17 願いを託す女 【17-1】

17 願いを託す女


【17-1】

『たいしたこともないのに、こうして二人で会うの?』



せっかく圭のために食事を作り、気持ちを前向きにし、送り出そうとした日なのに、

こんな写真のせいで、台無しになってしまった。

私は圭が破り捨てた写真をテーブルに乗せ、しわを伸ばし並べてみる。


圭の言うとおり、たいしたことがないのなら、二人で会う必要などなかった。

粕谷部長が『はやぶさ証券』などというキーワードを言い、

薄ら笑いを浮かべることがなければ、謙に会うことなどしなかった。

男に突き飛ばされて、こんな意味深な写真を撮られることも……




そうだった。



会うことがなかった。



あのキーワードさえ、言われなければ……




誰かが仕組んだ




圭との言い合いで忘れていたが、これはきっと誰かに仕組まれたことだと、

私はそう思った。粕谷部長が『はやぶさ証券』と言ったのも、

はじめから自分の味方など私がしないこともわかっていて、

謙のところに話しに行くことを、予想していたのかもしれない。



『私が謙と会うように……』



それをして得をする人がいるだろうか。

圭に写真を送る意味を、わかっている人……




『謙の奥さん』




確信とは言えないが、それに意味を持つのだとしたら、それしか考えられない。

事務所の人間が、私と圭の間を壊そうとしているのだとしても、

謙との過去を知るはずがないし、あの日、二人で会うと思い、

カメラを構えていられるはずもない。

『はやぶさ証券』と謙の間に何があるのかは知らないが、

奥さんならその秘密を知っていてもおかしくないし、離婚という出来事の中で、

粕谷部長に、謙の立場を悪くするための情報を流したと考えれば納得できる。


私はすぐに携帯へ手を伸ばし、謙の番号を呼び出した。

ボタンを押そうとした手が、そのまま止まる。


この電話をかけるという行為も、どこかで誰かが見張っているかもしれない。

それに、謙に奥さんを疑えと宣言するのは、

自分がまだ彼に未練を残していると思われそうで、本意ではない。

私がどうにかしたいのは、圭の気持ちを傷つけてしまったこと。

携帯を閉じ、部屋を出ると、隣の扉を何度も叩く。

話をしよう。謙には悪いけれど、圭を信じて、

『はやぶさ証券』というキーワードも出すべきだと思う。


「圭……」


インターフォンも鳴らし、反応を待つが声も音も戻ってこない。

部屋に戻りベランダから隣の様子を伺うが、あかりはついているけれど、

音は聞こえてこなかった。圭は外へ行ってしまったのかもしれない。

バッグから携帯を取り出し、鳴らしてみるが、圭が電話に出ることはなく、

私は留守番メッセージを、何度も残すだけだった。





次の日、通勤電車に揺られ、いつもの時間に銀行へ入った。

階段の途中で高野さんから挨拶をされ、更衣室へ一緒に入る。


「米森さん、聞きました?」

「何?」

「寺道支店から来る女子行員、態度でかいんです」


高野さんは昨日、初めて顔合わせをしたけれど、

書類のしまい方などが違うのだと説明すると、面倒だのと文句を言い返してきたと、

頬を膨らませる。私は、字が読みにくいので書き直せと言ったとき、

あなたも同じだと言おうとして、言葉を止めた。


「別支店に吸収されるというのは、思っている以上にプレッシャーがかかるのよ。
高野さんも井上さんも、『森口支店』が初めてでしょ?
異動になると、慣れるまではやはり緊張するし、
でも新人ではないから気持ちだけは押し込まれたくないと思うしって、複雑なの。
少し気持ちを大きく持って、彼女たちを見てあげないとうまくいかなくなるわよ」


高野さんはロッカーの中にある小さな鏡を見ると、ブラウスの襟を直しながら、

そういうものですかねと不満そうな顔をする。


「そういうものなの」


私は先に着替えを終えると、そのまま階段を下りた。


いつもの朝礼。

謙の隣には、山田支店長が立ち、4月からの正式異動を前に、

『森口支店』を留守にすることも増えると、話していく。


「正式には4月からの着任となるけれど、有働副支店長を中心に、
仕事をしっかりと続けてください」


名前はまだ副支店長だけれど、実質のリーダーは謙に代わった。

いや、秋ごろからすでにそれは見えていたため、

発表後も、それほど大きな乱れもなく行員は受け入れていく。

山田支店長から、後任の指名を受けた謙は、

資料を手に持つと、もう一人の副支店長に声をかけ、1階を出て行ったが、

今の雰囲気だと、すぐに出かけてしまう予定はなさそうだ。


私は、それぞれの業務が動き出したことを確認し、ファイルを持つ。

以前からお世話になっている会社が、

取引先を変更しトラブルを抱えていることを話題にしようと思い、

様子を見ながら、謙に声をかけた。



【17-2】

相手を思い、揺れ続けた歌穂の結論
その先に見えてくるものは、幸せなのか……不幸なのか
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