24 一人の女と二人の男 【24-6】

【24-6】

「うわぁ……いい風」

「そうですね」


10月に入り、響子さんと出かけたのは、

昔、旅行代理店で初めて出会った日、申し込もうとしていた『箱根』。

その大人気の宿に予約をし、二人で見事な景色を満喫することになった。

ゆっくりと温泉につかり、マッサージの椅子に座る。

肩から腰へ、心地よい刺激が少しずつ下りていく。


「何? あの梶本君が俳優?」

「そうなんです。圭のモデルぶりを見たテレビのプロデューサーが、
年末に作る2時間ドラマの中で、
俳優デビューしないかって話を事務所に持ってきたらしくて」


『もみほぐし』というだけあって、動きはゆっくりだけれど、

ツボをとらえるその実力はさすがに一流の機械。


「……で、『愛しの君』は俳優に?」

「いえ、それが首をブンブン振って断ったそうです。絶対にやらないって」


『Rioni』との契約も残り半年となったが、その活躍のおかげで、

モデルとしての仕事はその後も続くことが決定している。

圭は、それならば無理に活動の場を広げる必要はないと、

俳優デビューの話はしっかりと断ってしまったみたいで、

先日、工藤さんからため息混じりの連絡をもらい、私はそれを黙って聞き続けた。


「で、何? 歌穂さんに説得してほしいって、事務所側が言うの?」

「いえ、言いません。圭が決めたら絶対に動かないってことは、
工藤さんも認めていましたし、まぁ、今は若いので、
1本決めて仕事をするのも悪くないだろうって」

「ほぉ、ほぉ、そうよね。梶本君はあれこれ追うタイプじゃないもの。
これといったら、絶対にこれ! なのよ。『米森歌穂』と言ったら、
絶対に『歌穂』なの……うわぁ……ちょっとこの叩き、結構クルわよ」


響子さんの妙なたとえと、マッサージにゆがめた顔がおかしくて、

つい笑ってしまう。


「何よ……笑ったりして。強めにやってごらん。クルから」

「大丈夫です、これくらいで」

「いやぁ……でも、ちょっと見てみたかった気もするけどね、梶本君のドラマ」


響子さんはそういうと、リクライニングをさらに倒して、

マッサージを全身状態に変えていく。響子さんの脚が気持ちよさそうに、

左右に揺れた。


「そうですか? 私は恥ずかしくて画面なんか見られない気がしますけど」

「そう?」


あの圭がカメラの前に立って、演技すると思うだけで、顔が赤くなる。

何でも正直に話してしまう圭には、『作られたもの』は似合わない気がした。

自然のまま、彼のままでいられる場所、それを見つけることが出来るはず。


「あ、そうだ。どうだった? 新しい場所は」

「はい。まだ挨拶したくらいですけれど、みなさん温かそうな方ばかりでした」

「そう」

「はい」


私は、この10月から『グリーンファイナンス』に出社している。

粕谷部長に対し、あれだけ失礼なことをしたのだから当然といえば当然だが、

熊沢課長や、井上さんなどは、何も知らなかったので、

どうしてそんなことになったのだと、本当に心配してくれていた。


「社員は20名いないくらいなんですけど、その代わり、みなさん上も下もなく、
仕事に取り組んでいます。なんせフロアが一つですからね、
さぼっていると全て見られちゃいますから」

「そう、歌穂さんが割り切っているのならほっとした」

「はい」

「全く、大きな組織っていうのは、そういうものなのかね……」


響子さんには、出向が決まる前に、『ジュピター』で全てを語ってあった。

元上司に失礼なことをしたけれど、後悔は本当に一つもない。


「偉いよね、歌穂さんは」

「偉い……ですか?」

「だってそうじゃない。結果的には元彼を救ってあげたわけなんだからさ」


私は謙を救ったのだろうか。

彼が求めた間柄には、なれなかったのに……


「救ったんですかね、私」

「救ったのよ。彼はきっと、これから少し変わっていくはず。
お金でも地位でもない欲しいものが、本当に生まれてくると思うけど」


私はその言葉にしっかりと頷いた。

マッサージの機械が、任務を終了したのかピタリと止まる。


「あ……止まった」

「はい」

「よかったね、これ」

「そうですね」


二人でマッサージチェアから立ち上がり、夜風の中を部屋まで歩いていく。

ドライブと観光と、お風呂のオンパレードで、すっかりお腹が空いた。

今から出てくる食事が、本当に待ち遠しい。


「『東日本成和銀行』から出てしまったことに、後悔は全くないですし、
むしろスッキリしてます」

「うん……」

「私も圭と同じみたいです。嫌なことはやりたくないから」


この旅行から帰った後、圭と会う約束になっている。

『出向』先が、居心地のよさそうな場所だったと言ったら、

きっとほっとしてくれるだろう。

それでなくても、私のことに関してだけは、いつも心配ばかりしているから。



『歌穂らしく……』



そう言ってくれる気がする。


「私も昔はね、OLしてたのよ」

「響子さんが……ですか?」

「そうよ。でも、周りとあわせていることに疲れちゃって、それで辞めてしまった」


響子さんは、以前、生命保険の会社に勤めていたが、

人間関係に疲れて、辞めてしまったのだとそう昔話を披露してくれた。

適当な距離を保ちながら、人と接する今の仕事の方が、

自分に向いていると笑顔を見せてくれる。


「『ジュピター』向いていますよ、響子さんは」

「そう?」

「響子さんといると、ほっとするというか、
悩んでいることも解決できる気がするんです。不思議なことに」

「うわぁ、本当?」

「そうですよ、常連さんも増えているじゃないですか。私もそうですし……、
圭も……きっと、居心地がとってもいいから」

「あぁ、そういえばそうね。二人とも長居と、相談ばかりで、
売り上げ貢献は少ないけれど……」


響子さんはそう言った後、冗談だと笑い出した。

私はその通りだと思い、頭を下げる。


「ウソ、ウソ、二人との出会いは、私にとっても大きいわよ。
人生を、色々な形で楽しまないと損だと、そう思えるもの」


無理に型にはまろうとしたり、回りの人間をはめようとしたり、

そんな堅苦しい日常から、少しだけ引いてみると、

もっと楽しいことがたくさん見つかった。


「……あとは、『恋』だけですね、響子さん」

「そこが一番難しいのよ、もう!」


部屋まではもう少しという場所で、響子さんの足が止まった。

差し込まれているパンフレットを取り、1枚を私に手渡してくれる。


「ねぇ、これ見て」


それは、芦ノ湖で行われる『花火大会』のパンフレットだった。

豪華な客船に乗り、湖上で見る花火はどんなものだろう。


「来年、来ましょうか、これに」

「誰が?」

「私たちが……です」

「私たち?」

「私は圭と来ます。響子さんは……明日出会うかもしれない彼と」

「コラ! どういうことよ!」


私は響子さんの攻撃から逃れようと、歩みを少し速くする。

女二人の秋旅行は、男たちの話をつまみにし、夜も続いていくのだろう。



圭が戻ってきたら、どの話から語ろうか。

きっと、どの話をしたとしても、楽しそうに聞いてくれるだろう。



あの花火大会の日に、約束した通り……



これからも、ずっと……





『星の降る夜に』 (終)





最後まで、おつきあいありがとうございました。
感想のコメントなど、ひとことで結構なので、いただけたらなと思っております。
さらに、1日1回読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント

ありがとう

長い間、おつきあい、ありがとうございました。
創作の『あとがき』は、後日、書かせていただきます。
毎度のお願いですが、ぜひ、一言、感想を書いてみてください。

自分らしく

楽しく拝見してました。終わってしまって寂しいです。

ああ~、終わっちゃった。

それぞれに自分を見失いかけてたけど、
乗り越えて新しい道を見つけて歩き出しましたね。
圭をずっと応援していたので、本当によかった♪
圭が「素敵な時間」を刻んでほしいと願って時計を贈るところが好きでした。

最後に圭が出てきてほしかった~
圭ファンなので♪

後書き楽しみにしています。

終わっちゃいましたね。
とっても楽しかったです。
ももんたさんの小説は全て好きです!
今回は私も純愛したくなっちゃいましたw
今夜は主人にベタベタしてみよっと(笑

圭の過ごした1年半を違う視点からみてみたくなりました。
譲の奥様視点でのお話でも面白いかも!
機会があったら是非かいてください。

こうして別視点の状態も知りたくなるような小説が書けるなんて素敵です。
これからも是非たくさんの作品を書いてくださいね。
楽しみにしています!

今回も心で考えさせられるお話でしたね。圭君の一途な思いが叶って歌穂さんがまっすぐに生きる道を間違えないで行ってくれると確信出来るラスト、よかったです。純粋に生きることは本当に難しいものですね。次回も穏やかながら心に響くお話待っています。

あぁ、終わってしまいました。
毎日、楽しみにしていただけに、脱力感が半端ないです。
連続で読めるのは、感情移入しやすいです。
歌穂と圭のすれ違いにため息を付き、謙の強さにハラハラしました。
これからも、楽しくて、少しホロリとなるような作品お待ちしてます。
残暑の厳しさに、負けないよう、頑張ってください。

脱稿おめでとうございます。
読み始めの頃は、圭くんは当て馬で結局謙のところに元鞘するんじゃないかと思ってたんですが、いい意味で裏切られました(笑)
この長さのお話を、飽きさせず、そしてほぼ毎日更新なさる、もうその点だけでも尊敬に値します。お疲れさまでした・・・でも読む側としてはすごく寂しい。日課がなくなったかのようで。催促するのは鬼だと分かっていても次、が早いといいなぁ・・・と。
そんな気持ちに反した発言ではありますが、残暑きびしい頃、どうぞご自愛なさってください。素敵なお話をありがとうございました。

ありがとう

ピンクリリーさん、こんばんは

>終わってしまって寂しいです。


ありがとうございます。
楽しみにしていただけたのがわかり、とっても嬉しいです。
私なりの創作なので、色々と不備もあることとは思いますが、
これからもまた、お好きな時に、おつきあいください。

コメント、そしてお話に最後までおつきあい、
ありがとうございました。

ありがとう

れいもんさん、こんばんは

>圭が「素敵な時間」を刻んでほしいと願って
 時計を贈るところが好きでした。

私も好きなシーンです。
自分で幸せにしたいけれど、もし、そうでなくても、
あなたの刻む時が、素敵なものになるように願う……
圭の優しい思いが、出せたのではないかなと、自画自賛(笑)

>最後に圭が出てきてほしかった~
 圭ファンなので♪

うわぁ、ごめんなさい。
花火大会の日に戻るというインパクトを、超えられないと思ったので、
あえて、あっさりとさせました。
私のラストって、いつも結構あっさりなのかもしれない。

コメント、そしてお話に最後までおつきあい、
ありがとうございました。

ありがとう

拍手コメントさん、こんばんは

>心のほっこりするお話でした。

ありがとうございます。
いつも、読み終えた後、安心して眠れるようなものをと思っています。
(途中はハラハラもありますけど)
そういっていただけると、とっても嬉しいです。

これからも、お気楽におつきあいください。

コメント、そしてお話に最後までおつきあい、
ありがとうございました。

ありがとう

ハンコックさん、こんばんは

>今回は私も純愛したくなっちゃいましたw
 今夜は主人にベタベタしてみよっと(笑

あはは……ベタベタしたのかなぁ……(笑)
どうだったのかな。

今までのものも、読んでくださっているようで、
とても嬉しいです。
好き勝手に書いていて申し訳ないですが、
こうした言葉をいただくと、本当に励みになります。


>圭の過ごした1年半を違う視点からみてみたくなりました。


ありがとうございます。
おなかいっぱいではなくて、またおかわりが欲しいと思ってもらえたら、
これ以上の喜びはないですね。
書かなくても、考えてはいるのですが、結構根気のいる作業でして。
(前回のGreen Daysがそうでした)
何か、機会があれば……

コメント、そしてお話に最後までおつきあい、
ありがとうございました。

ありがとう

chiyokoさん、こんばんは

>圭君の一途な思いが叶って
 歌穂さんがまっすぐに生きる道を間違えないで行ってくれると
 確信出来るラスト、よかったです。

ありがとうございます。
3人が主人公のつもりで書いていたので、
こういったラストになりました。
それぞれがどうなったのか、なんとなく想像していただけたら、
いいかなぁと。

『半沢直樹』ではないですけど、歌穂らしくまっすぐに、
粕谷と謙に挑んだつもりです。
これからも、またお気楽におつきあいください。

コメント、そしてお話に最後までおつきあい、
ありがとうございました。

ありがとう

irohaさん、こんばんは

>連続で読めるのは、感情移入しやすいです。

ありがとうございます。
連続だと、早すぎるのではないかという気持ちもありましたが、
感情移入しやすいといってもらえると、少しほっとしました。

>これからも、楽しくて、少しホロリとなるような作品お待ちしてます。

はい、これからもマイペースに楽しませていただきます。
irohaさんも、ぜひ、お気楽におつきあいください。


コメント、そしてお話に最後までおつきあい、
ありがとうございました。

ありがとう

Limoさん、こんばんは

>読み始めの頃は、圭くんは当て馬で結局謙のところ
 元鞘するんじゃないかと思ってたんですが、
 いい意味で裏切られました(笑)

裏切れて嬉しいです(笑)
途中の流れなどもあり、そう思った方もいてくれたのかな。
だと、いいなぁ。

>この長さのお話を、飽きさせず、そしてほぼ毎日更新なさる、
 もうその点だけでも尊敬に値します。

いえいえ、最初の書き込みではほんの数ページでして。
で、ペタペタと肉付けしていると、長くなりました。
だいたい、一つ前を掲載している時に、次を書いてしまうので、
そんなに大変でもないんですよ。
ただ、好きで続けているだけで(笑)

こちらこそ、色々と助けていただいたし、
さらにコメントまで、ありがとうございました。

ありがとう

ぽこさん、こんばんは

>寂しいですけれど、また次も楽しみにしています。

ありがとうございます。
私も、1つに絞って書いていたので、終わるとやはり寂しいです。
でもね、また次を書けるのも、楽しいので(笑)

これからも、お気楽におつきあいください。

コメント、そしてお話に最後までおつきあい、
ありがとうございました。

楽しく読みました
次を待ちます

長いお話 お疲れ様でした。そしてありがとうございました。
毎日寝る前のお楽しみでした。
う゛~~ 今日はお休み??と一人悶絶した日もございました(笑)
何だか ラストがとてもよかったです。
圭クン登場して来ませんでしたが、歌穂との繋がりの強さ(?)
みたいなー そんな感じがしました。
一年半の間 お互いの気持ちだけは離れていなかったと。
続編とか 番外編みたいなので 歌穂と圭とその仲間たち(笑)
に会いたいです。とおねだりでした。

又 次の作品も楽しみに待っています。

ありがとう」

北がきさん、こんばんは

>楽しく読みました
 次を待ちます

待ってもらえるのは、とっても嬉しいですね。
ぜひぜひ、今回同様、次も楽しんでください。

コメント、そしてお話に最後までおつきあい、
ありがとうございました。

ありがとう

tokoさん、こんばんは

>何だか ラストがとてもよかったです。
 圭クン登場して来ませんでしたが、歌穂との繋がりの強さ(?)
 みたいなー そんな感じがしました。

ありがとうございます。
みなさんの想像力におまかせ……というラスト、
私は結構好きなので。

(といいつつ、時々、思い切りベタも書きたくなりますが)

毎日、寝る前に読んでくださった方が多くて、
嬉しいです。
書きたい病を助けてくださるみなさんのおかげで、
私もたくさん、楽しませてもらっています。

また、次もお気楽におつきあいください。

コメント、そしてお話に最後までおつきあい、
ありがとうございました。