13 答えられない理由 【13-6】

【13-6】

待たせてしまったことを素直に謝ると、時間をオーバーしていないのだから、

謝る必要はないのだと言ってもらう。


「何を飲む?」


『TEA』さんはすでにワインを飲んでいる途中のようだった。

僕もお付き合いのつもりで、1杯だけいただくことにする。


「また、お会いできて嬉しいです」

「すみません、お忙しいのに」


僕は注がれたワインに少しだけ口をつけると、どうして連絡を取ったのか、

その理由を話した。伯父とのつながりで、仕事を回してもらえるのは嬉しいが、

僕は何もお返しが出来ないので、

これ以上気をつかってもらう必要はないことを、順序よく語ったつもりだった。

『TEA』さんは頷きながら、聞いてくれる。


「迷惑ってことかしら」

「いえ、迷惑ではありません。ただ、『半田自動車整備』は技術者が4名しかいません。
大手の契約をいくつもお受けするのは、
正直、出来る範囲を超えてしまうのではないかと」

「出来る範囲?」

「はい。1台ずつ丁寧にみていくというのが、社長の信念です。
ですから……」

「えぇ……だからあなたの会社を紹介したのよ」


『TEA』さんはそういうとほどよく酔い始めたのか、ハミングをし始め、

グラスを片手に持ったまま、舞台の上にあるピアノの前に座った。

指の運動なのか、高音部分から低音部分へ鍵盤を移動しながら、

それにあわせて声を出していく。

そんな時間が5分ほどあり、また席に戻ってきた。


「ただの偶然、ただの義理、あなたはそう思っているのでしょ。
でも違うの。私があなたの会社に仕事を回したのは、義理ではないから」


『TEA』さんは、義理だけで昔から付き合いのある人たちを紹介しないと、

またグラスに口をつけた。


「あの車、少し前にも妙な音がしたことがあったのよ。
それでね、別の工場に持ち込んだの。何かおかしなところはないですかって」

「はい」

「そうしたら、エンジンをかけて、ボンネット開けて、首を傾げて、
終いには、定期検診はいつですかって。それほど大きな問題ではなさそうだから、
その時にしっかりみてもらってください……そう言われた」


僕は、『半田自動車整備』しか知らないので、それが正しいのか間違っているのかと、

判断することは難しい。


「だけどね、おかしいでしょ。確かにたいしたことはないのかもしれない。
でも、もしも……って思うことが、あなたたち整備士の仕事じゃないの?
納得できない部分が少しでもあったら、それを追及するのが仕事なはず。
違う?」


『TEA』さんは、少し頬が赤くなっていて酔っているのかもしれないが、

言っていることには間違いがなかった。

僕はその通りだと頷き返す。


「『プロ』ってそういうものだと思うのよ。私もそうなの。
歌を歌って、聴かせることが仕事。だから、納得が出来ないなと思ったら、
とことん歌ってみる。まぁ、次に……なんて思うのは、『プロ』ではないわ」


『プロ意識』

確かに、この人はそういう思いが強い人だろう。

日本からアメリカに旅立ち、歌手として道を切り開いてきたのだから。


「あなたは違った。私が持ち込んだ車を、真剣にみて、小さな箇所に気付いてくれた。
たった1本のネジのゆるみ、それが原因だってことに気付いたのよ。
だから私はあなたを『プロ』だとそう思った」


『TEA』さんは、ワインの瓶を持ち、僕に勧めてきた。

僕は、今日は飲みに来たわけではないのでと、丁寧にお断りする。

それにしても、この間奥さんにその逆を指摘されたばかりなのに、

こうして『プロ』だと言われてしまうと、自分の足りないところが見えてしまう気がして、

上を向けなくなった。



「……ご両親、事故で亡くなられたのでしょ」



僕はその言葉に、顔を上げた。

どうして『TEA』さんが、事故を知っているのだろう。


「あの……」

「……哲治さんに聞いたの」

「あ……」


そうだった。『TEA』さんは伯父と古い知り合いだった。

当たり前のことを思い出し、乗り出しそうになった体を元に戻す。


「あなたは誇りを持って、仕事をしている?」


『はい』と言おうとして、言葉が止まった。

僕は、本当にこの仕事に、誇りを持ち続けてきただろうか。

『こうなった』と思いながら、日々を流してきたのではないだろうか。


「私は歌で勝負しようと思ったとき、
それまで抱えてきたものを全て捨てる覚悟で、アメリカに旅立ったの。
だから絶対に負けたくなかったし、片手間でこなそうとする人たちのことを、
非難してきた」


『TEA』さんは、グラスのワインを飲み干し、またピアノの前に座った。

そして両手を鍵盤に置き、伴奏を弾き始める。



『IF WE HOLD ON TOGETHER』



この間、この場所で開かれたコンサートでも、この曲を『TEA』さんは歌っていた。

『困難を乗り越える』という思いを込めた曲。




母が、大好きだった曲……




『TEA』さんは、途中までを弾き、また席に戻ってきた。

瓶に残ったワインを、グラスに注ぐ。


「あの……」

「何?」

「僕の亡くなった母は、伯父……あの森中哲治の妹です。
母は、よくカーステレオで、この曲を聴いていました。
その当時、僕はまだ幼くて、言葉の意味も、曲の意味もわかりませんでした」


そう、何もわからなかった。

父と母と、突然に別れが来ることも。

人生というのは、思い通りにならないことが多いということも。


「えぇ……」

「母が、『TEA』さんの歌を聴いたということは……ないですか?」


母は、お酒が強い方ではなかったが、夜、父と一緒に晩酌をしている姿は、

何度も見たことがあった。

二人で、この『スレイド』に入って、一緒に歌を聴いたことがあったかもしれない。


「本当に、この曲をよく、聴いていたんです。前に『TEA』さん言われましたよね、
この曲はターニングポイントになったって、で……」

「……ごめんなさい」


『TEA』さんは、申し訳なさそうに、そう言った。



【14-1】

僕の『誇り』は、どこにあるのか。
歩は自らに問いかけながら、後ろを振り返り……
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