14 覚悟の産物 【14-3】

【14-3】

『力が違う』


拓は椎名さんを説得した。

彼女は家に戻り、一人暮らしもやめることになった。

そう、松葉杖をついた姿を見ることもなくなったし、

伯父や拓のことを気にしながら、過ごす日々ももう来なくなる。



でも……


「お忙しいところ、申し訳ありません。FAXの件で話をしにきました」


拓はそういうと、空いている席に座った。

社長と奥さんは、急にどういうことですかと拓に尋ねていく。


「そうですね、急なFAXに驚かれただろうとは思いますが、
特に気になさらずに仕事を続けてください」

「いや、気になさらずにと言われても、
うちとしてはどういうことなのか、説明していただかないと」


拓はそれもその通りだと頷きながら、

いくつかの企業名が書かれた紙を、ポケットから取り出した。

そこに書かれた数社から、うちと同じような仕事の契約依頼があったという。


「本来、自由競争してもらって、選ぶのが当たり前なのでしょうが、
まぁ、うちと半田さんとは特別なつながりがあります。
ですので、形だけはこのように検討させてもらって、
まぁ、今まで通りだと思っていただければ」

「今まで通り?」

「はい。最初から門前払いをするのは、うちのイメージダウンにもなりかねません。
検討だけさせてもらって、結局半田さんを選んだことにすれば、問題はないですから。
ですから、このまま」

「では、うちは」

「はい。今まで通りの仕事をしていただけたら結構です。
あれは形だけだと思って下さい」


『形だけ』という言葉に、社長は少しほっとした様子を見せた。

奥さんは、拓にお茶を入れ、湯飲みを前に置く。


「あの……」

「はい」


赤石さんは僕の後ろから顔を出し、目を合わせずに頭を下げた。


「今まで通りの仕事が出来たら、心配はないということですか」


栗丘さんは、余計なことを聞くなと赤石さんのお尻をパシンと叩いた。

赤石さんは、心配になるから聞いたのだと、小声で言い返している。


「はい。今まで通りでしたら、心配はないと思ってください」


拓はそういうと、お茶には手をつけず席を立った。

僕の顔を横目で見た後、拓は口元をゆるめ、ふっと息を吐く。

そのまま事務所から出ると、車の方へ戻っていった。

僕は、すぐに拓を追う。


「拓……」

「なんだ」

「椎名さん、本当に納得して家に戻ったのか」

「どういう意味だ」

「いや……この間、僕が家に戻るように説得したら、自分のことは自分で考えると、
そう言われたから」



『私の思うように、させてください』



彼女の性格からしたら、そう簡単に折れるとは思えなかった。

戻る気持ちになるのなら、お兄さんだって、僕だってそれなりに説得したはずなのに。


「『力』が違うって、どういう意味だ」

「どういう意味?」

「あぁ、どんな『力』だと言いたいんだ」


嫌な予感がした。

『力』という言葉の意味を考えると、もやもやしたものばかりが心を埋めていく。


「歩……」

「何?」

「お前は何も知らなくてそう聞いているのか、それとも、何もかもわかっていて、
とぼけているのか、どっちなんだ」

「お前の話していることの意味がわからない」


拓の目が、まっすぐに僕を見た。

いつものような挑戦的なものではなく、少し寂しげな視線。


「『力』とは、今、ここにあるもの全てのことだ」


ここにあるもの全て……

拓は、何を言ったのだろう。


「遥に、ちょっとした数学を教えただけだ」

「数学?」

「あぁ……」


拓はリモコンで車の鍵を開け、運転席に入った。

すぐにエンジンをかけ、走り出そうとする。


「待て! まだ話が終わっていない」


僕は運転席の窓ガラスを叩く。

彼女が急に気持ちを変えた理由。それは……


「拓! お前、彼女に……」

「どけ!」

「待てって言っているだろう」

「歩!」


僕は栗丘さんに車からはがされ、拓はそのまま走り出した。



【14-4】

小さな工場と、大きな企業。
笑顔の裏にある、哀しみの思い。歩は自らの心に、今何が必要なのかと問いかけて……
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