19 親子の絆 【19-1】

19 親子の絆


【19-1】

『不幸を背負っている』



生田が器用だという現実を見て、ふと思い出した幼い頃の記憶だった。

今は、親とすれ違いがあっても、過去の思い出の中に、

『愛情』を感じる場面があったはずだと、つい余計なことを口にしたのかもしれない。



『親は偉大だ』



そこまでの思いはなくても、生田と語ることで思い出す親の話。

どこかで亡くなった二人と、確かにつながっていたという記憶を、

僕が探していたのかもしれない。



愛されていたという記憶を、必死にたどろうとしていたのかもしれない。



『なぜ、僕はここにいるのか』



気にすることではないと、頭では思い続けているのに、

心はまた別に、動き出そうとする。



僕は誰もいなくなった事務所の中で、空いてしまった心の場所を、

どう埋めていくべきなのかと、考え続けた。





部屋に戻り、前に見つけた『献血手帳』を開く。

何度見ても血液型は、『O』型。

僕が正式にどういう状態で、後藤の家に来たのかはわからない。

社長の奥さんが知っていたのはここまでで、応援を頼んでいた祖母も、

おそらく同じことしか知らないのだろう。

僕がどういう経緯で、この家で過ごしてきたのか、他に知っている人がいるとすれば……



森中哲治



母は、2回の流産を経験したと、奥さんから聞いた。

だとすると、僕が母の本当の子供ではないことを、伯父は知っていたのではないか。



封印しようとしていた大きな箱は、少しずつ重たい碇から外れようと、

気持ちの波に揺れ続けた。





祖母は、友達との旅行が楽しかったからなのか、

抱えていた秘密の重荷から解放されたからなのか、

以前にも増して、元気に動くようになった。

冬になり、寒さもこたえるだろうに、今朝も僕より1時間も早く起き、

弁当箱にご飯を詰めている。


「おはよう……寒いな今日」

「何言っているの、歩は若いんだから、体を動かせば大丈夫だよ」

「はいはい……」


わかってはいるけれど、ついコタツにもぐり込みたくなる。

新聞を広げ、特にこれというあてもないまま、目に入った記事をいくつか読んだ。

暦が12月に入ったこともあり、今年の総決算的な話題が、あちこちに登場し、

そういえばこんなことがあったなと、その時何をしていたのかという自分の状況も、

一緒に思い出された。


『パール』を拾って、遥さんと出会ったこと。

境遇の違いに最初は身を引くつもりだったが、そうしたくない気持ちとの葛藤で、

苦しい日々が続いたこと。

『TEA』さんと偶然に知り合い、コンサートを通して、

仕事に誇りを持つことを教えてもらい、そしてその思いが、

また一歩進む結果を導いてくれた。



『TEA ホワイトブリザード』



社会面の一番下に、

とあるホテルの『クリスマスディナーショー』のお知らせが載っていて、

一番隅の場所に、『TEA』さんの名前が書いてあった。

11月に、アメリカに一度戻ると言っていたけれど、

こうして日本でのコンサート情報が載るのだから、また戻ってきているのだろうか。



『仕事に誇りを持っている?』



あの日、そう問いかけられて、すぐに返事が出来なかったけれど、

『TEA』さんの歌と、言葉が、僕の気持ちを奮い立たせてくれたことには間違いない。

忙しいのだろうが、どこかでコンサートがあるのなら、

遥さんと一緒に、見に行って見たいとそう思う。

初めて『スレイド』を訪れた日は、思いがけず伯父と会うことになり、

半分不安を持ってしまったが、今回は……



『あぁ……あの日、そうか、遥さんと……』



そういえば、拓からの急なFAXが届いた後、伯父は工場に頭を下げに来てくれた。

遥さんが僕を好きになってくれたことを知った伯父の言葉に、

奥さんは二人の気持ちが確かにあるのだから、

認めて欲しいとエピソードを並べてくれた。

伯父はその話を聞き続け、その中で『TEA』さんの話が出て……


あの日、僕を見た伯父が驚いた顔をしたのは、

てっきり遥さんといたからだと思っていた。

でも伯父は、遥さんといたことに、気付いていなかったようなことを言っていた。


だとすると、あの日、伯父はなぜ僕を見て驚いたのだろう。

僕自身の……何か……


「歩、座っていないで、運んでちょうだい」

「あ……うん」


僕は新聞を閉じようとしたが、慌てて元に戻し、

『TEA』さんのチケット予約の番号を携帯に控える。

どこかで休みが取れるだろうかと、スケジュールを考えた。



【19-2】

親と子のつながりを知るたびに、会えない人への思いは募る。
歩は、遙の笑顔に励まされ、さらに一歩前へ……
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