3 汚れた手 【3-4】

【3-4】

『MORINAKA』のロゴが入った、白くて固めの、少し立派な封筒。


「あの……これ」

「申し訳ありません。『半田自動車整備』さんにも、送る手はずは整えてありますが、
歩さんがいらしたので、先にお渡ししておこうかと思いまして」

「はぁ……」

「『MORINAKA』の新作発表会があってね。
いつも取引をしている業者にも来てもらって、意見も聞こうと思っている。
まぁ、交流の場を持つと言った方が正しいだろうが」


そういえば、時々、こういった招待状が送られてきている。

立食パーティーのようなものだと、奥さんが晴美さんを連れて、

行っていたことを思い出した。


「工場には別に招待状を送るから、拓も出るし、あいつの友人も呼んでいるそうだ。
歩もよかったら来ればいい。同じような年齢の人たちが集まるから、刺激もあるぞ」

「……あ……いえ」


伯父は、なにげなく誘ってくれているのかもしれないが、

正直、そこに出席をして、拓がいい顔をするとは思えない。

それに、拓の友人と、僕の話が合うとも思えない。

置かれている環境が、あまりにも違う。


「拓は、遥さんに声をかけたのか」

「はい。すでにそうしているとうかがっていますが」




遥……




「あ!」


僕は慌てて時計を見た。どう考えても、40分以上が経過している。

納車だけ済ませたらすぐに帰るようなことを言ったのに、

予定外の出来事が起こり、ここまで引っ張ってしまった。


「どうした」

「あの……そろそろ戻らないと。この後の仕事が」

「あぁ、そうか。そうだな」


彼女がずっと待っているとは思わなかったけれど、

『待って』と言われたことを無視しているのも気になった。

携帯を慌てて開いてみたが、メールも何も入っていない。

駐車場にとりあえず向かって、いなければ帰ればいいのだから。


「では、失礼します」

「歩……」

「はい」

「りつさんに、よろしく」

「はい」


僕は伯父と延岡さんに頭を下げると、

少し早歩きになりながら、エレベーターの方へ向かった。




地下の駐車場。

来たときよりも台数が少なく思える。

彼女が何をしにここへ来たのは知らないが、一応見回しても、その姿はなく、

僕は携帯を取り出し、『ここへ来た』というメールを作り始めた。


「うわ……」


その瞬間、車のライトがまぶしく光り、僕の視界を遮った。

光の方向へ目を動かすと、ライトはすぐに消え、運転席から誰かが現れる。

残像があるから、誰なのかハッキリわからないけれど。


「動くな……もう逃げられない」


その言葉を聞く頃になり、目の前に立つのが椎名さんだとやっと気付けた。

両手をあわせ、指で拳銃の形を作り、僕の方を指している。

これは、軽くふざけたつもりだろうか。

反応できずに困っていると、椎名さんは楽しそうに笑いだし、今度は謝りだした。


「ごめんなさい、待っている間に考えていました。
こんなことが一番楽しいかなと思ったのに。
やってみたら、想像とは違っていて……あのぉ、そんなに呆れた顔をしないでください」

「いや……うん」


怒ったとか、呆れたとかではなくて、あまりにも予想外だった。

それでも、腹を立てるほど、嫌な気はしない。

車の中でじっと待たれているよりも、なんだかほっとした。


「すみません、もっと早く出てくるつもりでした」

「いえいえ、社長室でお話しされていると聞いたので」

「お話というか……」

「だって、おじ様は後藤さんの伯父さんになるのでしょ」

「まぁ……」


森中の家と、僕のつながりはどうでもいいことなので、

とりあえず、工場まで送ってくれる必要などないことを、あらためて話した。

予定があるのなら、そっちを優先してほしいと訴える。


「私にも予定がありますから、だからどうぞ」

「工場に行く予定があるということですか」

「工場というか……まぁ、それに近いことです」


椎名さんは後部座席は、『パール』を乗せるようにシートが敷いてあるのでと説明し、

助手席の扉を開けてくれた。



【3-5】

一度だと思っていた偶然が、ふと気づくと重なっていた。
僕の手に刻まれた時間と、そして……
1日1回、読みましたの拍手、ランクぽちもお願いします(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント