14 隠し事をする男 【14-3】

【14-3】

全てを投げ出すと言うことがどういうことなのか、聞かなくてもわかる。

この先がどうなるかなど考えず、無条件で受け入れろと言うことだろう。



この有働謙を、愛していたあの頃のように……



「私……」

「冗談だ、悩まなくていい。今、歌穂を巻き込んでしまったら、
理央にまた事実ではないことを言われるだろう。
本当に離婚の原因は君ではないのだから」


謙の言葉に、緊張した体から力が抜けていく。

謙と会うと、いつもこうだった。壁を作っているつもりなのに、

いつの間にかそれはなくなっていて、腕を急につかまれてしまう。

私はいつも、慌てるだけ。


「梶本の現実は、君が思っているよりも複雑だ。それだけは言っておく」

「複雑? どういうこと」

「それは歌穂が聞くことだ。僕が語ることではない」

「謙……」

「来年の春までに離婚をする。それまで僕は何も出来ない。
でも、そこからは遠慮などするつもりもない」


来年の春。

謙は本当に、離婚するのだろうか。


「言っただろ、君はまた僕を選ぶ……と」


謙はグラスの中にあるお酒を飲み干すと、明日が早いからと先に席を立った。

私はひとり残された場所で、どうしたらいいのかわからない思いに、

ただ揺れていた。





12月になり、母の怪我も癒えたため、私は部屋へ戻った。

梶本君は、事実を知った私に、隠し事はないようにしたいのか、

どういうふうに仕事を進めていくのかという計画を、語ってくれる。

始めは、銀行を辞めてしまうことが嫌で、なんとかしようと思っていた私も、

梶本君の割り切った態度に、少しずつ応援すべきではないかと思い始める。

どんな仕事をしていても彼は彼なのだから、

そう思っていた12月の半ばごろになり、梶本君の話が急変した。


「土地を売る?」

「はい、家だけを残して、売ることになると思います」


私はどうしてそうなったのかがわからず、理由を尋ねた。

梶本君が仕事を再開することで、

事務所側が借金の肩代わりをしてくれるはずだったのに、

それがどこから変わってしまったのだろう。


「話が変わっていない?」

「あ……そうですね、確かに。でも、そうなりました」


どこでどう話が動いたのだろうか。あれだけ守ると言っていた土地も手放し、

家だけを確保するという話に、

それならば銀行を辞める必要もないのではないかという疑問が、またわき上がる。


「それはもう、いいんです」


何もかも隠すことなく話してくれると言った割りには、

私の気持ちは少しも晴れていかない。むしろ、何かが引っかかっているような結論に、

苛立ちばかりが募っていく。


「梶本君、本当に話をしてくれているの?」

「……どういう意味ですか」

「だって、あなたが土地を守るために、銀行を辞めるのだと言っていたから、
私はそれを受け入れようとしてきたの。それなのに、土地は売ってしまう。
家だけ残す、でも仕事は辞めるって……話がおかしくない?」


やりたくないと言っていた仕事なのだから、

やらなくてもいい方法を選べばいいはずなのに、

何か真実なのか、理解が出来ない。


「私……」

「米森さんには、どうすることも出来ませんから。
気にしないで、今まで通りにしてくれたらそれで……」

「出来ないでしょ、このままって……」


世の中は、クリスマスに向かってイルミネーションを光らせているのに、

私達の思いは、見えないものに乱され始めている。

あれだけ近くに感じた気持ちも、幕に覆われてしまった。

梶本君の腕が、心配と不安に揺れた私のことを包んでくれる。



「大丈夫です……あなたを離したりしませんから」



『離れたくない』

私は彼の腰に手を回し、騒がしい胸をしずめようと、ただ寄り添った。





12月18日。その日は朝から慌ただしく、息をつく暇もないくらいだった。

それぞれが少し空いた時間で昼食を済ませ、また仕事に戻っていく。

正月用の新札を希望するお客様の対応に、高野さんは頭を抱えてしまった。


「いえいえ、これは……はい」

「早く、してくださいよ」


お客様には、こちらの都合なと通用しない。

1分、1秒、早く自分の番がくればいいと思い、遅ければ容赦なく言葉が飛ぶ。

それでも、3時がくれば自然とシャッターが閉まっていき、

慌ただしい1日は、そこで終わった。

私はデスク周りを片付け、書類を束ねていく。

ファイルを開き、今日の取引を全てそこに収めると、同僚に挨拶をした。

着替えを済ませ、バッグを肩にかける。

階段を下り、セキュリティーを解除し扉を開けた。


「すみません……」


銀行の敷地を出てすぐに、私は声をかけられた。

私より少し年上で、しっかりしていそうな人が目の前に立っている。

道でも聞かれるのかと思い、なんでしょうかと聞き返すと、

女性は1枚の名刺を出してくれた。



【14-4】

男のプライドと女の意地。
歌穂の恋模様は、あらたな絵を描いていくことに……
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