【again】 22 想いを告げるとき

【again】 22 想いを告げるとき

     【again】 22



『聞くまで君を……帰さない』



そう言われた以上、ここで何を言っても、逃れられないと思った絵里は、直斗の視線を感じながら、

台所にあった小さな椅子に腰かけた。その姿を見た直斗は安心したのか、

上がり口の部分に背を向けて座る。


「俺の母親は、篠沢高次の愛人だった……」


直斗は自らの想いを、絵里に伝えようとゆっくりと話し始めた。ここにいるのが篠沢直斗ではなく、

石岡直斗ならば、自分の迷いはなかっただろうと、絵里は語り始めた直斗の背中を見つめる。


「小さい頃から、父親はいないと教えられていたから、あの人が来ても、父親じゃないかなんて、
考えたこともなくて、ただ、そんな日は母がいつも嬉しそうだったのと、帰った次の日には、
必ず高級そうなお菓子が、テーブルに置かれていたことだけはよく覚えている」


父親のことをあの人と表現する直斗から、絵里は複雑な子供時代を感じ取る。


「あの人の視線がこっちへ向いてくることが嬉しくて、自分を見て欲しくて、おどけて見せたり、
はしゃいでみせたりするような子供だった」


絵里は、直斗が来る度、お手伝いをしたりして、何かを見せようとする、大地を思い出しながら、

聞き続ける。


「年頃になって生意気なことを言う割には、母親しかいない自分が、苦労なく大学へ通えることに
疑問を持ったこともなかった。必死に働いている、母親の力だけを信じていたのに、大学3年の時、
急に……」


目を閉じた直斗の横顔は、当時のことを思い出しているように見え、絵里の気持ちは、

直斗の声を聞き入れる度に、少しずつ締め付けられるような感覚を覚えていく。


「ずっと、助けてもらっていたの。だから、あの人を恨まないでって。
病気で自分が長くないことを知った母が、初めてそんなことを言った。あの人が、
俺の力を必要としているんだって」


同じ母親として、息子の将来を心配する気持ちは、痛いほど理解できた。

もし、自分に何かあったら……。そんなことを、絵里も常に考えていたからだ。


「なんでそんなみっともないことをするんだ。俺は大学なんて行かなくたってよかったんだって、
言いたい放題言って、それからは母と、ろくに口も聞かなかった。自分が社会に出てみれば、
女性が一人で子供を育てていくことの辛さも、それなりに理解できるのに、あの頃は、
突っ張っているだけで、相手の気持ちになろうなんて余裕すらなかったんだ」

「……」

「中学生になった頃から、あまりうちに来なくなったことも、親切なおじさんだと思っていたから、
それなりに受け止めていたのに、あれが父親だったのかと思うと、一人で病室に寝ている
母がかわいそうで、どうしてそばにいてくれないのかと、恨んでいた。だから、母を亡くして、
あの人から篠沢家に入れと言われた時も、そんなことをするつもりはない……と初めは突っぱねた」


出会ってからまだ1年経ってはいなかった。自分にも過去があったように、直斗にも辛い過去が

あったのだと、絵里はあらためて気付かされる。


「でも、心のどこかで思い続けていたものが叶うのかもしれないって、そう思ったりして。
どんな家なのか、母親は違うけど兄弟がいるのならどんな男なのかって、
考えながらあの家へ行った。あたたかく迎えられるとは思っていなかったけど……、
亘も、あの人の奥さんも、迷惑だという顔をして、こっちを見て……」



『ちょうど進路を決める頃、兄が家に来て、母はパニックになりました……』



亘には亘の、直斗には直斗の、言い分があるのだと絵里は思い、初めから兄弟として育っていたら、

もっと違った感情に包まれていたはずなのに、互いに避けあうような二人の関係が、

聞いているだけでも苦しかった。


「あれこれ言われたよ。とんでもないやつが来たって目で見られたし……。
まぁ……向こうからすれば当然だよな」


直斗は、寂しそうに微笑んで見せたが、心に積み重なってきたものは大きく、そして深い傷を作る。


「同じ父親を持つのに、周りの目も全く違っていて、亘は正規の跡取りで、俺は盗みに来た男だと、
目の前でわれたこともあった。初めはのぞくだけだと思っていたあの家に、
いつの間にか入るようになったのも、そう言った連中に、母と自分の存在を、
ちゃんと認めさせたかったからなんだ。息子として産まれたから盗むように継ぐのではなく、
実力で取ったのだと……」


直斗の言葉に、先日素直に語ってくれた亘の言葉が重なり続け、絵里は複雑な想いでうつむく。


「この10年間、ずっとそのことだけを考えて生きてきた。どう行動すれば、何がどう動くのか、
そんな打算を常に頭に入れながら。人と会うことも、人と付き合うことも、
それが次にどう展開するのか……。人を好きになることさえも、気持ちだけで動いたことなんて
なかった気がする」


先日、直斗の隣に立っていた、白い肌の女性の顔を絵里は思い出し、あの人はどんな気持ちで、

直斗を見ているのだろうと切なくなった。


「でも、そんな時間しかないと、息が詰まる時もあったから、気分を変えたい時はここへ来て、
何も考えず、ただ時間を過ごしてた。俺にとって祖母は、唯一、他に意味を必要としない
人だったし……」


自分が大地を愛するように、ハナもこの直斗を愛していた。絵里ちゃんが相手なら……と

以前言われたことがふとよみがえる。


「そんな時、大地に会った。あいつが一人で壁にボールをぶつけている姿が、自分の小さい頃に
重なって。俺も、あんなふうに遊んでいたことがあったから。階段から下りてきて目があった時、
あいつが訴えてたんだ、一緒に遊んでくれないか……って。それでも、自分からは言えなくて、
またボールを壁へ投げて……チラッとこっちを見て……」

「……」

「昔、あの人が家に来た時、畳の部屋にあぐらをかいて座っていたことがあって、
その膝の上に乗せてもらいたいと思いながら、結局言うことが出来なかった。だから俺から
声をかけたんだ。一緒にやろうって……。あいつの嬉しそうな顔を見るのが楽しくて、
望むことをやってやりたいと思うようになった。迷惑だって言われたけど、授業参観にも行ったし、
おせっかいだとは思ったけど、君が入院した時もずっとそばにいた」


大地に自分を重ね、日々を過ごしていたという直斗の言葉を絵里は聞きながら、

父親代わりのようなことは辞めて欲しいと言ったくせに、いつの間にか絵里自身が、

それを期待していたのではないかと、思い始める。


「人の援助を拒絶するような君を見ながら、初めは不思議で仕方がなかったけど、
大地と語り合っている姿を、母と重ねているうちに、少しずつ君を助けてあげることは
出来ないのだろうかと、思うようになっていた」


大地がいなくなってしまった日、泣きながら探していた自分を、助けてくれたのも直斗だった。

助けて欲しいとすがるような目で見つめたことを、道路に飛び出しそうになった時、

抱き寄せられたことを思い返す。


「祖母の命が短いことを知った時も、気がつくと君がそばにいた。ひとりになることなんて
当たり前で、怖くないと思っていたけど、本当は……。自分の居場所がなくなってしまうような、
そんな気分だった。『思い出作り』をしようと言われた時も、一緒に受け入れてくれた人が
出来た気がして、嬉しかった」


絵里の目から、止められない涙があふれ出していた。話を聞けば、直斗の現状を知ってしまい、

離れていってしまう現実を感じることが嫌だった。

そして……。


「あんなふうに会ってしまうとは、思ってもみなかった。君をだますつもりなどなかったのに、
そう思わせたことが悔しかった」


絵里が話を聞きたくなかったもう一つの理由、それは、直斗の想いを聞いてしまったら、

自分はそこから逃げ出すことが出来なくなるだろう……。そう思っていたからだった。


「あれから、仕事をしていても息苦しいし、誰と会っていても、君が何をしているのかばかりが
気になった。誰を思い、誰と過ごしているのか。ずっと……」


この先を聞いてはいけないのだと、絵里は泣き顔のまま立ち上がると、直斗の横を通りカギを開け、

外へ出ようとした。直斗はそんな絵里の動きを止めることなく、座ったままじっと見つめる。


私は母親なのだ。そばにいなければならないのは、隣で寝ている大地であって、この人ではない。

そう自分に言い聞かせながら、扉を開けようとした瞬間、玄関の隅に置かれていたハナの

小さな靴が目に入ってきた。



『絵里ちゃん、全部母親でなくてもいいんだよ……』



病院から退院して来た日、ハナは絵里にそう言った。母親ではない自分の心が、

持ち主を失った小さな靴を見ているうちに、抑えようとする気持ちをはねのけ、

そこから一気にあふれ出す。


「……ずるい」

「……」

「あなたはずるい。こんなふうに自分を語って、本当はこうだと明らかにして。
自分はウソをついたんじゃないってそう宣言すれば、それで気持ちが晴れるかもしれない。
でも……」


絵里はドアノブをつかんだまま、下を向き話し続け、直斗はそんな絵里の言葉を、

座ったまま受け止める。


「もっと早く、言えたじゃないですか。自分がどんな人で、どんなふうに生きてきたのか。
もっと早く、話せる機会があったはずなのに……」


出会った頃、食事に行った時、ハナを見舞った帰り道、そして……。


「あなたがどんな人なのかわかっていれば、こんな想いをすることもなかったし、
何かを期待したりもしなかった」


絵里の言葉が震えだし、ドアノブをつかんでいた左手が、力を失い外れていく。


「あなたは石岡直斗なんだって、ずっとそう信じてた……」


座っていた直斗は立ち上がると、うつむいたままの絵里の方へ一歩近づいた。


「心のどこかで、一緒に笑える人なんじゃないかって……そう信じてたのに……」


その言葉を聞いた瞬間、直斗は両手でしっかりと絵里を抱きしめ、

複雑な想いを受け止めようとした。その力強さを腕に感じながら、絵里は目を閉じている。


「私は……どうしたらいいの……」

「……ごめん……」


直斗は絵里の嘆きにかぶせるように、たった一言そう告げた。辛い気持ちを吐露しながらも、

腕の中から逃げていかない絵里の耳元で、直斗はさらに語りかける。


「君の言うとおり、早く言えばよかった。でも、最初は気づけなかった。
失うかもしれないと思った時初めて、自分の気持ちに気がついた」


それは絵里も同じだった。直斗の現状を知って初めて、気持ちが動かされていることに気付き、

その越えられない壁の高さに、苦しむ自分がいた。


「互いに30年以上生きてきたんだ。すぐに解決できないことが、あることもわかっている。
でも、こうして気付いた気持ちを封印することは出来ない……だから、目をそらさないでほしい」

「……」

「そばにいてくれないか……」


絵里は何度も首を振り、直斗の意見を拒絶しようとしたが、それとはうらはらな心が、

離れまいと手を伸ばしていく。逃げてはいけないのかもしれない……。それでも、

顔をあげることが怖かった。


「絵里……」


その声に、絵里がゆっくり顔を上げると、自然に直斗の唇が重なっていた。

名前を呼ばれただけなのに、唇が触れているだけなのに、なにもかもが直斗へ向かい、

つかんでいた絵里の手はさらに力を増し、無言の答えを返している。


もっともっと言いたいことがあったはずなのに、ただ、押し寄せてくるのは、愛しさだけで、

抱きしめられたまま一度唇を離した絵里は、その余韻を感じながら、直斗の肩に頭を乗せた。


「君を……愛してる……」


直斗の言葉を聞きながら、直斗の香りに包まれながら、絵里は、気持ちの中にあった迷いが

消えていくのを感じた。


このまま、全てうまくいくとは思えなかった。どこかで終わりがくるようなそんな気がする。

だからこそ、直斗の言葉を聞きたくなかったし、何もかも受け入れてしまうであろう

自分の心が怖かった。


しかし……。


絵里がもう一度、ゆっくりと顔をあげ直斗を見つめると、その背中の後ろには、

明かりのない部屋が広がっていた。自分が手を離したら、この人は一人で、

あの場所へ戻るのだろうかと思った絵里の手が、自然に直斗の首に回っていく。


もし、いつか、別れてしまうその日が来たとしても……。

あなたを愛したことだけは、忘れてしまわないように……。


絵里はそう誓いながら、直斗を優しく引き寄せると、もう一度重ねた唇から、

あふれる想いを伝えていた。





ハナの通夜は、団地内の集会場でひっそりと行われることになり、直斗の周りには、

おそらく会社からかけつけたのであろう側近達が動き、絵里は大地と訪問客の一人として、

外れた輪の中に立っている。


「ねぇ、石岡のおばちゃんのお孫さんって、結構大きな会社の偉い人みたいよ」

「あら、どうして?」

「だって、専務なんて呼ばれていたし……ほら……」


直斗と亘の父、高次からの名前で、花が届いているのを見た近所の主婦は、噂話に花を咲かせる。


絵里は黙ったまま、会場の中にいる直斗を見つめていたが、篠沢家の面々が並ぶことはなく、

当たり前のように一人で動いている姿に、かけ寄りたくなる気持ちを抑え、

隣に立つ大地の手を強く握りしめた。


「ねぇ、ママ。直斗こっちに来ないのかな」


いつもだったら、気軽にそばにいける大地も、会社の社員達が囲む状況ではどうしようもなく、

絵里は首を振る。


「大地、今日は直斗さん忙しいんだよ。邪魔になるから、ここにいようね」

「だって、直斗一人で座ってるよ……」


訪れる人に頭を下げていた直斗が、絵里と大地の方を向き、軽く手招きをした。


「あ、ママ。直斗が呼んでる。僕、行ってくるよ!」

「あ……大地」


大地が絵里の手を振り切り走っていくと、直斗はいつものように受け止め、嬉しそうに抱き上げた。

その時、直斗の斜め後ろにいた霧丘の視線を感じた絵里が慌てて頭を下げると、

霧丘も軽く返礼する。


何も知らない大地は、結局、最後まで直斗の隣に座っていた。





「おはようございます」


真希はいつものようにロッカーのカギを開け、作業服に着替えはじめ、変化のない隣のロッカーに、

絵里はまだなのだろうと思いながら、上着を脱ぎハンガーにかける。


「そうなのよ、驚いちゃった。なんだか聞いたことのある名前だなと思ったら、
このスーパーの本社だったのよ」


井戸端メンバー達は、ハナの孫として葬式を仕切っていた直斗のことを、

あれこれ語っているようだった。


「それがね、お坊ちゃまのお兄さんなんだって。さっき店長から聞いてビックリしちゃった」

「エ……そうだったの?」


真希は作業帽をかぶり、前髪が伸びたなと思いながら、鏡でチェックする。


「池村さんの息子さんが、ずっとそばに座っていて、すごく親しそうだったの。
そう言われてみたら、石岡のおばあちゃんとも親しかったわよね、彼女」

「あ……そうそう。私、息子さんとその人がキャッチボールをしていたのを見たことあったわ、
そういえば」


直斗の話が、絵里の方へ向かっていき、あれこれ勝手な予想が飛び始める。


「お坊ちゃまのお兄さんだけあって、いい男だったけど、
池村さんとどういう付き合いなのかしらね」

「ご主人、亡くしたなんて言っていたけど、本当はあの人のってことはないの?」

「エ! 息子さん? やだ、それはないでしょ、ドラマじゃあるまいし……」

「あはは……そうよね。冗談よ、冗談」


真希は勝手な意見を交わしている連中に腹を立て、わざとロッカーの扉を思い切り閉めていく。


「ちょっと! さっきから、言いたいこと言っているけど、池村さんのことをちゃんと
知っているわけでもないのに、適当な噂、立てないでもらえませんか?」


それまであれこれ言っていたメンバーは、迫力に慌てて口を閉じ、強気な真希の態度に、

少しだけ怪訝そうな顔をした。


「おはようございます」


何も知らない絵里が、そこへ顔を見せると、噂話をしていたパート達は、軽く挨拶だけすませ、

更衣室からいなくなり、残されている微妙な空気を感じながら、絵里はロッカーを開ける。


「おはよう、池村さん!」


真希はいつも以上に元気よく挨拶をしたが、すぐに表情がゆがみ、下を向く。


「ありがとう……」


だいたい何が起こったのか、想像が出来た絵里は、そう言いながら、真希の肩をポンと軽く叩いた。





その日の午後、亘は前島と東町店へ向かっていた。絵里と大地と出かけた日に、

実は直斗の祖母が亡くなったのだと、後から聞くことになったのだが、

その日から直斗は忙しく動き回り、いつ家に戻っているのかもわからないくらいだった。


店に到着するとすぐに店長が現れ、売り場移動などの報告をしてきたが、

亘の目は働いているはずの絵里を探していた。


野菜売り場に、絵里の姿が見えなかったため、亘は事務所の方へ足を運ぶ。


「あ……篠沢部長」


挨拶もそこそこに視線を向けたが、そこにも絵里の姿を見ることは出来ずに、

そこで浮かんだ小さな疑問が、大きな疑問を生み出し、亘の気持ちを乱し始める。


直斗が戻らないのは、絵里のところにいるからなのではないか。

絵里がここにいないのは、直斗と会っているからではないか。

そんなことをつい考えてしまう。


「配達サービスの準備は、整ってますか?」

「あ、はい。今週は小学校の授業参観と懇談会だかなんだかで、
パートさん達も早上がりなんですよ。来週あたりから動き出せればと思っているのですが」

「授業参観?」

「はい、今日も池村さんと矢吹さんが早退しまして」


絵里が学校行事でいないことを知った亘は、少しだけホッとしたように、笑顔を見せる。


「みなさんに無理のないよう、お願いします」

「はい」


亘は絵里のタイムカードが少し曲がっていることに気付き、軽く左手で直していった。





「言っている意味が理解できないわ」


直斗は楓を誘い車の中にいたが、楓はカーオーディオのボリュームを下げながら、そう言ったきり、

黙ってしまう。直斗はそんな楓の表情を確認すると、覚悟を決めたように話し続けた。


「楓には申し訳ないと思ってる。突然こんなことを言って、いい加減なヤツだと思うだろうけれど、
これ以上黙っているわけにはいかない」


直斗はそう告げると、シートに背中を押しつけるように寄りかかった。


「この間、亘さんのところで、会った人のことを言ってるの? 誰?」


直斗はそこで言葉を止め、少し気持ちを整えていった。ここで楓の質問通り、

ストレートに絵里のことを語れば、どこへ話が飛んでいくのかわからない。

いずれ高次たちとも向きあわなければならないが、そのための体勢を整える時間も欲しかった。


「今は詳しく言えない」


楓はその言葉を聞くと、呆れたような表情を直斗に見せ、ベルトを外し車から降りていこうとする。


「直斗が隠すような人じゃ……どうしようもないわね」

「楓……」

「あなたの研究心が動いただけだって、そう思っておくから」


自分を責め、罵るだろうと思っていた楓が、あまりにも冷静に対処していくのを見ながら、

直斗は驚きを隠せないでいた。


「また、連絡するわ、直斗」


いつもの別れと変わらない反応のまま、楓は扉を閉めると、振り返ることなくまっすぐに

歩いていってしまい、その後ろ姿を見つめながら、直斗は深くため息をついた。


顔を見せずに遠ざかる楓が、実は泣いているのではないかと考える余裕など、

今の直斗にはなかった。





23 会いたいと願うこと へ……





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コメント

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両想いといっていいものか

直斗と絵里の関係が複雑ですねぇ・・・
大地のママであるけれど、絵里だって人間だもん。寂しいよね・・・
直斗のやさしさに今まで気づかなかったはず無いんだもん。
受け入れても二人でこの先が、なんか難しいなぁ・・・
意外に、楓さんがさらっとしていたのでびっくりでした。
逆に、楓さんだからかな。嫉妬してそんな姿見せるのをプライドがあるからしたくても出来ないかな。
難しいなぁ~恋愛って・・・

直斗の孤独を抱きしめて…

againのお話の中でも、この22話が一番好きです。

今まで、自分の生い立ちも…人を想う感情も…誰にも話したことはなかった直斗。
自分の本当の姿を許せる絵里を前にして…
しっかりと想いを告げることができて、良かった…。
でも、ハナさんの死がどれだけ彼にとって重いものかが感じられますね。

絵里も、自分の感情に気づいていればこそ、最初は聞きたくなかったのでしょうが…
自分の気持ちだけでなく
直斗の心の奥に広がるその孤独を見てしまえば…
彼を放っておくことはできませんよね。

>絵里がもう一度、ゆっくりと顔をあげ直斗を見つめると、その背中の後ろには、
>明かりのない部屋が広がっていた。自分が手を離したら、この人は一人で、
>あの場所へ戻るのだろうかと思った絵里の手が、自然に直斗の首に回っていく。

この部分では
絵里の女性としての包容力が感じられ、直斗が惹かれたのも当然だ…という風に納得しました。

この夜の気持ちが…、二人にとって永遠のものですね…(〃▽〃)

そうだねぇ……

ヒカルさん、こんばんは!


>直斗と絵里の関係が複雑ですねぇ・・・
 大地のママであるけれど、絵里だって人間だもん。寂しいよね・・・

そう、自分が母だけではないのだということを、思い出させたのが
直斗なんですよね。もちろん、直斗も絵里との出会いで、初めて感じた
思いがあるわけで……。

この話はここからが本題! と言ってもいいくらいです。
今までは、それぞれの環境、感情を知ってもらうためにあったということかも。

楓も亘も、ここから変わり出します。
それは……続きを読んでね!

何度も、何度も……

eiko.aさん、こんばんは!


>againのお話の中でも、この22話が一番好きです。

うわぁ、ありがとうございます。
全話を書いていく中で、頭に浮かんでから、一気に書ける時と、書いてから何度か見直す時と、
書いても、書いても気に入らなくて、結局全部書き直す時とあるんですが、
この22話は、書き直した回数が両手の指を使うくらい……の回なんです。

その分、こうしてイメージが伝わってくれると、『やったぁ!』と嬉しくなるのです。

一人になり、母親としての自分しか出してこなかった絵里が、
それ以外の自分の気持ちと向き合うんですよ。もちろん直斗も、見えなかったものが見えて……。

なんだか、ついこの間の連載のような気がするんですけど、語ってしまった(笑)
とっても嬉しいコメント、ありがとう……