13 騙される女 【13-2】

【13-2】

実家に行くことは仕方のないことだけれど、本音はとても寂しい。

いや、梶本君に求められているから言ったのではなくて、心の底からそう思う。

あなたに会えない日があると思うだけで、その日が来なければいいと思えるから。


「俺、米森さんの、そのためらいながら言ってくれるセリフ、弱いんです」

「何、どういうこと?」

「どういうことかなぁ……」


隣に座っていた梶本君が、空間を全て無くすように座りなおした。

私の左腕と彼の右腕が、ぴったりと寄り添うようになる。


「きっと……抱きしめたくなるってことでしょう」


梶本君はそういうと、私の持っていたカップを取り、テーブルに置いた。

合図のように耳たぶに軽く触れ、彼の唇がうなじ部分へ向かう。


「あ……」


『ちょっと待って』と反抗したのは、私のおなかだった。

止めようと思っても、主張は止まらずにさらに加速する。

お腹の主張が止まった時には、梶本君の動きも止まっていた。


「もしかしたら、何も食べてないのですか?」

「うん……」


梶本君は、困った私の顔を見た後、笑い出した。

そんなに笑わなくてもいいでしょうと言い返すが、逆を考えれば確かにおかしくなる。

せっかくの雰囲気を、自ら壊していくなんて。


「俺、チャーハン作ってあげます」

「あ……いいよ、部屋に戻る。食べるものくらい何かあるし」

「ダメですよ、部屋に帰ったら、もう一度って言えなくなるから」



『もう一度……』



「……うん」


梶本君が開けたのは冷凍庫で、

中から出てきたのはコンビニで売られている、一人用の冷凍チャーハンだった。

フライパンを取り出し、袋をちぎる。


「今、冷凍ものだって思ったでしょう。これがいけるんですよ、結構。
バカにしないで食べてみてください」


私もコンビニはよく利用するけれど、こういったものを買ったことはなかった。

どこかで一人とはいえ、女だからなのか、

インスタントに頼っていると思われるのが、癪だからかもしれない。

何やら鼻歌を歌っている梶本君のそばから、本当にいい香りがし始めた。

勝手に部屋に飛び込んできて、食事まで作ってもらうなんて、

ずうずうしいにもほどがある。


「あと少しですからね、待てますか?」

「いい香りが届くので、待てますよ」


梶本君は、お椀を取り出し、それにチャーハンを詰めると、

半円に形を整え、お皿に乗せてくれた。

本当に、立派なチャーハンが完成する。


「はい、お待たせ」

「ありがとう」


私はスプーンを握り、初めて口に入れた。

冷凍だとは思えないくらい、ご飯も味がしっかりついていて、

ベタベタしている感覚はない。


「美味しい……これ」

「でしょ、今の冷凍は優れていますよ。俺、こういうもの常備しているんです。
昔、学生モデルをしていた頃なんて、しょっちゅう食べてましたから」


『学生モデル』

そういえば、高野さんや井上さんは、梶本君のモデル時代を知っている。

私はそういった雑誌を買ったりする習慣はなかったので、

梶本君がどんな髪型で、またどんな服装をしていたのかも何も知らない。


「モデルさんかぁ……どんな感じだったのかな」

「たいしたことないですよ、学生でほぼ素人でしたし……」

「でも……」


梶本君は、食べている私の後ろに座り、腰に手を回してきた。

たったそれだけで気持ちが焦ってしまって、こぼしそうになる。


「ねぇ、梶本君くすぐったりしないでよ。吹き出しちゃうから」

「わかってますよ……」


梶本君が、私の頬に指をあてる。何かと思い斜めに首を動かすと、

後ろから口をあけている姿が見えた。

私は微笑みながら、その口にチャーハンをおすそ分けする。


「うん……」


こんな姿を見ていると、本当に子供のようなのに、

それだけではないところが、彼にはたくさんある。

等身大の彼を、等身大の自分で愛せることに、

私はチャーハンを食べながら、本当に満腹状態だった。



【13-3】

幸せの中にいるからこそ、一歩をしっかりと踏みしめたい。
穏やかな日々の中に、小さな、小さな疑問符が一つ……
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