17 願いを託す女 【17-4】

【17-4】

「俺……仕事を、引き受けることにしました」


『仕事』というのは『Rioni』のモデル。

私との時間を断ち切り前へ進むと、彼は決断をした。

私はそれでいいと、何度か頷き返す。


「どこまでやれるのか、わからないですけれど、
でも、今はこれをやらないと後で後悔するかもしれないと、
やっと思えるようになりました」

「うん……」


そう、私がそう思ったように、ここで逃げてしまえば、一生後悔する……

圭は踏ん切りをつけた穏やかな表情で、私を見る。

自分の意見をしっかりと語り、これからのことを話してくれた圭が、

そこで急に言葉を止めた。

私のことを見続けていた目が、少し力を無くし、

それまで、しっかりと語っていた口が、重たく閉じてしまう。



そこから数秒間、時計の針の音だけが、部屋に響く。

『決断』をするということは、それだけ重い。



「あなたを……」



私を……



「俺、守ってあげると約束したのに、こんな形になってしまってごめんなさい」



6つも年下のくせに、仕事だって私より出来ないことが多いくせに、

『守ってあげる』という言葉を使うなんてと思う反面、

圭はわかってくれていたという思いがあふれて、目が潤みだす。


私がとっても寂しくて、見せかけの強がりに頼り切った、

本当は一人でいることが怖い弱虫だということを、彼は一番わかってくれていた。



『思い出だけが残る』



それがどれだけ寂しく、哀しい感情になるのかも。

圭はわかってくれていた。

今度は、私の番。


「何、謝っているのよ。私は圭に感謝しているから、本当よ。
心がどこかトゲトゲしていて、かわいくない女だったけれど……あ、ううん、
今も全然かわいくないけど……」


圭は私を見たまま、黙って首を振ってくれる。

過去の恋、そして親とのズレ、そんなものの中で強がりばかりを前に出してきた。


「それでも、また純粋に人を好きになれた……それは圭のおかげだから」


思いのままに笑い、時には酔ってしまっても、

そのままの私を受け入れてくれた人がいてくれたこと、それは本当に嬉しかった。




これから、もう二度とそういう人が出てこなくても……

私は、もう少し自分に自信を持って、歩める気がする。




「応援しているから、誰よりも」

「歌穂……」

「あなたが、また別の場所で輝いてくれることを、誰よりも応援しているから」


謙の言うように、こんな別れ方は『きれいごと』なのかもしれない。

それでも、いがみ合って別れることが、一番いいことだとは思えなかった。

圭の手が、私の頬に触れ、ゆっくりと唇が重なっていく。




忘れないで……と




私たちは、『旅立ち』をすることになった。





その次の日、日曜日。掃除をしていると携帯が鳴り出した。

掃除機のスイッチを切り、床に置くと、私は携帯を開く。

相手は、以前私を呼び止めた工藤さんだった。


「はい……」

『リジュームプロダクションの工藤です。先日はどうも』

「はい……」


工藤さんからの電話に、心臓が大きく音を立てる気がした。

明るい口調のまま、『ありがとうございました』とお礼を受ける。

昨日、圭から聞いていたので、わかっていることだったが、

本当に動き出したのだと認めることになり、少し手が震えてしまう。


『梶本が気持ちを決めてくれました。『Rioni』との契約も、明日行います』

「はい……」

『ご決断に感謝いたします』


自分で決めたことなのに、昨日、圭からも聞いていたのに、

それから先は、工藤さんが何を話してくれたのかも、よくわからないままだった。

2月10日までが契約の限界と話していたが、明日それが終わるとなると、

一斉にマスコミへ発表されるらしく、銀行の仕事もなるべく早めに切り上げられるよう、

有給の消化をさせるつもりであること、春にはフランスへ向かうために、

しばらく準備期間が必要になることなど、

聞いてもいないことがあっという間に並べられた。



本当にもう、自由には会えなくなるし、気持ちを寄せることも許されない。



私は全ての内容に、ただ『わかりました』と言い続け、工藤さんの電話を切った。




『あなたに惹かれています』




あんなふうにまっすぐ、思いを寄せてくれた人に出会えたのは初めてだった。

年下で、子供のようなところもあったけれど、いつでもまっすぐ私を見てくれた。

私のひねくれたところも好きだと言ってくれたし、

かわいくないところも、魅力だとそう言ってくれた。

真っ暗な部屋の中で膝を抱えたまま、流れてくる涙をただ体全体で受け止め続ける。

自分が選んだことなのだから後悔するまいと思いながら、

必死に崩れそうになる気持ちと、戦い続けた。




【17-5】

相手を思い、揺れ続けた歌穂の結論
その先に見えてくるものは、幸せなのか……不幸なのか
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント

これからも

拍手コメントさん、こんばんは

>人を好きになる事を教えてくれた圭との別れ、辛すぎます。

はい。歌穂にとっては、自分の色々な部分を気づかせてくれた人でした。
この結論が、彼女の人生をどう動かすのか、
最後まで、おつきあいください。

長編にはなっていますが、みなさんの反応を知ることが出来ると、
とっても嬉しいです。コメント、ありがとうございました。