【S&B】 27 彼女の過去

      27 彼女の過去



店を閉め、母と三田村は並んでお好み焼きの準備を始めた。アイツはおとなしくリビングの椅子に

座りテレビを見て、僕は奥のソファーに座り、会長がOKをくれた書類のチェックをした。

三田村と母の3人なら、こんな状況も悪くはないが、ふと体を動かされるたびに、

僕の視線はアイツを確認する。


「すごいですよね……祐作さん。僕より1つ年上なだけなのに、ビー・アシストの主任だなんて」


アイツは体を僕の方に向け、心の奥に微塵もなさそうなことを平気で言った。

三田村は心配そうにアイツを見た後、すぐに僕の方を向く。


「どうなのかしらね、主任って偉いの?」

「いや、別に。学校の班長みたいなものだよ」


母の問いかけに僕はとりあえずそう答えた。自分自身のポジションが偉いのかなど、

考えたことはない。そもそも誰を基準にして決めているのかもわからないし、上には上がいる。


「あ!」


冷蔵庫をのぞいた母が大きな声を出し、明らかに僕を呼ぶので、書類をしまい立ち上がる。


「ねぇ、祐作。ソースがなかった。ちょっと買ってきてくれない?」

「駅のスーパーでいいの?」

「そうそう」


話を聞いていた三田村が、自分が行くと財布を出そうとした手を、アイツが止める。


「俺が行きますよ。なんだか座っているだけじゃ申し訳ないですし、いいよ望、お金ならあるから」


アイツはズボンのポケットを軽く叩き、財布が入っているのだとアピールした。

そんなアイツの仕草を見ながら、三田村はいつ破裂するかわからない爆弾がそこにあるように、

心配そうな表情を浮かべる。


「いいわよ、浩太君、お米も買ってきてもらいたいの。ね、祐作。重たいから買ってきて……」

「米?」

「うん……」


パッケージの特徴を聞き、僕は靴を履き玄関を出ようとドアノブに手をかけた。


「じゃぁ、俺は何か飲み物を……」

「ビールならあるのよ。それじゃダメ?」

「色々飲みたいかなぁ……なんて」


どうしても僕と出かけたいのか、アイツは立ち上がり、すぐ横で靴を履き始めた。

初めて見た耳にはピアスがあり、たばこを吸うのか、強いにおいが鼻に届く。


「何もかもいただくんじゃ、遠慮がちになりますから。飲み物を提供して、
ガツガツ食わしてください!」


心配そうな表情の三田村を残し、僕とアイツはエレベーターに乗った。

鼻歌でも歌っているのか、左足でトントンと床を叩き、アイツは楽しそうにリズムを取る。

ほんの何秒かで扉が開き、僕は先に下り前を歩いた。


「なんだか俺、あなたに嫌われているようですね。別に何もしてないと思うんですけど」


何もしていない……。そう、確かに僕に対して、何かをしたわけではないが、

三田村の怯えるような目を見る度、怒りが込み上げてくるのだ。


「初めて会った時、彼女を突き飛ばしたところを見たもので、イメージが悪いのかもしれないですね」


僕がそう言いながら前を歩くと、抑えたような笑い声が後ろから聞こえてきた。


「本気で望とからむつもりですか……エリートさん」


どこまでも人をいらつかせる男だと思いながら、僕は振り返る。

アイツは僕の横に並んだところで立ち止まった。少し斜に構え、目を向ける。


「君にあれこれ話す必要があるとは思えないけど。彼女とどう関わりを持とうが、僕たちの自由だ」


僕たち……、三田村は君の方側ではなく、僕の方にいるのだと、強調するように告げる。

アイツはそんなセリフをあざ笑い、今度は少し前を歩き出す。

僕はその斜め後ろを歩きながら返事を待った。


「望は大事ないとこですからね。エリートさんのお遊びにつきあわされるんじゃ困るんだ。
会社を辞めることになったって言うから、そうかそうかと思ったのに、
あんたが余計なことをしてくれて……」


ポケットに両方手を突っ込んだまま、アイツは本当に迷惑そうに言った。大事ないとこと言いながら、

あんなふうに突き飛ばし、扱いがずいぶんだと思いながら、もう一度抜き返す。


「大事ってどういう意味だ」

「望には貸しがあるんですよ。それを返してもらうまでは俺も鬼にならないとね」


はじめて見かけた時から感じた妙な威圧感と、嫌な雰囲気がもう一度僕の心に絡みつく。

別々に会計を済ませ、帰り道は無言のままエレベーターに乗った。

メガネをかけない三田村を見た時から、彼女には何か過去があるのではないかと思い始めたが、

僕が想像していた以上に辛いものがありそうで、さらに想いは深くなる。


「あ……そうだ。せっかくお会いできたんだ。記念に差し上げましょう。もう、今は配ってない
レアものらしいですよ。エリートさんにはわからないかな……。まぁ、わからなかったら望にでも
聞いてください。どんなところか」


アイツはそう言いながら、両手に荷物を持った僕のスーツのポケットに、何かを入れた。

かすかな感覚が、手紙などではない固形を示す。


「でもな……望に聞くと、泣いちゃうかもしれないから、気をつけてくださいね」


一人で好き勝手に話しているアイツは、何か知っているそぶりを見せながら、

わざと隠しているように聞こえた。エレベーターが5階で開き、先に僕が下りる。


「もう一度だけ言いますよ。望は大事ないとこなんだ……適当なお遊びなら、
今のうちに引いてくださいね」


アイツはそう言うと、嫌な男の顔から、気のいい三田村のいとこへと変貌した。

自らドアを開け、調子よく中に入る。材料を刻み終えた三田村が、テーブルに皿を並べながら

すぐに僕を見た。不安そうな顔を見せたら、彼女がさらに辛くなりそうで、僕はすぐに笑顔を見せた。





荷物を母のところに置き、僕は臭いが付くからと奥の部屋へ行き、上着を脱ぐ。

アイツが入れたものをポケットから取り出し見てみると、それは客に配る100円ライターで、

どんな店かすぐにわかるイラストと、電話番号が書いてあった。


アイツの言うことを全て信じれば、このライターと三田村の過去が結び付くわけで、

胸の中がざわざわと騒々しくなり、乱れず進もうとしていた心の足並みに、

自分自身でストップをかける。それと同時に、アイツの適当な誤魔化しに、心が乱されるのも悔しく、

僕は大きく息を吸い込みライターをポケットに入れ、リビングへ向かう。





「じゃぁ、お母さん同士が姉妹と言うことなのね」

「はい、そうなんです」


アイツは母に気を遣いながら、自分と三田村の関係を説明し始めた。三田村の両親は

彼女が幼い頃に離婚し、母親は自分の実家である家へ戻った。そこには家を継いだ

アイツの母親家族が住んでいて、その1室を間借りし、母親と三田村は生活し始めた。


「望と僕は2つしか違わないので、幼い頃から本当に兄妹のように育ったんです。
両方とも母親が働いていたし、よくトランプしたり、テレビゲームしたり……な!」

「うん……ねぇ、コウちゃん、私達の話はいいよ、そんなに……たいした話しじゃないし」

「そうだけど、別に隠すことじゃないだろう」


友達とバンドを組んでライブハウスなどに出演しているというアイツは、人前で話すことが

苦手じゃないのか、身振りを交えて楽しそうに過去のことを語る。少し前に僕に見せていた

挑戦的な視線はどこにも感じられず、人のいい30手前の男がそこにいた。


「望は苦労してるんですよ。だから、幸せになってもらいたくて、ついついあれこれ言って、
俺、嫌われてるんです。東京へ来たんだから、もっと連絡をしあおうって言うんですけど、
連絡するのは俺ばっかりで……」

「あら……」



『望には貸しがあるんですよ。それを返してもらうまでは俺も鬼にならないとね』



三田村に対する貸しがなんなのか、まだ僕にはわからなかったが、彼女の辛そうな表情だけは

何度も確認することが出来た。あのライターを渡す店に、三田村はどんな過去を持っているのか、

知りたい気持ちと、知りたくない気持ちが僕の中で交差する。



『望は大事ないとこですからね。エリートさんのお遊びにつきあわされるんじゃ困るんだ』



遊び……。そんなことを考えたことなどない。真面目な三田村に対して、僕も真剣に

気持ちを近づけてきたのだ。しかし、見せられた過去の予想外の色に、どう対処していいのか

正直、気持ちが揺れた。





28 届かぬ想い へ……




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コメント

非公開コメント

子どもかよ!

まさか、如何わしい店?で働いていたのかしら。v-12
親の借金の為に・・・うわ~~妄想掻きたてられるv-406

「エリートさん」なんて言うところが、自分を卑下してる感じでヤダね。
態度を見てると望より年下みたいなのに、祐作と一歳違い。大人になって無いのね。v-205

そういうやつ……いません?

yonyonさん、どうも!


>まさか、如何わしい店?で働いていたのかしら。
 親の借金の為に・・・うわ~~妄想掻きたてられる

創作から妄想を取ることは不可能なので、あれこれ考えてちょうだいな(笑)v-391
浩太、嫌なやつでしょ。でも、いるよ、こういう男。
いろんなことを、他人になすりつけていくやつ!e-262

まぁ、その辺のことは、後々(笑)


いやぁ~な 奴

前回の嵐より 今回の方が心配です! なにを してたんでしょうか。悪い事ばかり浮かんで来ます。早く(いやいやゆっくりで)次回が待ち遠しヨン!

ごめんなさい!

anyonnさん、お返事が遅れてごめんなさい!


>なにをしてたんでしょうか。悪い事ばかり浮かんで来ます

だよね、そうなんだよね。
そんな三田村ちゃんの苦しい胸の内は、次回へ流れていきます。
引き続き、よろしくね!