13 騙される女 【13-1】

13 騙される女


【13-1】

自分の部屋が隣にあるのに、それよりも先に、私は梶本君の部屋に入る。

謙と会ったことを話してしまわないと、落ち着かない気がした。

梶本君は、何か話があるのなら聞くと言い、紅茶を入れてくれる。


「ごめんね、戻って来て疲れているのに」

「いえ、大丈夫ですよ。昼過ぎには帰ってましたから」


温かい紅茶の湯気が、目の前をふわりと上がっていく。

私は、受け入れてもらえる体勢が出来た。


「本当は、昨日梶本君に話しておきたかったけれど、出来なくて。
だから結果の報告になるけれど」

「はい」

「今日、有働副支店長と話してきた」

「副支店長と?」


私は、副支店長が奥さんの行動を知り、私に謝罪をしたいと言ったこと、

銀行内で話すことが出来ないので、待ち合わせたこと、それを隠さずに告げた。

梶本君はカップを手に持ったまま、黙って聞いている。

見せてくれている表情は冷静だけれど、心の中までは計れない。


「謝罪ならいらないと始めは言ったの。でも、自分の思いは語っておきたくて、
それで……」


梶本君とも会っていただけに、それをあれこれ詮索されるのも嫌だった。


「梶本君とお付き合いを始めたことも、話してしまったの」

「いいですよ、隠しておくようなことではないし」

「うん……」



『君はまた……僕を選ぶ』



「副支店長に言われませんでしたか? あいつじゃぁなって」

「ううん、そんなことないわ。もう、こうして会うこともしないって話をしたし、
それはわかってくれている。離婚はあくまでも副支店長ご夫婦の問題だから」


温かい紅茶を、喉に通していく。

大きな隠し事がなくなったというだけで、なんだかほっとした。


「そうだったんですか、すみません、昨日戻ってくるつもりだったのに、
遅れてしまって」

「そんなこと、梶本君が謝ることではないもの。
せっかく実家に戻ったのだから、ゆっくりしたいでしょうし」


そう、普通は実家に戻れば、気持ちもリラックスできる。

帰りたくないなと思っても、無理はない。

1秒いるだけで息苦しくなる私の家が、普通ではないのだから。


「それが、そうでもなかったんです。元々トラブルで行きましたからね」

「あ……そうね、どうだった?」

「おとなしく、田舎で過ごしていればいいのに、
どうして余計なことをして巻き込まれるのか……」


梶本君のお父さんは、昔ギャンブルで失敗し、

工場を持っていた親と、お母さんを困らせたと聞いたことがある。

今度は、何をしてしまったのだろう。


「お父さん?」

「あ……いや、今回は伯父が……」

「伯父さん?」


梶本君の伯父さんご夫婦は、確か子供がいないと聞いた。

長男の伯父さんと、末娘の梶本君のお母さんとでは、

親子と言えるくらいの年齢差があるらしい。


「田舎で作る野菜ですが、通販できる商品の共同開発者として、
名前を貸して欲しいと言われたらしくて、で、共同ってからには、
もちろん、出資もしなければならなくて……まぁ、ようするに、
金を出してくれって言われたんですよ。田舎の野菜しか作れないような土地ですけど、
多少は持っているので、それを狙われたのだと思います」

「狙われた?」

「まだ、土地の権利は伯父夫婦なんです。実際に、利用しているのはうちの親ですけどね。
で、母は伯父の様子をどうもおかしいと思ったみたいで、だから俺に戻ってきてくれと」


梶本君のお母さんの旧姓は、『望月』だった。

その長男が伯父さんで、周りには薄くなっているけれど、親戚が何軒かある。

持っている土地は、『望月家』名義のものになるため、

いくら実質的に利用しているとはいえ、

お母さんも、梶本家に嫁いでしまった以上、権利書や色々な書類を探し、

自分の立場を主張することにためらいがあると言う。


「父親のことで、祖父母の工場を手放さないとならなくなってしまって、
あの土地にいられなくなった両親を、群馬で、伯父夫婦が快く受け入れてくれたんです。
今でも近所に住んでいて、母が面倒を見ている状態なので……」


兄妹だけれど、伯父さん夫婦にすると、梶本君のお母さんは娘同様の存在だった。

梶本君と高校生の妹さんは、孫のようにかわいがってもらったという。


「伯父夫婦は、親と同じくらいに大切だから。だから、俺が戻ったんです。
とりあえず、状況がどうなのか知りたくて」

「そう……」


この週末は、とりあえず話を聞き、どういう状態になっているのか、

組み合わせていくだけで精一杯だったと言う。


「全く……普通の親なら、子供の心配をしてくれるんですけどね。
恨めしくなりますよ」


うちの事情とはまた違うけれど、梶本君にも梶本くんなりの悩みがあった。

『親は親』だけれど、それだけでは割り切れない。


「なので、しばらく週末は実家に通うことになりました。
1、2回で済むのか、年末くらいまでかかるのか、わからないのですけど」

「そう……でも、それは行ってあげた方がいいわよ。
伯父さんもお母さんも心細いでしょ」

「はい」


梶本君には、高校生の妹さんがいる。

『女2人』だと、男の力と存在が、欲しくなるときがあるからだろう。




私と母が、ずっとそうだったように……

男の人がここにいたらと思ったことが、何度もあるように……




梶本君の顔が、じっと何かを待つように、私の方を向いている。

心の中まで覗かれそうな、まっすぐな瞳。


「あ……」

「はい」

「……もちろん、とっても寂しいけど」


私は、梶本君が何を求めているのかわかり、そう付け足した。



【13-2】

幸せの中にいるからこそ、一歩をしっかりと踏みしめたい。
穏やかな日々の中に、小さな、小さな疑問符が一つ……
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