22 定めを探る男 【22-5】

【22-5】

何がキャリア研修だ。

確かに粕谷部長が話していたことが全て本当ならば、

謙がしていたことは、正しいとは言えない。

でも、あの人は支店長だった。

管理をする立場にいて、部下が何をしていたのかがわからなかったのだから、

自分も反省をすべき立場なのに、そんな雰囲気は少しも感じられない。

そんな男が指導する『キャリア研修』に果たして意味があるのだろうかと、

私は午後の研修を受けながら、そう思うだけだった。





全ての研修が終わり、私はまた『森口支店』の席へ戻った。

とりあえず1階へ向かい、支店長である謙と、吉野副支店長に終了した報告をする。


「そうですか、これから米森さんには、
もっと力を発揮していただかなければなりませんね。
これからは女性もどんどん上に立つべきですから」


そんなこと、微塵も思っていない人から言われると、

体の芯まで腹だたしい。


「いえ、粕谷部長のご指導を受けて、あらためて自分は管理者には向かないのだと、
痛感しました」

「は?」

「私は、このままで結構です」


あんな男が薄ら笑いを浮かべる組織なら、偉くならない方がいい。

同じだと思われるのは、嫌。


「いや……その……」


粕谷部長のことを、悪く言っていると気付いた副支店長は少し慌てだし、

隣で無言のままだった謙の口元は、ほんの少しだけゆるんだ気がした。





6月の終わり、『DIY』を楽しみにするようになってから2ヶ月が過ぎ、

私は雑誌を入れる『マガジンラック』が作れるくらいにまで腕を上げた。

といっても、まだ、細かい材料は先生方が用意してくれているのだが、

それでも、形になった物を響子さんに贈ると、

嬉しいと言いながら、携帯のカメラで何度もシャッターを切っている。


「響子さん、携帯のカメラで撮ってどうするんですか?」

「エ……あ、ごめん、ごめん。ちょっと残したくて」


私はお礼のコーヒーをいただきながら、

『花火大会』までには、なんとか椅子を作ってみたいと、目標を口にする。


「いいじゃない、いいじゃない、歌穂さん。目標は持たないとね」

「出来るかどうか、わからないですけれど」

「楽しむことが大事。人生は楽しくないとねぇ」

「はい……」



『素敵な時間』



圭がそう表現してくれた時間を、私は今『DIY』との出会いで、過ごしている。


「ポスター、また貼り出されましたね」

「あ……うん。町内会長さんがよろしくねって言うから、どうぞって」


7月に行われる『竹原川花火大会』

今年もその季節がやってくる。


「あ、そうだ。今年は歌穂さんのところで、『花火大会』見せてもらおうかな」

「うち……ですか?」

「ダメ? 私、実はきちんと見たことが一度もないのよ」


響子さんが住むマンションからだと、大きな木が邪魔になり、うまく見えないという。


「どうぞ、どうぞ、ぜひお越しください」

「よぉ~し、今年は見るわよ」


響子さんは『マガジンラック』に、お店で置いてある雑誌を入れ、

お客様の席がある真ん中に配置してくれた。パイン材の優しい木目が、

ぬくもりと暖かみを表現している。


「それなら、最高のお土産、持って行くからね」

「はい、楽しみにお待ちしてますよ、最高級のお酒」

「あらあら……」


私はコーヒーカップに口をつけ、『美味しいです』と褒めてあげた。





プライベートが充実し始めると、仕事の面でもトラブルは起こらないようで、

融資関係のデータを確認しながら、書類をケースに戻す。

目の前の支店長室が開き、謙が姿を見せた。

どこかに行くのだろうか、慌しく階段を駆け下りていく。




『あいつは自分のことだけを考えている』




どちらも正しくないのなら、私はどちらにつくつもりもない。

熊沢課長に休憩に入ることを告げ、更衣室へお弁当を取りに向かった。




【22-6】

歌穂の見つけた『素敵な時間』
部品を組み立てるように、過去の出来事が組み立てられていき……
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント