14 覚悟の産物 【14-1】

14 覚悟の産物


【14-1】

『亡くなった母が、『TEA』さんの曲を、聴いたのではないか』


あまりにも、『TEA』さんの歌に思い出すことが多くて、

僕は、つい興奮したまま、感情を表に出してしまった。

驚く『TEA』さんに向かって、すみませんと頭を下げる。


「いえ……」


そうだった。何を興奮しているのだろう。

ご近所の歌自慢さんが、目の前で歌っているわけではないのだ。

CDも出し、アメリカで名前を知られている歌手が、

ごく普通の主婦が、演奏を聴いたかどうかなど、何もわからないだろう。


「すみません、僕の方こそ、なにを聞いているのか……」

「いいのよ。この曲を聴くと、思い出すことがあるのでしょ」

「……はい」


そう、父のこと、母のこと、色々なことがこの曲から蘇る。

まるで、亡くなった両親が語りかけてくれているような、そんな気がしてしまう。


「歩さん……」

「はい」

「あなたの心を、この曲が揺り動かすのなら、
あなたのためだけに、もう一度歌わせてもらいます」

「あ……いえ、あの」

「私は歌手ですから、歌で思いを伝えられたら、それだけ嬉しいことはないわ」


僕は思わず頷いていた。

ずうずうしいけれど最後まで聴いていたい。それが僕の本音だった。


「私の歌から、あなたがご両親のことを思い出して、
何かメッセージを受け取ることが出来るのなら、それは……あなたに今、
必要なことが詰まっているはずなの」



『僕に必要なこと』



「『困難を乗り越えなさい』、そう、心に思う人と一緒に……ってね」



『心に思う人』



『TEA』さんがピアノの前に座り、

『IF WE HOLD ON TOGETHER』があらためて始まった。



仕事の依頼など、申し訳ないからと断るつもりでこの店に来た。

でも、『TEA』さんは、決して義理で仕事を回してくれたわけではないという。

スタートは確かに『偶然』だったかもしれないが、

そこから別の思いが、重なって今になっている。



『困難を乗り越えなさい』



この曲を聴くと、鼓動が速まるのは、父と母からのメッセージなのだろうか。

だとしたら……





僕が立ち向かわないとならない困難は、何だろう。

そして……





一緒に手をつなぐ人は……





僕のためだけに弾いてくれた曲は、静かに終わった。





最寄り駅で下り、家まで歩いて戻った。

結局、気をつかわないで欲しいという話は、どこかに飛んでしまい、

僕は『TEA』さんの歌を、独り占めして帰ることになった。



『私の歌から、あなたがご両親のことを思い出して、
何かメッセージを受け取ることが出来るのなら、それは……あなたに今、
必要なことが詰まっているはずなの』



祖母が夕食の片づけをする音を聞きながら、僕はベッドで横になった。

机の上に置いてある『1級』の問題集を手にとって見る。

受験はするつもりだったが、熱心に勉強したのかと言われたら、『はい』とは言えない。

どうしても受かるのだとか、何かを成し遂げるのだという気合いは、

確かになかった。



『あなたは誇りを持って、仕事をしている?』



『誇り』

僕は、この仕事に誇りを持っているだろうか。

両親を奪った痛ましい事故を、一つでも減らそうと、確かにそう思い仕事についた。

でも、そのためにより一層の努力をしてきただろうか。

その日は自問自答を繰り返しながら、いつの間にか眠りについていた。



【14-2】

小さな工場と、大きな企業。
笑顔の裏にある、哀しみの思い。歩は自らの心に、今何が必要なのかと問いかけて……
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