23 星に願う女 【23-1】

23 星に願う女


【23-1】

『全てを話す』



謙と知り合ってから、10年以上の月日が経った。

ただの後輩と先輩から、その間柄は変わり、大切な時間を共有するようになった。

それでも、私にはいつも不安がつきまとい続け、

『全て』を知ったという瞬間は、一度もなかった。




その謙が、語る全てとはなんなのか……




次の日、お店に到着したのは、私の方が早かった。

謙が予約を入れたとメールを寄こしたので、そのまま名前を告げると、

店の奥まで連れて行かれる。

以前、ここで食事をした席も仕切りがされ、

それぞれプライベートを守れるつくりになっていたが、

今日はさらに奥へ行くことを考えると、これから語られる『全て』に重みがあるのだと、

自然と理解できた。

4人が座れる部屋に、一人で待つ。

謙が現れたのは、それから20分後のことだった。


「待たせて申し訳ない」

「いいわよ、別に。忙しいのでしょ」

「……まぁ、忙しいね。余計な元上司のおかげで」


謙は、粕谷部長があれこれ動いていることを知っていて、そう表現した。

『キャリア研修』という場所が、どういうものであったのかも、

おそらく気付いているだろう。

店員が姿を見せたので、まずはワインだけを注文する。

食事は話が終わってからにして欲しいというと、

店員はわかりましたと黙って出て行った。


「まずは『キャリア研修』お疲れ様」

「そうね、疲れたわ精神的に」


粕谷部長のおかげで、どうでもいいことばかりが前に出てしまい、

本来、しなければならなかったことが出来たのかどうか、

終わってみるとそれすらも疑問に思えてくる。


「『はやぶさ証券』と言う名前が出てから、いつかはこういう展開になるだろうなと思い、
それなりに準備をしていたつもりだけれど、
粕谷も本店にいることをいかし、思ったよりもしつこかったよ」



『はやぶさ証券』



そう、全てはこの言葉から始まっている。



「粕谷が君にどう伝えているのかは知らないが、まぁ、言うとおりだ。
僕は『神波支店』にいた頃、『はやぶさ証券』の漆原部長から、ある依頼を受けた」


漆原部長。

姿くらいなら、私も何度か見かけたことがあった。

体格もよく、目の鋭い人だった、イメージがある。


「それを引き受けてくれるのなら、『成和』へ移る手はずを整えるとね」


謙は、それから漆原部長が、『東日本』には将来性がないこと、

いずれ、『成和』や『ひいらぎ』などの大手に吸収されるだろうと

言ったことも語ってくれた。

謙自身にも、実際の仕事の中で、他銀行との差は感じられていたようで、

その話に乗ろうと気持ちが動いたという。


「法人担当をしている中で、
僕自身が何よりも感じていたことを言い当てられたことが、大きかった。
企業に挨拶に向かっても、色々細かく書類を出している横で、
『成和』や『ひいらぎ』はあっという間に顧客を奪っていった。資本金が違うんだ。
抱えている業務数も圧倒的に差があった。どれだけ気持ちで訴えても、
人はそれだけでは動かない」


『東日本』がどのような形であれ、吸収されてしまうと、

ほとんどの行員たちが辞める道を選ぶか、出世コースから外れてしまうと、

漆原部長は、謙の野心を揺さぶった。

謙は、『株式会社 本間設備』など、数件の名出しされた企業情報を手土産に、

『成和』への道を選んだと言う。


そう、私が『キャリア研修』で粕谷部長から聞かされた話と、

ここまではほぼ変わらない。


「『株式会社 キョウグル』は、『はやぶさ証券』がなくなった後、
その役員たちが作った会社だ。外国から『金』を輸入し、
それを色々な取引に使っている」


謙は、漆原部長がいまだに、

『成和』の本店勤務の役員たちとつながりがあることを語り、

その縁で面倒を見ているのだと、そう話してくれた。

私は、全ての話をただ黙って聞いた。

というよりも、何を言えばいいのかもわからなかった。

かつて、謙に心を奪われたのは、仕事に対する熱心さと、後輩に見せる優しさ、

その2つがあるからで、あの時、彼が自分の出世を考え、

同僚たちの仕事を奪い、別の道を模索していたなど考えてもみなかったし、

そんな素振りさえ見えなかった。

黙ったままの私の耳に、『カチン』という音が聞こえる。


「さて、歌穂に渡すのはここまでだ」

「渡す?」


謙はポケットから『ICレコーダー』を取り出すと、私の目の前に置いた。


「来週の月曜日、粕谷が『森口支店』へ来る。その時に、これを渡せばいい。
僕のことを君が食事に誘って聞きだしたと言えば、何もおかしくはないだろう」

「粕谷部長に渡す? 何を言っているの」

「何をって、粕谷はこの話を知りたがっている。いや、僕がこういうことをしたと、
宣言している証拠が欲しいんだよ。だから青木や柳田を使って、色々と動いた。
歌穂、君にも僕を裏切れと、そう迫っただろ」



『今の話を、粕谷部長に渡す』



謙は、私を試しているのだろうか。




【23-2】

知っていくほどに、結局あなたに会いたくて……
歌穂が見上げた空には、一瞬の星が瞬く
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