14 隠し事をする男 【14-1】

14 隠し事をする男


【14-1】

恋人同士だからと言って、何から何まで語ればいいとは思わない。

私だって、中高生ではないのだから、大人なりの冷静さは持っているつもり。

それでも、明らかなウソを見逃していけるほど、目の前の『恋』に溺れてはいない。


「ごめんね、こんな言い方になってしまって」

「いえ……」


梶本君は、明るかった表情を沈ませたまま、言葉を出そうとはしない。

『ウソ』をついた理由も、言えない理由も、お決まりのものだからなのか。




『二股』




6つも年上の女を、遊びの相手に選ぶような人には、見えなかったけれど。



「すみません、実家には戻っていません」


わかっている。あの日、あなたが車に乗っていくのを見たのだから。

私が聞きたいのは、そこから先のこと。


「先週も、実家には戻っていません」


私は思わず、驚きの声を上げてしまった。

先週も今週も戻っていないというのは、どういうことだろう。


「もっとハッキリ色々なことが決まってから、話すつもりでした。
決まらない状態で言ってしまうと、米森さんにとっては、負担だと思ったので」


梶本君は姿勢を正すと、あらためて話をしますとこちらを見てくれた。

これから語られることがどういうことなのか、私も自然と身構えてしまう。

受け止められるのだろうか、それとも……


「伯父が出資を頼まれた話はしましたよね」

「うん……」

「実は……」


梶本君は、伯父さんはすでに契約を済ませた状態になっていて、

組合からも土地を担保にお金を借りていたこと、

それを取り消すためにあれこれ動いたが、土地を処分しお金を払うのか、

別の方法でお金を返すのか、どちらかを選択しなければならなくなったことを、

話し続ける。


「土地を処分すればいいと、伯父達は覚悟を決めているようなのですが、
あの年齢で、何もかもを無くしてしまうのは、なんだかかわいそうで……」


田舎に育ち、土地を耕し、体を使い生きてきた人たちから、

その『生き甲斐』を奪ってしまうのは、辛くなるのだと、梶本君は下を向く。


「親父が町工場をしていた祖父母の財産に手をつけて、結局手放しました。
その後、祖父母は、埼玉にいる伯母達の世話になるために引っ越しをしたのですが、
仕事に使っていた時間を、どうしたらいいのかわからなくて、
病気にばかりなっていた時がありました。
『何かやらないといけない』という気持ちは、生きていくうえで、
とても大事なのだそうです」


梶本君は、伯父さんご夫婦やご両親のために、

群馬にある土地をどうにか残そうとしているのだろう。

となると、借金を返すと言うことになるのだろうが。


「俺、銀行を辞めることにしました」

「辞める?」

「はい。合併後、人があふれているのは事実で、早期退職を希望すると、
勤務年数以上の退職金がもらえることもわかりました。
それをとりあえずあてて、以前から戻ってこいと言ってくれた社長に、
もう一度世話になろうかと思っています」


社長というのは、モデル事務所のことだろうか。

梶本君は、自分には似合わない世界だと、そう言っていたのに。


「……モデルに戻るの?」

「はい」

「でも、自分には合わない世界だって」

「今でもそう思います。でも、学生の頃とは意味が違います。
目標を持って仕事をするわけですから、いいとか悪いとかは別です」


頭の中を、どう整理すればいいのか、わからないまま話が進んでいく。

金曜日、乗り込んだ車を運転していたのは、

事務所のチーフマネージャーをする工藤さんという女性で、

後部座席に座っていた鴫原有紀のCM撮影場所から、駅に来てくれたのだという。

あの後、鴫原有紀をマンションに送り届け、2人は社長の家に向かった。


「事務所の横には、若手が共同生活をするマンションがあります。
そこに週末はいました。工藤さんと俺と社長と、どうするべきなのかをあれこれ……」


梶本君が、銀行を辞めてしまう。

それは彼が決めたことだけれど、実家に戻らなかったことよりも、

私へのショックは大きかった。


「米森さん」

「……何?」

「銀行という安定企業から離れてしまう俺に、あなたが不安を持つのはわかります。
でも、何も変わらないですから」


梶本君は、私との関係は何も変わらないとそう宣言した。

その思いはありがたいけれど、こういうところは妙に冷静な自分がいる。


「ねぇ、うちに融資してもらえるように、頼むことはしなかったの?」


土地があるのなら、それを担保にして、

職場である『東日本成和銀行』に頭を下げることは出来ないのだろうか。

山田支店長は『東日本』の人間だが、実質的な力をすでに持ち、

副支店長として上に立つのは、同じく『成和』から来た謙なのに。

彼に頼み手続きを取れば、梶本君が銀行を去ることはないはず。


「上に話はしたの?」

「はい、退社したいことだけは話しました。
出来たら3月末までと言われましたけれど、それは無理なので」

「ううん、そうではなくて、お金を借りること……」

「いいんです」

「いい? いいって」

「支店長や副支店長に、頭を下げることではありませんから」


梶本君はそういうと、唇をかみ締め少し悔しそうな顔をした。

『頭を下げる』という表現が、妙にひっかかる。

謙は上司なのだから、相談するのは当たり前のことではないだろうか。

それを拒む理由として、浮かぶのは……


「ねぇ、私のこと……」


私が、謙と過去に付き合いがあったから、関わりたくないという思いが、

複雑な状況を生み出していないだろうか。


「私が、副支店長と……」

「違います。そんなことではありません」

「でも、それならどうして? 上司に頼むことは別に、おかしなことではないでしょ。
謙だって……あ……」


つい、副支店長というべきところを、謙と呼んでしまう。

梶本君はすぐに気付いたようで、私の方を見る。

私の一言で、ただでさえ冷たくなりかけた場所の中に、

さらに張り詰めるような空気が流れてしまった。



【14-2】

男のプライドと女の意地。
歌穂の恋模様は、あらたな絵を描いていくことに……
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