17 心のつながり 【17-5】

【17-5】

特に急ぎの仕事もなかったため、

その日は定時で作業を終えると、着替えを済ませた。

財布や、免許証など、それぞれがあるのか軽く確認する。


「お先に失礼します」

「気をつけろよ」

「はい」


社長夫妻に頼みごとをした祖母はきっと、色々なものを抱えながら、

一人で待っているだろう。

バイクを商店街に向かわせて、祖母が好きな和菓子を探す。

いつも同じようなことだけれど、こんなことしか僕には思いつかなかった。

今日が特別な日だというのではなく、いつもと同じように過ごしていたい。


「あ、こんばんは」

「こんばんは。これ2つとあと……」


その他にも、お店のお勧めをいくつか購入し、僕は家へ戻る。

階段を上がり、いつもと同じように扉を開けた。


「ただいま」

「お帰り」


いつもと変わらないやり取りなのに、祖母の顔が少し緊張しているように思えた。

ここに戻ってくるだろうかと、心配していたように見えてしまう。


「ばぁちゃん、今日は早く仕事が終わったからさ、ほら、お土産」

「土産?」

「そう、これは大好きな栗羊羹。で、こっちが、お店のお勧めだって」

「……うん」


本当の親が誰であろうと、僕の戻る場所はここしかない。

僕は靴を脱ぎ、和菓子の袋を祖母に渡すと、食事の支度が整う部屋を抜け、

自分の部屋の襖を開ける。


「ばぁちゃん」

「何?」

「ごめんな、心配かけて」

「歩……」

「今日、奥さんと社長に話を聞いた。
事故の報告書を見てからさ、なんとなくそうなのかなとは思っていたんだよね」


しんみりしないように、重くならないように、

僕は精一杯明るい声で、事実だけを告げていく。


「……ありがとう」

「歩」

「ばぁちゃんがいてくれたから、僕はひとりにならなかった」


事故が起きた日。

ただあまりにも突然で、悲しくて悔しくて、泣くことも出来なかったあの日から、

無言で反抗してばかりの僕を、ずっと支えてくれていた。


「これからも、ばぁちゃんは僕のばぁちゃんだから。それは変わらないから」


もう届かない二人への思いは、祖母に少しでも返していきたい。

血などつながっていなくても、心はしっかりとつながっている自信がある。


「今日はね、歩の好きな、揚げだし豆腐をしたよ」

「うん、すぐに食べるよ」


僕は襖を閉め、大きく息を吐く。

ガスレンジで、カチカチと火がつく音がして、少しすると炊飯器を開ける音がした。





次の日、祖母は嬉しそうにバッグを手に持ち、友達との旅行に出かけていった。





「よし、休憩にしよう」


その日も午前中の仕事を終えて、栗丘さんの声がした。

僕は手袋を外し、手を洗う。


「ちょっとコンビニに行ってきます。何か買ってくるものありますか?」

「コンビニ? 珍しいな、弁当ないのか」

「はい。今日から祖母が友達と3日間旅行へ行ったので」

「へぇ……」


赤石さんに風邪気味だからとマスクを頼まれた僕は、工場を出て、店へ向かう。

歩いて5分ほどの場所にあるコンビニでは、同じように昼食を買いに来た人たちで、

賑わいを見せていた。

始めはお弁当でも買おうかと前に立ったが、

どれを見ても祖母のものより食欲がわかない。

棚にあった『明太子』と『鮭』のおにぎりを手に取り、

レジ前に置いてある『おでん』をいくつか容器に入れる。


「874円です」


千円札でお釣りをもらい、それをポケットに押し込んだ。

店員に『お気をつけてお持ちください』とアドバイスをされ、店を出る。

行き交う車を何気なく見ていたら、『MORINAKA』のロゴが入った営業車が、

1台目の前を通り過ぎた。

僕は思わず振りかえり、運転席を確認する。

誰なのかはわからないまま、車はすぐに視界から消えた。



『目障りなんだよ』



拓……

僕の亡くなった母と、伯父が兄妹のため、付き合いが続いているけれど、

血縁関係にないことを知ったら、あいつはどう思うだろう。

僕が落ちていた小石を軽く蹴ってみると、側溝の穴にちょうど入っていった。



【17-6】

過去と向き合おうとする歩。
そして、また新しい風が吹き始め……
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