13 答えられない理由 【13-4】

【13-4】

「ただいま」

「あぁ、お帰り」


彼女を家に戻そうと意気込んで出かけたのに、何も出来なかった。

僕は携帯を取り出し、保留にしておいたちふみのメールに返信する。

日曜日は、デート予定のある赤石さんに代わり、当番を引き受けた。

それを文章に直し、送信する。

仕事があって、正直ほっとした。もし、休みだったとしても、

今はとても、映画を見に行くような気持ちにはなれない。


「ふぅ……」


ポケットから何気なく財布を取り出し、たまったレシートをゴミ箱に捨てていく。

その中に、椎名さんと出かけた『TEA』さんの、コンサートチケットが入っていた。

それにしても、『スレイド』まで行き、連絡を欲しいと言ったが、

『TEA』さんからの連絡は入ってこないまま、仕事だけを引き受けている。

支配人さんは、必ず番号を渡してくれると約束したが、

やはり伯父から頼むべきだっただろうか。


関わることの、何もかもがずれっぱなしの気がしながら、

さらに日付は2日、3日とつながった。





「おはようございます」

「おはよう」

「今日は、川端さんの車が午後に入ってくるから」

「はい」


赤石さんの代わりに当番となった僕と、栗丘さんの二人で、作業の確認をする。

以前から、冷凍機能のある中古の軽トラックを欲しがっていた川端さんに、

紹介できる車が見つかったと、出入り業者から連絡が入り、

今日、その車がここに到着する。


「藤原さんの紹介だから、間違いはないと思うけれど、中古はクセがあるからな」

「そうですね」

「まぁ、午前中はのんびりしよう」

「はい」


僕はいつも使っている工具を取り出し、丁寧に磨くことにした。

本当は毎日行えばいいのはわかっているけれど、

細かいところまでしている時間は、なかなか取れないからだ。


「コーヒーでいいですか」

「おぉ」


事務所の扉を開け、棚からコーヒーを取り出すと、1台のバイクが工場に入ってきた。

僕はお客様かと思い、すぐに事務所から出て行く。


「いらっしゃ……ん?」

「おはよう、歩」

「ちふみ」


バイクのヘルメットを取り、顔を見せたのは、ちふみだった。

ちふみは、エンジンを切ると、得意げな顔でこちらを見る。


「どう? 驚いた?」

「驚いたって、いつ取ったんだ、免許」

「……実は、田舎に帰ったときに取ったの。ううん、本当はね、
こっちにいるときに半分通っていたのだけれど、ドタバタあって取りきれなくて、
流してしまったの。でも、田舎に帰って取って、向こうではそれなりに乗っていたのよ」


サイズとしては250ccだろう。

女性が乗りこなすには、十分な大きさだ。


「誰かさんが、遊んでくれないから、旅でもしようかと思って」

「なんだ、ちふみちゃんか」

「はい、おはようございます」

「おぉ……格好いいね」

「そうですか? 栗丘さん」


ちふみは、バイクは職場先の友達から譲り受けたものだといい、

少しみてくれないかと、栗丘さんに頼みだした。


「バイクかぁ、俺も専門外だからどこまでみられるか」

「いえいえ、栗丘さんの目があれば、それで十分です。歩の師匠ですから」

「あはは師匠ねぇ、どうだかな」


栗丘さんは、工具を持ち出すと、エンジンをかけバイクの様子を見始めた。

中古なのだから、汚れも痛みもあるけれど、全体の部品一つずつは、

なかなかしっかりと手入れされているように見える。


「そんなに悪くないものだと思うよ」

「本当ですか? 嬉しい」


ちふみは、そう言われてほっとしたと、胸に手をあてながら笑顔を見せた。





「どうぞ」

「サンキュ」


栗丘さんは、僕達に気をつかっているつもりなのか、

コーヒーを持ち、事務所の外に出てしまった。僕はカップをちふみの前に置く。


「ありがとう」

「うん……」

「今日、奥さんたちはいないの?」

「今日は晴美さんのご主人の会社で、『新車発表会』なんだ。
人を呼ばないとならないノルマがあるから、社長たちも数を稼ぐために行ってくるって」

「へぇ」


僕は最後にカップを持ち、空いている席に座った。

ちふみは、その間もずっと、コーヒーを冷まそうと、息を吹きかけている。


「あ……ごめん、ちふみ熱いの苦手だったな」

「……うん」


そうだった。コーヒーを入れると、砂糖やミルクを入れた後、

ちふみはいつも、冷蔵庫から氷を一つ入れていた。


「氷、出そうか」

「ううん、いい。ゆっくり飲ませてもらうから」

「あぁ」


ふぅ……というちふみの声が、僕の耳に届く。

しばらく無言のまま、互いに中身を減らしていた。


「歩……」

「何?」

「今日はあの白い犬、いないのね」

「あぁ、『パール』のこと?」

「うん……あ、そうか、日曜だものね」


確かに日曜日ではあるが、いない理由はそこではない。


「椎名さん、怪我をしてしまって、『パール』だけ実家に戻っているんだ」

「怪我? あら、今度は何をしたの?」


『今度』

ちふみのその言い方が、少しだけ引っかかった。



【13-5】

僕の『誇り』は、どこにあるのか。
歩は自らに問いかけながら、後ろを振り返り……
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