23 星に願う女 【23-6】

【23-6】

音が小さくなり、会場もそれを見逃すまいと、少し静かになっていく。


「副支店長の気持ちに、歌穂が応えていくようになるのなら、
それは認めないとならないのではないかという思いと、
絶対に負けたくないという思いで、ずっと揺れていた。
だからこそ、あんなことで君のそばを離れないとならないのが、本当に悔しくてさ」


圭の気持ちに応えながらも、心のどこかで謙のことを気にしていた。

今思うと、確かに気持ちが揺れていたと言われても、仕方がないかもしれない。


「追い込まれた中で、何か出来ることはないかと、俺なりに必死に考えた。
その一つが響子さんのところへ行くこと」

「響子さんのところ?」


圭は、私と別れることを決めてから、『ジュピター』に向かい、

響子さんに事情を説明した。


「大事なことは、歌穂が笑顔で過ごせることだって、そう言われた。
家族の事情のために歌穂を捨てる俺も悪いし、過去に色々とあったのに、
それを棚に上げてやり直そうとする副支店長も両方悪いって、怒られて」

「響子さんが?」

「うん……。こうなったら、どちらが自分の事情をやりくりした上で、
歌穂を迎えにいけるのかどうか、それが問題だって。だから、俺は頑張った。
『実績』と『未来』を築けるように、他のことは何も考えずやってきた」


圭は、仕事を必死にこなしながら、

響子さんから、私の日常をメールで知らせてもらっていた。

『DIY』に興味を持ったことを知っていたのも、作品を作ったことを知っていたのも、

みんな響子さんが教えてくれたという。


「そうしているうちに、自分の気持ちが変わっていることに気がついた。
お金のためにモデルの仕事をするのだと、最初は思っていたのに、
いつの間にかもっと上を目指したくなったし、
努力してたどり着こうと思えるようにもなった。
戦うために持つべき、『仕事への自信と覚悟』というキーワードを出した
有働副支店長の気持ちも、本当の意味で理解できたのかもしれない」


謙の仕事に対する思いは、確かに人並み以上のものがある。

だからこそ、常に彼は人よりも前を歩いている。


「俺、片桐さんが管理をするモデルの中で、一番になれたんだ。
片桐さんはアジア戦略のチーフだからさね、韓国や台湾のモデルにも縁がある。
どういう基準で評価してくれたのかは、『Rioni』側に聞かないとわからないけれど、
でも、褒めてくれた。よくやったって……」


私が見た雑誌や、ポスター。

圭は本当に仕事を前向きにこなし、戦っていた。


「『本社が好きなものをくれることになった』って、片桐さんに言われて、
俺、それならどうしても一つだけ欲しいものがあるって、そう言った」



一つだけ、欲しいもの……



「車も洋服もいらないし、バカンスに行くような休みもいらない。
ただ……」



ただ……



「米森歌穂に、会わせて欲しい……」



私と会うことを、圭は一番になれた褒美にして欲しいと、片桐さんにお願いした。


「片桐さん、笑いながら、そう言うと思っていたよって」


仕事の条件で、企業側が身辺整理を告げることは多いが、

実際には隠れて会っていたり、約束を守らないモデルやタレントが多い中で、

圭が本当に私と別れ、必死に仕事をこなしてきたことを、

『Rioni』の片桐さんも、褒めてくれたと言う。


「同じ時期に、工藤さんも片桐さんに話をしてくれていた。
君がしっかりした女性で、俺の邪魔をするような行動は取らないこと、
仕事も熱心にこなしていて、支店での信頼も厚い人であること、
片桐さんがそれで認めてくれたんだ」

「認めてくれた?」

「あぁ……仕事に支障をきたさない程度なら、会って構わないって……」


ドーンという大きな音が聞こえ、小さな花火大会は、エンディングへと向かっていく。


「あ、ほら、歌穂、エンディングになる、見よう」

「うん……」


圭は私の手を引き、もう一度ベランダに出た。

今年の『花火大会』エンディングが、大玉の連発で彩られる。


「あ、そうそう、工場に顔を出したんだって?」

「あ……うん」


圭は、今年もおじいさんが招待されていて、

今頃同じように花火を見ていると教えてくれた。

川の向こうにある工場には、確かに灯りがついている。


「銀行の同僚ですって、挨拶したんだって?」

「……聞いたの?」

「聞いたよ。鳩山のおばちゃんが洗濯を干していたら、
川の横に立って、ベランダを見上げていた女性がいて、不思議だったって」


圭がいなくなってから、工場を訪ねたことがある。

あくまでも偶然で、ちょっと立ち寄ったように見せたつもりだったのに。


「目が合ったら、スーッといなくなったのに、すぐに工場を覗いていたって。
違う?」

「……ううん、そう、その通り」

「だから、俺の大事な人なんだよって、説明しておいた」



大事な人……



「おばちゃん、それならもっとお話しておくべきだったって、後悔していたよ」

「そんなこと……」

「全く、通りすがりのふりをするなんて、6つも年上のくせに、
やることがかわいいんだな……歌穂は……」


少し口元をゆるめながら、なんだか満足そうな圭の顔がそこにある。

自分だけは全てを知っていて、今日という日を迎えようとしていただなんて、

わかればわかるほど、だんだん腹だたしくなってくる。



6つも年下のくせに……

人のことを、見下ろすようにしなくたって……



「ねぇ……」

「何?」

「片桐さんが許してくれたのなら、どうしてもっと早く来てくれなかったの?
私、本当にあなたに会いたくて、色々話したいことだってたくさんあったのに……」


1年経って許してもらったのなら、この夏まで待たなくても、会えたはずなのに。


「話したいこと? 何?」

「何って……そういう意味じゃなくて」


今、急に話したいわけじゃない。

圭はわかっていてわざととぼけてみせている。


「どうして今日だったの?」


そう、どうして圭が今日を選んだのか、それを聞きたい。


「まぁ、『Rioni』の後に続く仕事の話もあったことはあった……でも……」


どうしたのだろう。なんだか少し歯切れが悪い。


「……圭」

「ごめん、どうしても無理だったわけではないんだけど、
でも、戻ってくるのはどうしても今日にしたかった」

「今日に?」

「戻れば歌穂が驚くことはわかっていたから、せっかくならと色々考えた。
すると、やっぱり思うのは、この日のことで」


『この日』とは『今日のこと』


「『竹原川花火大会』は、歌穂にとって大切な思い出の日だけれど、
でも、それと同時に、一番、ひとりでいるのは寂しい日だと……そう思っていたから」



『見えないよぉ……』

『歌穂、ほら、つかまりなさい』



父が優しかった頃のこと、この日が来ると必ず思い出す。



「俺もそうだった。おじいちゃんのものだった工場で、楽しく見ていた花火のこと、
思い出すのは嬉しいような、それでとても寂しいような気がしていたからさ」


『あの頃の父はもういない』

その思いを強く感じてしまう日、『竹原川花火大会』は確かにそういう日だった。

華やかな光が消えた後、残されるのは、夢とは違う現実。


「二人の思い出を、塗り替えたくて」

「……圭」

「今日から、俺たちの『花火大会』は……」


圭を見つめたままの私に届けられたのは、優しいキスだった。

『竹原川花火大会』の花火も、まぶしい光で精一杯観客を楽しませる。


「……同じ思い出になる」


優しかった父との、戻らない過去の日ではない。

これからもずっと一緒にいられる人との、再出発の日。


「歌穂が話したいと思うことは、
これからずっと、聞いてあげることが出来るから……心配しないで」


大好きな圭が、私のところに戻ってきてくれた日。

私はあらためて彼に腕をまわし、そして唇を重ねる。

『竹原川花火大会』は、私たちにとって大切な、大切な1日になった。




【24-1】

知っていくほどに、結局あなたに会いたくて……
歌穂が見上げた空には、一瞬の星が瞬く
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

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拍手コメントさん、こんばんは

いつもありがとうございます。
こっそりと直しました(笑)

振り返ってみると2月末から、毎日に近い状態で更新し続けてました。
(まぁ、1話が短いですけどね)
最後の最後まで、見届けてください。