4 土曜の出来事 【4-5】

【4-5】

その文字の下に、色々と書いてあることはあるのだが、

とにかくチカチカしか印象に残らない。


「これは……」

「これはな、ホームページとやらだ」

「とやら?」


社員人数5人の小さな工場は、どうやら『ホームページ』を立ち上げたらしい。

それにしても、社名がやたらに点滅するだけでいいのだろうか。


「あ!」


『整備士が丁寧に仕事をします』という売り文句のそばには、

全く別のところで撮られた、僕の写真が貼り付けてあった。


「社長、これどういうことですか」

「写真だろ? それはあいつに言ってくれ。誰を載せるか決めたのは愛美だからな」

「いや、うーん……」


工場の顔なら社長だろうし、

『整備士』として顔を載せるのなら『整備長』の栗丘さんだろう。

しかも、よりにもよって、休み時間に新聞を読んでいる横顔を使うとは、

センスのいい作りだとは思えない。

どちらかというと、真剣な表情と言うより、リラックスしている顔になっている。


「誰が作ったんですか? 社長ですか?」

「バカいえ。俺がこんなものを作れるわけがないだろう。
PCをスイスイ使えていたら、うちはもっと近代的な工場になってるわ」


奥さんは、婦人会の中で、商店街の酒屋さんがホームページを立ち上げたことを知り、

『半田自動車整備』も何か出来ないかと、素人なりに取り組んだ。

どうも、婦人会の中に多少パソコンをかじれる主婦の人がいたらしく、

その努力は認めるが、内容はあまりにもお粗末だった。

そう思ったのは、僕だけではなく。


「社長。これじゃ、逆に面倒ですよ」

「面倒? どうして」

「だって、電話番号が載せてあるだけでしょ。
そんなもの、電話帳と変わらないじゃないですか」


いつもなら、鋭い突っ込みなどしない赤石さんも、

チカチカしかしないホームページには、どうも納得がいかなかったようで、

不満そうな顔をする。


「しかも、どうして『いい整備士』のところに歩なんですか」


ホームページの内容ではなく、一番言いたいこところはそこらしい。


「だって、少しでもいい男が出ていないと、売りにならないでしょう」


洗濯物を干し終えた奥さんが事務所に戻り、赤石さんの文句を跳ね飛ばす。


「いい男? ホストクラブじゃないんですから、ここは。
腕を売る、男たちの戦場ですよ」

「は? 戦場?」

「……って、おかしいですか」

「俊祐、そういうたとえはおかしいわよ。ねぇ、やきもち?
歩にやきもちを焼いているわけ?」


僕は作業服に着替え、盛り上がる事務所を横目に見ながら、仕事を開始した。

今日も予定では数件の車検が入っている。

だんだん、気温が上がってくるため、集中力を持続させるのが難しくなってきた。

うまく休憩を入れながら、ミスのないようにしなければ。


「あ、そうだ、歩……どこにいる?」

「はい」


奥さんの声がしたので寝板を動かし、車の下から外に出た。


「あぁ、いたいた。来週の日曜日、『MORINAKA』の新作発表会に行ってほしいのよ」

「僕が……ですか」


『新作発表会』

先日、納車した時に延岡さんからもらった招待状。あのことだろう。


「そうそう、それそれ。いつもなら私が出席するところなんだけど、
その日はちょっと用があって行けないのよ。主人は協会の会議があるし、
栗丘は子供の特別参観日なんだって。イベント好きだから俊祐とも思ったんだけど、
大事なデートがあるんだって、ね」


奥さんは、事務所にいる赤石さんをからかうようにそう言った。

赤石さんは、それを否定しないまま、こちらに近づいてくる。


「ということだ、悪いな歩」

「デートってなんですか。だったら二人でデートコースにすればいいでしょ」

「そりゃまずいだろ。イチャイチャしながら、お偉いさんの話なんて聞いていられるか。
つまらないデートコースを選んだって、振られたらどうするんだ。
付き合い始めて3ヶ月、そろそろ色々と難しくなる時期なんだよ」


ようは面倒なことが嫌いな赤石さんだから、適当に断っているのだろう。

一番年下で、断れない僕に回ってくるということは、

断ろうにもその先がないことを意味している。


「行かないわけにはいかないのよ。受付で、出席しましたというサインを書いてさ、
適当に飲んでいれば40分くらい経つから。
すると、お土産をカウンターに準備するの。そこからは自由だから、
さっさともらうものをもらって帰っておいで」

「おみやげ……」

「そう、出してくれる『バウムクーヘン』美味しいよ」


自分には関係のないイベントだと、招待状を捨てたはずなのに、

白い封筒は別のルートを通って、また僕の元に届けられた。



『拓も出るし、あいつの友人も呼んでいる。歩もよかったら来ればいい』



「40分か……」


時計を睨む時間が続くのだろうと考えながら、渡された封筒をバッグに押し込んだ。


「歩……」

「はい」


今度は誰だろう。予定している仕事がなかなか進まない。

そう思いロッカーを閉めて外へ出ると、待っていたのは拓だった。


「よぉ」

「あぁ……」


拓は車を工場に置いたまま、少し歩き出した。

僕は、その後ろを黙ってついて行く。

工場の人たちに聞かれることを避けたのか、裏にある納車予定の車の前で立ち止まった。


「新作発表会、参加するのか」


もしかしたら、こっちは来るなと言うのだろうか。


「今回は、社長たちが行けないみたいなんだ。だから代理で行ってくれって、今」

「そうか……それならいい」


来るなと言われるのかと思っていたら、その逆だった。

拓に対して、聞きたいこともあるわけではないので、口がなかなか動かない。


「遥のことだけれど」


拓はそう言うと、僕の方へ振り返った。



【4-6】

緑がまぶしい季節の、風の匂い。
見慣れない景色から感じた思いが、歩の心に足跡を残していく。
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