1 白い子犬 【1-3】

【1-3】

「犬?」

「はい、すみません」


『白チビ』は次の日、僕と一緒に工場に出勤した。

車の部品が入っていた、大き目の頑丈なダンボールに入れると、

出して欲しいのかガリガリと爪でかじりだす。


「チビ、ダメだって、ここでおとなしくしていろ」


それでも、昨日の薄っぺらい箱とは違うので、よじ登ることは出来ず、

しばらくすると、諦めて静かに眠りはじめた。


「おい、お前。仕事の邪魔をするなよ」

「……すみません」

「歩が謝るなって」

「いや、僕が連れてきているので」


いらなくなったカレンダーのページ裏に、子犬がいることを書き出し、

通りすがりの人でも見てもらえるように貼り出して見るが、

なかなか希望者は現れない。


「かわいいわね」

「はい……」


社長の家には、昔から飼っているネコが3匹いる。

中でも、一番の年長者『チロ』は、よそ者が入ってくるのを嫌がり、

時々母屋から工場に現れては、箱の中にいる『白チビ』に対して、

棚の上から威嚇の声を上げている。


「ほら、チロ。そういう声を出さないの」

「ごめんなチロ。もう少しだけ我慢してくれ」




『真っ白い子犬 差し上げます』




『白チビ』を拾ってから、

工場とアパートを行ったりきたりする生活が、1週間になろうとしていた。

最初は戸惑って鳴いていた『白チビ』も、音と匂いに慣れてきたのか、

昼間でも堂々とお腹を出して寝てしまうようになる。


「ねぇ、歩。飼っちゃおうかしら、うちで」

「あ……でも」


奥さんはそういうと、寝ている『白チビ』のお腹を指でさすりだす。

『白チビ』はその指に噛み付こうと、顔を動かした。

実際には甘噛みだけれど、歯が幼くて尖っているだけに、結構痛い。


「チロたちが怒りますよ」

「そうだけど……いつまでもこうしているわけには」


確かにその通りだった。工場の前だけではダメだと思い、

近所のスーパーにも貼り紙をしたが、連絡先とした僕の携帯が鳴ったのは1度だけで、

しかも飼ってはいけない賃貸に住む、大学生の女の子からだけだった。

3時の休憩を終え、今日もまた空振りかと思っていた時、

そこに小学生くらいの男の子が顔を出し、犬を見せてくれと言い出した。

僕がここにいるよと教えると、妹と二人で嬉しそうに覗き込む。


「僕達、犬、好き?」

「うん、好き……」

「そう……」


話を聞いてみると、ここから5分ほど歩いた場所にある一軒家だと教えてくれる。

わらにもすがる思いで、飼ってもらえないかと聞いてみた。


「ママに聞いてみる」

「うん、聞いてみて」


子供たちは嬉しそうに手を振り、工場を出て行った。

もしかしたら、これで上手くいくかもしれない。


「何、飼ってくれるって?」

「まだわかりませんが。ここから5分ほどの一軒家だそうです」

「そう、うまくいくといいけどね」

「はい」


二人が帰っていった道路を見ていると、見慣れた車が1台、こちらに向けて走ってきた。

僕は道路の端によける。

車はエンジンをふかし、僕の前を通り、慣れた動きで工場内に素早く止めると、

運転席が開いた。


「これから高速に乗るから、軽く見てくれ」

「……あぁ」


『森中拓(たく)』

拓の家は、『MORINAKA』という貴金属の店を全国の百貨店に展開している。

社長を勤めている拓の父親は、亡くなった僕の母の兄であり、

書類上は、僕と拓は従兄弟だ。


「歩」

「何?」

「10分しか時間がない、さっさとやってくれ」


昔から拓は愛想のある方ではなかったが、この数年、さらに言い方が強くなった。

何がそんなに気に入らないのかと、聞いてみたい気もしたが、

それは結局、あらたな不快感を呼び込むだけだと思えてくる。


「……ったく、こんな工場に車を持ってこないとならないっていうのが、
屈辱的だ」


僕がここに世話になっているから、母と社長の奥さんが友達だから、

伯父は、仕事関係の車を全て、『半田自動車整備』に任せている。

拓が乗ってきたのも会社の車であるために、高速に乗る前、立ち寄ったのだろう。


「なんだ、この野良犬」

「拓君には関係ないですよ。ほら、『チビ』お前こっちにいな」


奥さんは拓の前から犬をどかすと、お茶でも飲むかと問いかけた。

拓はその誘いを無視したまま、自動販売機でコーヒーを買う。

工場の隅にあるベンチに座り、携帯を取り出すと、どこかにかけたのか、

すぐ耳に当てた。


「もしもし、遥? 俺……うん、拓だけど。わかっているよ、
仕事中だろ。連絡だけだ」


拓は嬉しそうに何やら話しだした。



【1-4】

『半田自動車整備』の朝は、準備体操から……
歩のお話は、ここからがスタートです。
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