私」

「そうそう、同じような過去を持つ身としては、気になっていたのよ。
行くなって止めたけれど、どうだったかなって」


正式に別れるまでは、絶対に進まない方がいいと言われたとき、

確かにその通りだと思えた。あの忠告は、私にとって、とても大きな意味がある。


「今は本当に、全然気になりません」

「うん……」

「今がすごく幸せだから」

「おぉ! 来た、のろけ!」

「響子さん」


私にとって、響子さんは姉のような存在になっていた。

親には、心の中など見せたこともないのに、響子さんには飾らずに全てが言える。


「で、『愛する君』は?」

「あ、はい。週末実家に戻ったんです。何かあったみたいで」

「あら、そうなんだ」

「はい」


響子さんは特別だと言いながら、開店前なのにコーヒーを入れてくれた。

そして、手作りのガトーショコラを一緒に添えてくれる。


「歌穂さん」

「はい」

「『愛する君』って、当然のように聞き入れていたでしょ。
何か反応するかと思っていたのに、私の方が照れちゃうわ」


『愛する君』

確かに、私、当たり前のように受け取っていた。

響子さんに指摘されて、今更顔が赤くなる。


「あはは……遅いわよ、照れるのが」

「響子さん、もう、からかわないでください。熱くなってきた……」


それから30分ほど話をして、部屋に戻ると時計は13時をさしていた。

昼食、何にしようかと思いながら、買い物した袋をテーブルに置く。

ポケットに入れてあった携帯を取り出すと、またメールの印がついている。

相手は謙だった。



『話し合いをするのはわかっている。そのためにも会ってほしい。
君が店に来るまで、待っているから』



『話し合いをするために会う』という意味が、理解できないまま、

私は携帯を閉じる。するとさらにメールの音がした。



相手は謙ではなく、梶本君だった。



『実家に戻りました。同じ方法で帰っているのに、なんだか長かった。
我が家の『さくら』からご挨拶』



『さくら』とは誰だろうと思いながら、添付されているフォトを開くと、

梶本君の実家で飼われている犬の写真だった。

犬種は何かな、柴犬、それとも……

茶色の体に、黒い鼻。


「さくらちゃんか……かわいい」


とりあえず無事に梶本君が到着してほっとした。

私は携帯を閉じ、昼食の支度に取りかかる。

昨日作ったお鍋のスープを使って、煮込みうどんを、

綺麗になった部屋の真ん中で、ふうふう言いながら味わった。





『シルバーのネックレス』


謙が昔、私にくれたものだった。

そんなことをすっかり忘れたまま、首につけていた。

彼に指摘され外して、この箱に押し込んでいる。



『有働謙』

彼が好きだったことは間違いない。梶本君と付き合うようになってから、

『恋愛感情』は消えているけれど、『輝き』を失って欲しくないという思いは、

今でも持っている。


誰よりも輝き、仕事が出来て、常に前を向く人。

そんな人が、どんな理由であれ責められ、下を向いている姿など見たくはない。


『有働謙』という人は、あの深く、重く、それでいて優しい声を持ち、

自分の思いを貫く人でなければならない……



『月曜日、あの店に行きます』



私が彼に寄り添うことは出来ないが、その思いだけは無くさないで欲しいと、

そう告げるつもりで、メールを送った。

梶本君に、謙と会うことも話した上で、思いに区切りをつけたい。

逃げているだけでは、いつまでも心がつきまとう気がするから。





日曜日、梶本君が戻ってくるかと思い待っていたが、

結局、部屋の灯りは消えたままだった。



【12-5】

実る『恋』もあれば、終わる『恋』もある。
歌穂は一歩ずつ前に進み、『時』を見つめ直すことに……
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