23 星に願う女 【23-4】

【23-4】

部屋へ戻り、着替え終えると受け取ったレコーダーを持ったまま、ベッドに寝転んだ。

この数ヶ月、粕谷部長と吉野副支店長との関わりで、

余計なストレスばかりがたまっている。

『東日本』時代、顧客の思いを大事にしながら、

一つずつ仕事を積み重ねてきた同僚たちにすれば、

自分だけ安定した場所へ逃げた謙の行為は、確かに許したくないことだろう。



『来週の月曜日、粕谷が『森口支店』へ来る。その時に、これを渡せばいい。
食事に誘って聞きだしたといえば、何もおかしくはないだろう』



それでも……

この証拠を、粕谷部長に渡すことなど、私には出来ない。



『おもちゃキッチン』の上に置いた、圭からの時計。

あの日、圭と謙が何を話していたのか、私は初めて知った。



『あなたに惹かれています』



その言葉を聞いた日から、私のことをずっと見てくれていた人。



『どこまでの感情なのかはわからないけれど、何かはあるでしょうねと』



思ったことは口にしないと気が済まなかった圭が、

私に黙ったまま、小さな不安と戦い続けていたなんて、思いもしなかった。



『素敵な時間』



圭が残してくれた言葉はそれだけ。

初めは、失ったものの大きさに、つぶされそうだったけれど、

その中で本当の思いに気づき、そして、新しい趣味も探すことが出来た。

『前を向き、仕事をしている』あなたにもう一度会えたとき、下を向かずに済むように、

私は自分を見失わないよう、歩いてきた。




過ぎた時が戻らないことはわかっている。それでも……




……花火のような、一瞬の輝きでもいい。




今、あなたに会いたい。




外した腕時計を握りしめながら、私はため息だけを床に落とした。





その週末、『竹原川花火大会』の当日となった。

天気は快晴。朝から地元の人たちが準備を始めている。

子供たちがその様子を覗き込み、危ないからと注意をされた。

携帯にメールが届き、確認すると、相手は響子さんだった。



『今日は楽しみ、とびっきりの差し入れ、楽しみにしていてね』



響子さんの差し入れ、美味しいケーキだろうか、それともお酒だろうか、

まぁ、どっちに転んでも間違いないものが来るはず。

出来ないだろうと思われていた椅子も、なんとか完成した。

今日は女二人で、大いに楽しもう。

私はそう思いながら、もう一度大きく背伸びをした。





花火大会開始まで30分をきる。

そろそろ響子さんが来てもいい頃だと、視線は何度も時計を見た。

揚げたての方が美味しいので、下ごしらえだけしたままのから揚げと、

サラダや取り皿も用意する。

川沿いはどんどん賑やかさを増していき、人の数もあっという間に増えた。

ビニールシートが隙間なく並び、前祝いらしき乾杯の声も、聞こえてくる。



川の反対側に立つ、あの小さな工場。

圭のおじいさんは、今年も来ているのだろうか。



思いを対岸に向けていると、インターフォンが鳴り、私は慌てて画面を確認した。

響子さんの顔がそこにある。

『今、あけますね』と返事をし、オートロックを解除した。

エレベーターに乗れば、すぐに玄関前に到着する。

隅に置いた椅子を真ん中に置き、すぐに見えるようセッティングした。

初めて完成させた椅子。

この出来栄えをどう褒めてくれるだろう。

すると、あらためてのインターフォンが鳴った。


「はい、今出ます」


ドアノブを持ち、玄関を開ける。



「……あ」



扉の前に立っていたのは、私が思っていた響子さんではなく……




「こんばんは……」




サングラスを外して見えた目は……




「圭……」




目の前で微笑んでくれたのは、幻でも偽者でもない、本物の圭だった。




【23-5】

知っていくほどに、結局あなたに会いたくて……
歌穂が見上げた空には、一瞬の星が瞬く
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コメント

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キャーーーーーーーー!!!
圭がきた!!!

思わずキュンとしちゃいました。
ドキドキします。

そうです、圭です

ハンコックさん、こんばんは

>キャーーーーーーーー!!!
 圭がきた!!!

はい。圭が歌穂の元に
どうして? なぜ? は続きにおつきあいくださいね。
驚きの様子が伝わってきて、なんだか嬉しいです。