18 分かち合い 【18-2】

【18-2】

『パール』は少し構えながらも、笑顔に安心したのか近付いていく。


「真っ白でかわいいですね、何犬ですか?」

「あ……これは雑種です。捨てられていたので、どういう犬種なのかもわからなくて」

「まぁ……でも、お父さんかお母さんはきっと……」


その女性は、耳の形から『柴犬』の血が混じっているのではないかとか、

持論を展開してくれたが、連れていた犬が前へ進もうとするので、

挨拶だけをしてすぐに別れた。



『お父さんかお母さん』



『パール』の、顔や体の色々な部分は、『親』の特徴を持っているだろう。



『振り返っても仕方がない』



『親』というキーワードが出てくるたびに、そう思おうとするのだが、

知ってみたいという興味心だけは、どうしても抜けていかない。

無邪気に飛んで歩く犬の足運びを見ながら、僕は気持ちをそらせようとしたが、

結局出てくるのは、ため息ばかりだった。





仕事という作業が終了しても、実習生という立場の生田は、解放されなかった。

今日一日、どういう仕事をして、何を学んだのか、

学校に提出しないとならないレポートがあるらしく、

デスクの前に座り頭を抱えている。


「あぁ、くそぉ……」


僕はそのイライラ感を視線の隅に感じながら、今日もホームページを確認する。


「後藤さん」

「何」

「椎名さん、そろそろ来ますかね」


時計をみると、確かに椎名さんが来る時刻に近付いている。


「さっさと書いて、さっさと帰れ」

「それって、邪魔ってことですか」

「あのなぁ……」


先日、飛び込みで修理を依頼された小さな板金工場の社長さんから、

お礼のメールが入っていた。

急な故障の対応をした僕達に、感謝の言葉が並び、

同業者の人たちに、『半田自動車整備』が丁寧で親切な企業だと、

宣伝してくれたことも書かれてあった。

僕は、これは明日、みんなに読んでもらったほうがいいと考え、

コピーをすることに決め、用紙を印刷機に挟むとボタンを押す。

頭を抱えている生田の目の前から、1枚の紙がゆっくりと出始めた。


「ん?」

「なぁ、生田も読んでみろよ」

「なんですか」


生田は用紙を手に取ると、もらった文面に目を通した。

その後、軽く鼻で笑うと、用紙を僕の方へ持ってくる。


「……ったく、この会社の人も、うちの親父と一緒ですよ」

「どういう意味だ」

「何を信じているんだか」

「は?」

「だってそうじゃないですか。世の中合理主義なんですよ。
今では大型店舗がどんどん幅を利かせてきているんです。修理もやるけれど、
車も、部品も売って、多角経営しなければ、成り立たないんです」


生田はそういうと、椅子に座り足を組んだ。

確かに、言うとおりの部分はあるだろう。

車検にかける時間も、インスタント食品並に速いことを売りにする店もある。


「こんなもの、一時の感謝で終わりですよ。次の仕事が来る保証もないですからね。
昔ながらの丁寧さを売りにする工場なんて、いずれ経営できなくなります。
まぁ、化石くらい貴重なのかもな、この工場の人たちは」

「化石?」

「重要文化財と言った方が、かっこいいですかね」


生田は、自分の親は、できのいい長男をしっかり大学に生かせ、

家業とは別の職に就くようにしたくせに、

自分には跡を継ぐようにとしつこく言うのだと語りだした。

僕は話を黙って聞き続ける。


「わかっているんですよ、本音は、もう、こういった商売がなくなるってことを。
だから、将来有望で、優秀な兄貴には、別の道を歩ませた。
だってね、あふれる才能が埋もれるじゃないですか」

「お兄さんはいくつなんだ」

「俺より2つ上です。東京で大学を出て、『大手』で活躍してますよ」

「ふーん……」


生田は消しゴムを手に持ち、何やら少しずつ消し始めた。


「まぁ、次男の俺は勉強あんまり得意じゃなかったし。
車が好きだからとりあえず継ぐだろうって、まったく」


生田は、東京に出てきたら、色々と楽しいことが見つかって、

勉強をおろそかにしていたのだと、そう話しだした。

本来ならとっくに卒業して、家業を継いでいる予定だったが、

倍の時間をかけてしまったらしい。


「それでも、ご両親はお前が戻ってくるのを、待っているのだろう」

「待っているというか……まぁ、そうすればかっこつくと思っているんでしょ」


生田は頭の後ろに両手を回し、天井を見上げるように体を斜めにした。


「お前、何か他のことがやりたいのか」

「他のこと?」

「うん。家の仕事ではなくて」

「別に……夢も希望も、何もないですから」


『夢』と『希望』

口に出すのは簡単だけれど、現実は確かにそううまくつかめないだろう。


「そんなことを言ってしまう後藤さん、もしかしたらこの仕事に夢と希望でも?」


生田がそう問いかけたとき、事務所の扉がガラガラと音を立てた。



【18-3】

会えなくなったから、思い出は綺麗なのだろうか。
時間を振り返りながら、歩は今を歩き出す。
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