19 摩擦を呼ぶ女 【19-5】

【19-5】

次の日、私は午後から本店へ向かうことになった。

鴫原有紀が顔を出すことが決まった5店舗の担当者が、顔をそろえる。

上層部との打ち合わせはすでに終了していて、

現場の人間には注意点だけがあれこれ発表された。


「リジュームプロダクションの工藤と申します。
今回は互いに素晴らしいイベントとなりますよう、努力させていただきますので、
よろしくお願いします」


工藤さん。

圭の事情を聞き、『別れて欲しい』と言われてから、顔を見るのは初めてだ。

顔を上げると、視線があった気がするが、そのまま下を向く。

圭が頑張っているのか聞きたい気持ちはあるけれど、

未練を残していると警戒されるかもしれない。

掲示板に書き込まれた移動の時間配分、各店舗での対応、

いきなりあれこれ決まったものだと思っていたが、さすがにしっかりと管理されている。

一番のイベントは、本店で行われるらしく、そのための準備も、

水面下でしっかり進んでいた。

それにしても、他の4店舗の大きさから比べると、明らかに『森口支店』は小さい。

担当者の雰囲気を見ても、すでに前から決まっていたという余裕も見える。

うちだけが後から割り込んだように思え、逆に細かいトラブルにならないかと、

少し心配な気もした。


「何か、ご質問はありませんか」


私は思い切って手をあげることにした。

工藤さんの隣に座っている警備会社の方が、どうぞと言ってくれる。


「『森口支店』の米森と申します。今回のイベントですが、
こちらの説明どおりに行おうとすると、
うちの店舗はロビーの広さがここまでありません。
人の配置など、少し見直していただきたい箇所もあるのですが」


あくまでもお客様が第一。

イベントの開催で、入れないなどということがあっては、逆効果を生んでしまう。


「本店や中央支店のように、掲示ポイントのような場所も、『森口支店』にはありません。
お客様が座る椅子の方まで、人が押し寄せるようでは困りますので」


警備会社の方は工藤さんと何か話をし、

その日の朝、どれくらいの人が集まるかによって、判断しますと言ってくれた。

とりあえず、他支店との違いを納得してもらっただけでもほっとする。

話し合いはそれから30分後に終了し、私は会場を出た。


「米森さん」


声に振り返ると、工藤さんが立っていた。私は頭だけを下げる。


「お久しぶりです」

「はい……」


工藤さんは私の手を引き、会場の奥へと連れて行った。

あらためて『ありがとうございました』と頭を下げてくれる。


「梶本はしっかり仕事に向かっていますので……」


私はどう応えたらいいのかがわからず、とりあえず何度か頷いた。

支店に戻らなければならないのでと言い、その場を離れようとする。


「あの……」

「はい」

「『森口支店』というのは、『東日本成和』にとって、重要支店なのですか?」


工藤さんの質問に、私はどういう意味ですかと、逆に問いかけた。

工藤さんは、今回、『東日本成和』の方から、この支店でとお話があり、

初めは『森口支店』ではない場所が決まっていたのに、

あえてここでと入れ替えられたと言う。


「入れ替えられた」

「えぇ……先ほどの質問にもあったように、支店の規模が小さいので、
少し不安があるのはこちらもなのです。でも、本店の方からどうしてもと。
うちも梶本の件がありますので、『恩返しをしてほしい』と言われたら、
そうですねと答えることになってしまって……」


『森口支店』を望んだのは、やはり事務所側からではなかった。

本店からの押し付けだとすると、何か意味があるのだろうか。


「とにかく、警備はしっかりやりますので」

「よろしくお願いします」


私は工藤さんに頭を下げ、書類を手に持ったまま、

納得できない思いをそのまま支店へ持ち帰った。





「よろしくお願いします」

「はい」


結局、融資の数名が外の警備にも借り出されることとなり、

私は本店で聞いてきた話を、そのまま若手の行員数名に話すことになった。

高野さんはイベントは緊張すると笑顔のまま銀行を出て行って、

井上さんは、大騒ぎになったら迷惑だと、少し不機嫌で化粧直しをする。

私は支店長室の扉を叩き、謙の返事を待った。


「失礼します」


本店で打ち合わせを終え、とりあえず事務所側から数名の警備が配置されること、

融資の男性にフォローを頼んだことなど、手短に語っていく。

謙は話を聞きながら、渡した資料に目を通す。


「どうして『森口支店』なのかと、工藤さんに聞かれました」

「工藤さん?」

「リジュームプロダクションの。チーフマネージャーをされている方です。
梶本君の件で、1度だけお話したことがあったので、
どうしてなのかと私が聞かれてしまって」

「で、どう答えたんだ」

「答えませんでした。私には理由がわかりませんので」

「言っただろ、勢力争いだと。そういえばよかったのに」

「外部の方には、関係ないことです」

「関係ないところまで巻き込むほど、おかしくなっている」


謙はそう言うと書類をデスクに投げるようにし、一度大きく息を吐いた。

やはり、本店が何かを考えて、ここにしたのだと言うことだろう。


「これからも色々とあるはずだ。まぁ、成功して当たり前、
失敗すれば、それ見たことかと、すぐにクレームが入るだろう」

「クレーム?」

「ここは絶対に乗り切らないとならない。頼む……」


謙の表情を見ていれば、その言葉の重さは、ひしひしと伝わった。

私は、とにかく混乱のないように心がけますと頭を下げ、出て行くことにする。

どうせ、あれこれ聞いても、ここで語ってくれることはないだろう。

ドアノブに手を置き、一度振り返ると、どこか沈みがちな謙の顔がそこにあった。




【19-6】

季節が変わり、歌穂を取り巻く人たちも変わっていく
流れていくべきか、それともとどまるべきか……
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